3.会社にて
「おはようございます」
ある日、会社に着くと事務所がざわついていた。こういう噂話をいち早く教えてくれるはずの川相さんの姿も見えない。
「なにか、あったんですか」
そっと隣の席の田中に聞いてみる。
「ああ、うちでも派遣切りだってよ。そんで、派遣が上にあることないこと暴露して揉めてるらしい」
「あることないこと…」
「なんでも、上の不倫事情だとかそういう系の話らしい」
「そうなんですか」
「ま、俺らには関係ないことだけどな。ほら、これ見て見ろよ。社内メールでバッチリ送られてきてる。これ見てみんな大騒ぎだぜ。これはこれで面白いけどさ、ちょっと顔がいいからって、所詮は使い捨てなのに立場分かってないっていうかそういうところが気に食わないよな」
「はぁ…」
その後も田中の愚痴めいた噂話は止まらない。田中は仕事ができるが故にプライドが高い。だが、顔が悪かった。それに小太りときた。女性社員からはバカにされていると、俺も川相さんから聞いていた。
面倒になって、適当に相槌をうちながらPCへ向かった。
メールボックスに新規メールを知らせるマークがついている。俺のところにも、そのメールが届いているようだ。たいして興味はないが、ひとまず開いてみた。
『1位になったら、現実も変わるって思ってました?』
心臓を鷲掴みにされたようだった。なんで知っている? どうして俺だと分かった? お前は誰だ? 思わず身震いする。慎重に辺りを見渡した。誰もが今朝の騒動を聞きつけてバタバタと色めき立っている。俺になんか気にかけている奴はいない。もう一度、メールに視線を戻す。
送信者はやっぱり川相里恵となっていた。このメールは一斉送信ではない。そこには胸を撫でおろした。ということは田中の言っている暴露メールとは別物だ。どうして俺なんだ。
「なんなんだよ…」
ふいにスマホが振動する。条件反射で手に取ると、紺野明美からだった。
『もう二度と連絡しないでください』
こっちでもか。一体何が起きているんだ。紺野明美は何を聞いた? 川相里恵から、何を吹き込まれた。
『どういうこと? 何かあったの? 理由を教えて欲しいんだけど』
既読はつくが返信がない。いつもなら即レスの紺野が返事をしない。
段々と鼓動が跳ね上がってくる。
川相里恵が一体俺の何を知っているというのだろう。でもあのメールは間違いなく、FORKのことを言っている。俺の配信に来るリスナーの中に川相里恵がいたのか? いたとして、俺のことを暴露する理由が分からない。俺が川相さんに何かしたか? 自身で思い当たる節は全くない。通常の同僚と同じように接していたはずだ。特別俺だけが攻撃される理由なんて見つけられようもない。
「クソッ…」
堪え切れずに悪態を吐くが何も変わらない。この何も分からない状況が、こんなにも不快だとは。川相さんでも、紺野でもいい。何がどうなっているのか、誰か、俺に教えてくれ。
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