★ハロウィンSS

「えっと……、とりっく・おあ・とりーと! です!」

「…………」

 

 ハロウィンなので、わたしは仮装をしてグレンさんの元に突撃した。

 かぼちゃの帽子とか、小さいシルクハットくらいでいいんじゃないかと思っていたけど、ベルに「もっと気合を入れましょうよ!!」と全身プロデュースされてしまった。

『星の魔女っ子』がコンセプトの魔女ルックは、スカイブルーと紫のグラデーションのベロアのような布地、スカートの裾や胸元辺りに星をイメージさせるガラス玉みたいなのがたくさん縫い付けられている。

 そして頭はとんがり帽子にサイドテール、髪には星の形のキラキラのアクセサリーがついている。

 スカートが短いしスースーする。最初すごい高さのヒール付いたニーハイブーツが用意されてたけど、ヒール履いたことないからぺたんこのニーハイブーツを用意してもらった。

 こんな短いスカートはいたことない。脚はニーハイブーツでほとんど隠れてるけど恥ずかしい。すごく恥ずかしい。

 

 しかもグレンさんは時でも止まったかのようにノーリアクションだ。なお恥ずかしい。消えたい。

 しばらくして彼は口を開く。

 

「えー……、どういう、あれなんだこれ?」

「ど、どういうあれ、と言いますと」

「その、最初に言った謎の呪文みたいなのとか」

「トリック・オア・トリートですか」

「そうだ。それって、一体何だ?」

「え、ええと……あのう、ハロウィンといって、い、古の秋のお祭りなのです」

「いにしえ。」

「はい……ええと」

 

 隊長室のソファーにゆったりと腰掛けているグレンさんに、直立不動でハロウィンの説明をさせられる星の魔女っ子、18歳。

 まるで職員室に呼び出されて先生に説教される生徒みたいだ……。

 恥ずかしい恥ずかしい、今までこんなハジケたコスプレしたことなかったのに。

 ていうかなんでグレンさん、そんな反応薄い??

 その格好かわいいな! とかそんなのないの~!?

 大人だからなんとも思わないのかな??

 

「なるほど。菓子をやればいいんだな」

 

 あらかた説明を終えるとグレンさんは納得したようだ。

「は……はい」

「パントリーにいっぱいあるから取っていけばいいぞ」

「う……うう」

「? どうした」

「ひどいひどいひどいんですよー! なんで大真面目に応対するんですかー!? お菓子を事務的にくれればいいわけじゃないのー! そういうんじゃ、ないのー!!」

「ええー」

 

 拳をブンブン上下に振りながら地団駄を踏むわたしにドン引きするグレンさん。

 

「いや……そもそもコンセプトが分からなすぎるんだが」

「コンセプトは『星の魔女っ子』なの!!」

「へえ……いやそっちじゃなくて、ハロウィンのコンセプトが」

「なんですって!?」

 

「「…………」」

 

「えー、ハ、ハロウィンのコンセプト……でございますか」

「ああ。……まあ、星の魔女っ子の前ではなにかもどうでもいいが」

「ち、ちがいます……星の魔女っ子は、わたしじゃなくてベルが考えて……。えっとハロウィンのコンセプト? というか目的はですね、お子さんが『お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ』って、それ見た大人が『わーかわいいおばけ! これを授けよう~』って言ってお菓子をくれるっていう極めてホンワカしたアレでして、そのーあのー」

「ふーん……星の魔女っ子には何をあげれば」

「星の! 魔女っ子を! 連呼! しないで!! もおおおおおホントに死ぬほど恥ずかしいんですから――!!」

 わたしがグレンさんの胸板をボコボコ叩くと、彼は耐えきれないといったようにクックックッと笑った。

 

「というか、この格好について何かコメントないんですか!? ノーリアクションは悲しいんですが!」

「うん? ああ、かわいいぞ。その横で髪括ってるのとか、横にちょっと髪垂らしてるのもかわいいな。レイチェルはいつもギチギチの三つ編みばかりで、もっと色んな髪型すればかわいいのにと前から思ってた。スカートがちょっと短いけどそういう派手めなキラキラの服も似合うし、かわいい。あとニーハイブーツも正直好き――」

「やややや……やめてくださいっ!!」

「えー? コメントしろというからしたのに」

 

 そこまでストレートにかわいいかわいいコメントされると思わず、恥ずかしすぎて顔を覆ってジタバタしてしまうわたし。

 ていうか「ニーハイブーツ正直好き」って言った……!?

 

「――で、これ落とし所はどうしたらいいんだ? このままだと俺はレイチェルをいじめた罪として、ルカに滝行のごとく水をかけられる未来が待ってるんだが」

「う……あの、お菓子をください」

「分かった」

 グレンさんは隊長の机の引き出しから「ふかふか雪玉チョコ」を一粒取り出して、わたしに手渡してくれた。

「あ、ありがとうございます」

「で、このあとは」

「このあとは、ベルとわたしが作ったかぼちゃのスイーツでパーティーします。……あ、あのー、お祭りはノリを楽しむものですので、大真面目に確認されると……」

「いや、俺は無宗教だけどそういう行事について茶化したりするのは無礼だし、式次第は確認しておかないとと思って」

「し、式次第て……」

 

 謎に真面目――!

 

「もう一つ大真面目に確認したいんだが、『お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ』のイタズラの内容が知りたい。教えてくれ」

「え……」

「だから、レイチェルが俺にどんなイタズラを」

「いえ! お、お菓子はもらいましたから」

「もしかして考えてなかった? それは駄目だ、ちゃんと考えておいてくれないと」

「え、えええ……なぜダメ出しを」

「というか、俺があれこれといつ頃何をどうしようか画策して壁を打ち立てているのにそこを飛び越えてそのような格好でくるのはどういうつもりなんだ、俺のモラルとコンプラの壁はベニヤよりも薄いんだ気をつけてくれ」

「あ、え、は、はい……」

 独り言なのか、何がなんだかよく分からないことをブツブツと言ってさらにダメ出しされてしまった。

 

「あ、あの……怒ってらっしゃるわけでは……?」

「怒ってはいないしその姿はかわいい。終わり」

「あ、はい――」

 

 わたしが返事するとキスをされた。

 3回くらいされた後に、唇をまれた。そして頬にキスされ、首に彼の唇が伝う。

「――っ!」

 なんともいえない感覚に身震いしていると、彼がわたしの耳元に囁く。

「……あまり、大人をからかっちゃいけない」

「…………!!」

 

 そう言ったあと彼はニヤリと笑って「食堂へ行こう」と肩をポンポンとして促した。

 からかってないのに、むしろからかってたのは彼の方なのに。

 そう言い返したかったけど、できなかった。

 わたしは彼に促されるまま食堂へ。

 パーティーは楽しかったし料理もおいしかったけど、わたしの頭はパンク寸前。

 

 うう、ハロウィンとかいう古の祭、とてもおそろしい……。

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