第三章 敬語? んなもん、いらんいらん!

1.昨日よりランキング下がっちまった!

 昨日の配信は8位だった。一昨日より下がってしまった。今日こそは1位を取るべく、配信画面を開いた。


「皆さま、今晩は~。今夜もお集まりいただき、ありがとうございます……なーんて堅苦しい挨拶はいらねぇ! みんな好き放題騒いで行けー!」


 最初のセリフと共にまとまった数の課金アイテムが画面を埋めた。


 毎晩こうして配信をするようになって早一ヶ月。ランキング順位は上位をキープできるようになったが、なかなかトップの座は奪えないでいた。


「今日こそはみんなの力で俺をトップに押し上げてくれ!」


 ハキハキと少し高めの声を作って強く語りかける。


 この一ヶ月で、俺は配信者としてのレベルアップを果たした。有象無象の無個性な日常配信ではなく、一流の配信者になるべく、多少過激なことにも物怖じしない人気者に成り代わったのだ。その証明として、このFORKで一番を取って新しい風を吹かそうと毎日奮闘している。


 今までのようなつまらない毎日の悲喜こもごもや、傷の舐め合いをするような配信は辞めて、自分からリスナーの愛を勝ち取りに行くことに決めた。そのために、聞きやすい声のトーンだったり、固定配信だったり、話す内容だったりを変えてきた。


「今日もたくさんブーストしてくれて嬉しいねぇ、俺は幸せ者だわ。一番になって、このFORKに新しい時代を築くから、みんなついてきてくれよな!」


 さながら音楽ライブのような様相を呈し、歓声の代わりにコメントや課金アイテムが画面を埋めていった。


麗華

「今日は何するのー?」


「何しよっかなぁ。酒は今週も週末に呑んで配信するから、みんなも用意しておいてくれよな」


ななか

「今日も疲れたから元気ちょうだい」


黒夜/低音系ボイス

「ただのんは喉強いよな、うらやましい」


ふーみん

「もっと長い時間配信してくれたらいーのにー」


「え? 黒くん、俺そんな喉強くないし。すぐガラガラになっちゃうから、みんなに飴もらわないと声出なくなっちゃうかも」


 すかさず送られてくる大小さまざまなサイズの飴。


「俺も長い時間みんなと一緒にいたいんだけどね~、社会人の辛いところよ、若さも失っていくし、俺一生独身なのかなぁ、なんて」


ぴよち

「わたしが貰ってア・ゲ・ル」


月(るな)

「私、料理できるし、すごく尽くすよ」


カナコ

「ただのんと一緒なら毎日幸せだろうな~」


 俺の自虐コメにすかざず反応してくれるリスナーが可愛くて仕方がなかった。


 俺の配信は俺だけのもの。俺が気持ちよく、楽しくできればそれでいい。俺の好き勝手振る舞う様子に、リスナーも共感してくれてこうやって課金アイテムを投げてくれることが楽しくて幸せで仕方がなかった。


 今夜も笑い疲れて配信を終えたが、ランキングは伸び悩んでいた。トップ10入りは果たすものの、それ以上になかなか上がらない。


 俺の実力を示すためにも、あと一押しの打開策が必要だった。

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