7.アラサー男が酔っています
呉井心
「ハロハロー! どうだい? いい感じに酔ってるかい!」
「クレしんさんこんばんは~。なんか配信終わらせちゃった感じになってすいませんでした~。そんなに飲んでないんだけど、なんか酔いが回ってて~」
一応言い訳を用意して話した。声を出し、実際にしゃべってみると、思ったより酔っていることに気がついた。
「てか今更な質問なんですけど、クレしんさんて一体いくつなんです? 俺より年下な気がするんだよな~。最初に会った時から気になってて。声がなんか若々しいのに、俺よりしっかりしてる感じでうらやましいっていうかさ」
いちご
「これは、酔ってますね」
古美
「新鮮ですね」
児島
「普段見ない一面を見て、母性本能くすぐられる」
ねぐせ君
「児島さんて母性本能とかあるんだ…」
児島
「おいこら」
「あはははは。児島さんはさ、かっこいい女性像だよね。ノリもいいし、空気も読んでくれるし、俺はいいなって思うっす!」
話始めると、酔いが加速していく気がした。いつもと違い、目に付いたコメントだけを適当に拾ってリアクションをしていく。こんなに雑にリアクションしていいなんて、なんてラクなんだろう。
呉井心
「これは新しい一面だなw」
ぴゑんマン
「何を飲んでこんな酔っているんでしょうカ?」
「今日はビールです。ビールだけ。というかビールしか飲まないな」
手に持っていた缶を意味もなく振って見せた。そんなことをしても、画面の向こう側には見えないのだが。
呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を
「いよっ! どうだい、今夜もやってるかい?」
「ビールって、なんで買っちゃうんだろう。苦いだけで、そんなに美味いものでもなくないですか? なのに気づくと手に取っている…」
いちご
「呑兵衛さん、今晩は。初見さん?」
グングンぐると
「只野さん! 新しい人来てますよ!」
「あれ? あ、本当だ。呑兵衛さん、初めまして~。今日は酔っ払いなので、色々大目に見てくださーい」
呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を
「いいねぇ~、やっぱり酒飲みはこうじゃなくちゃな!」
「おじさん、そんな君に会えて気分が良いからこれをあげようじゃないの!」
「ありがとうございます。……えっ、やったあ! これ見てみたかったんですよ!」
画面には課金アイテムのモーションが躍っていた。呑兵衛さんがお酒をモチーフにした課金アイテムを購入してくれたらしい。
ふわふわとスマホ画面に漂うお酒のモチーフを見ていたら、晴れやかな気分になってきた。
呉井心
「ナイス~!」
ねぐせ君
「僕、お酒のアイテム初めて見た~」
ぴゑんマン
「祭りか!? 祭りなのか!?!? ぼくちゃんも便乗しようかネ!」
そしてまた漂う、別のお酒モチーフの課金アイテム。
「ぴゑんマンさんもありがとうございます! いやぁこれ、めっちゃ気持ち良い~。目にも楽しいしウキウキするね~」
黒夜さんみたいな人たちの配信で飛び交っていた量に比べたら全然少ないけど、それでも初めて課金アイテムをもらえたことにテンションが上がった。
「前に俺の配信に来てくれた黒夜さんていたじゃないすか。その人の配信とか、大手の配信とか聞きに行って、ものすごい数のアイテムが飛んでて、すげーいいなって思ってたんすよ」
あれだけの金額を購入したくなるほど愛されるってどれほどだろうか。今だって、相当気分が良いのに。
いちご
「気持ちが嬉しいですよね」
古美
「たまに見るとやっぱ綺麗ですね」
呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を
「そんなに喜んでもらえるなら、おじさんもう少しがんばっちゃおっかな…!」
ペロ
「こんばんわ~。あたしもお酒飲んでます~」
月(るな)
「初めまして。良い声ですね」
呑兵衛さんがキラキラしたアイテムをどんどん送ってくれる。それに比例して、入室してくる人数が一気に跳ね上がった。
今までに見たことのない勢いで、初見さんが出たり入ったりしている。
「初見の皆さま、初めまして~。酔っ払いの只野人間です。ここにいる呑兵衛さんて方が課金アイテム色々送ってくれて、今めっちゃ最高な気分で酔ってるよ」
ねぐせ君
「初見入室が止まらない…!」
ちぇるりぃ
「なんのお酒飲んでるんですか?」
児島
「合わせて只野の酔いも最高潮」
グングンぐると
「祭りだワッショイ!」
堕天使TAKUMA
「今宵も酒の力に溺れた男がまた1人生まれてしまったか」
初見も常連も入り乱れて、酔いが回った頭ではコメントを追いかけることが難しくなってきた。
「あー、楽し。コンビニの安いビールだけでこんな楽しい夜が過ごせるとは思ってなかったわ~。新しいビール開けまーす!」
カッシュと音を立てて、次のビールを開けた。
さとし
「お! いい音!」
ケント(老け顔)
「イッキする? イッキする??」
ペロ
「あたしも次開けたぁ。カンパーイ」
古美
「イッキは辞めといたほうがいいですよ」
「はぁい、皆さんカンパーイ! そんなに若くもないので、イッキはしねえけどな!」
がはははと笑って一口喉を鳴らして飲み込んだ。
「っかぁぁ。この苦いのがクセになるビールよ。つまみがほしいけどなんもねーんだよなぁ」
部屋を見渡して何もつまみになるものがないのを確認した。
麗華
「近くなら作ってあげるのにー」
茶柱折れた
「ポテチとかないの?」
いちご
「只野さん、何本目です? 飲みすぎじゃないですか?」
「ポテチかー。スナック菓子はさっき食べ切っちゃったんだよね。近くに住んでる人いたら、まじで作って欲しいわ。それに人恋しい!とか言って~」
アルコールのせいだけじゃなかった、と思う。自分の中で、ストッパーになっていた何かが外れていくのが分かった。それをつけ直す方法も、戻す方法も、酔った頭では考えられなかった。でも手放した、この開放感といったら。
月(るな)
「どこ住みなんですか?」
麗華
「作ってあげたーい! 料理の腕は自信ある!」
グングンぐると
「いつもの只野さんらしからぬテンションですね~」
「住んでるところはさすがに教えらんないなぁ~」
そう答えてふと思った。酒の力を借りて、黒夜さんみたいなことやってもいいんじゃないか? というか今のこのテンションならいける気がする。
「そうだ! リアルにはつまみがないんだけど、FORKにはお酒もおつまみもあるよね? みんなと飲みたいから、それが画面を埋めたらいいな~」
児島
「只野、酔いすぎだぞ」
児島さんのコメントが出たあとに、少額のお酒やお菓子の課金アイテムが画面に上がってきた。
「おお~! みんなありがとう! めっちゃ楽しいし、嬉しいわ~。これは酒が進むねぇ~。どんどん飲んで騒いでいけー!」
いつの間にか夜は更けていた。常連の面々がいつ抜けたのか分からないくらいには酔っていた。初見さんたちとドンチャン騒ぎをして、仲良くなれた気がした。
この日、初めてランキングに載った。
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