4話 意識低い系パーティ

「お。早速作ってるのか」

「は、はい……」


 巨大なボールでおびただしい量のパンケーキの粉を混ぜていると、グレンさんがやってきた。

 ジャミルはひたすらパンケーキを焼いている。

 ――今、何枚目だろう……。


「何か手伝おうか」

「やめろ」

「えっ」


 わたしが何か言うより前にジャミルが冷たく言い放つ。

 

「アンタがキッチンのことやるとロクなことがねぇ。一切手出しすんな」

「ひどいなぁ……」

「何しにきたんだよ。メシはまだだぞ」

「ああ、明日とあさっての依頼内容言ってなかったと思って」


 言いながらグレンさんはふところから手帳を取り出し、読み上げ始めた。


(……わたしこれ聞いちゃってもいいのかな?)


 目線だけで見回してみたけれど、グレンさんもジャミルもルカも、わたしを気にしている様子はない。

 聞いててもいいみたい……?


「最初はアディントンまで手紙の配達。その次は、ヒースコートまで荷物の配達。で、次がリーネまで手紙の配達。ついでにヘインズの森で薬草採取」


(なんだか軽い内容ばっかり……?)


 その次の日の依頼内容も配達配達配達、薬草採取、配達、配達。それも近場の街ばかり。

 冒険者ギルドで依頼が貼ってある掲示板を見ることがあるけど、その距離でその仕事だとたぶん報酬も低いはず。

 わたしは月に20万。ジャミルやルカも同じくらい給料をもらっているとしたら、採算が取れているとはとても思えない。

 他の冒険者や傭兵団がどんな風に仕事しているのか知らないけど、これが普通とはとても……?

 

「レイチェル。次早く」

「えっ! あっ、うん」


 ボーッと聞いていたら手が止まっていたようで、ジャミルに声をかけられた。

 グレンさんは依頼を読み上げている。

 ジャミルはひたすらパンケーキを焼き、お皿に山積みにしていく。

 そのパンケーキをルカがじーっと眺め、ただただお腹を鳴らしている。


(誰も聞いてなくない……?)


 ――このパーティー、ひょっとしてすごく変なのでは……?

 

 

 ◇ 

 

 

「レイチェルー! お昼食べよー! ねーねー、どうだったの、初仕事は!」


 月曜日、メイちゃんがわくわくしながら声をかけてきた……けど。


「パンケーキとハンバーグだった」

「あ? 何それ??」

「んっとねー、パンケーキとハンバーグをず――っと作ってた」


 ジャミルに『冷凍できる食べ物を』って言われたから、1日めはパンケーキの粉混ぜてひたすら焼いて、次の日はハンバーグをひたすらこねて焼いて、それだけで終わった。


「あ、そう……なんかよく分かんないけど」

「なんかね、あそこのパーティー、配達の仕事だけをやってるみたいなんだけど変わってるよね?」

「ほーん。まぁ、そういうの専門でやってるとこもあるわね」

「……そうなの?」

「ん。郵便局っていうんだけど」

「……あはは」


 荷物と手紙の配達。宅配、または郵便配達。それも近場で。それって冒険っていう?

 

「冒険者のことってよくわかんないけど、配達オンリーって楽しいのかな~」

「まあ、駆け出しだとそういうのやったりするって聞くけどねー。そのうち摩訶不思議かつ奇妙な冒険に出る系じゃなーい?」

「摩訶不思議で奇妙……そうかなぁ……」

「ま、いいんじゃん? レイチェルが冒険に出るわけじゃなし。20万もらえるんでしょー? 適当にやっとけやっとけ」

「そうだね……」

 

 

 ◇

 

 

「あ……こんにちは」

「ああ」


 月曜日。今日も図書館の司書席にはグレンさんが座っている。


「あのー」

「……ん?」


 仕事中だけど、また話しかけてしまった。

 ――1回話しかけたら、次はけっこうアクション起こしやすいものなんだなあ。


「えと、グレンさん達は配達が専門なんですか?」

「ああ……そんな感じだな」

「ギルドには魔物退治とか、洞窟の探索とかもありますけど、そういうのは……」

「うん。そういうのはやらないな」

「やらないんですか」

「魔物討伐とか面倒だから。楽な依頼で気楽に過ごしたいんだ」

(えええ……)


 さわやかに駄目な発言をされてしまった。


「えっと、えっと、わたし、本当に20万とかもらっちゃっていいんでしょうか?」

「……それは大丈夫。俺、金持ってるから」

「ええええ……」


 ドン引きしてしまって、思わず声に出してしまう。

 「金持ってるから」って。それはそうかもしれないけど、そんな身も蓋もない……。


「君は料理を作ってくれればいいから、俺たちの冒険は気にしないでいい。……ああ、昨日作ってくれたハンバーグ、あれ美味しかったよ」

「あ……ありがとうございます」


 お礼を言うとグレンさんは伏し目がちにフッと笑った。


(ううう……)


 ――褒められて嬉しいし、笑顔かっこいいけど。

 どうしよう、かっこいいけどかっこ悪いよこの人……!

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