6.オレの好みは喫茶店のクリームソーダ系女子

 帰宅してFORKを覗くと、クレしんさんが配信をしていた。クレしんさんの配信は久しぶりだ。ちょっと嬉しくなって入室した。


只野人間

「今晩は」


『お、噂をすれば只野さん! ハロハロ―! 仕事お疲れ~』


 ん? 俺の噂? 一体なにを話していたのだろう。


いちご

「只野さんこんばんは~」


古美

「お疲れ様です」


ねぐせ君

「噂の本人ご登場!」


アスマン

「そういうことってあるんですねぇ」


只野人間

「え? 噂ってどういうことです?」


『ふっふっふ。真面目で律儀な只野さんと、コンビニの泣き黒子の彼女をくっつけるための作戦会議をしていたのだよ!』


「えー」


 何を勝手に。まだ彼女とどうこうしたいとか思ってないのに。でも俺がいないところで俺の話題が出るのは、なんだか気分が良かった。


只野人間

「そうなんですね。僕のいないところでも色々考えてくださってありがとうございます」


『相変わらず真面目だね~! その真面目さ、ずっと持ち続けて欲しいわ』


 クレしんさんが割とガチトーンで言った。いつもおちゃらけてるクレしんさんとは全然違った声でビビった。


いちご

「泣き黒子の彼女と上手く行って欲しいですしね!」


児島

「自分の良さを見失わなければ只野は良い奴だからな。応援してるぜよ」


只野人間

「ありがとうございます」


 再度お礼の文章を打った。


 その後は他愛のないいつものバカ話が続いた。クレしんさんは学生時代にやらかした面白エピソードを話し、それにいちごさんが辛辣なツッコミを入れる。ねぐせ君の少し上滑りしたコメントを、古美さんが上手く落とし込んでくれる。児島さんやアスマンさんが時々コメントでノリに乗ったり、周りを諫めたり。


「ふふふ」


 なんのことはない、いつも通りの、クレしんさんの配信だった。それまでの毎日となんら変わらない、親友の家に遊びに来たような居心地の良さだった。


 いざこざや過剰な煽りや型にハマったテンプレートタイプの配信ではない、一人の人間がそこにいるんだなと分かる配信。


「でもなぁ」


 このモヤモヤはなんだろうか。「刺激」だろうか。居心地の良さに滲んでくる「慣れ」だろうか。


 いやいや、これは完全に飲みすぎだ。ほどほどにしないと明日の仕事に差し支える。最近の配信生活で誰かと話すことに慣れてしまった俺は、この一人飲みの時間を持て余しているのだろう。きっとそうだ。


只野人間

「クレしんさん、すみません。一人飲みが進みすぎたので、一足先に失礼しますね」


『待って待ってー! 只野さん飲んでるの? それめっちゃ面白そうだから配信してよ!』


「えっ?」


 予想外のコメントが返ってきた。


古美

「只野さんの酔ったところってどんななんでしょう?」


アスマン

「普段が真面目ですからね。想像がつきませんね」


ねぐせ君

「おもしろそうですね~!」


「まじか」


 これをみんなに素直に話してみるのもいいかもしれない。なんたって酔っている。何とかなる気がしてきた。


只野人間

「わかりました。酔っているのでいつもと違う感じになっても見捨てないでくださいね」


『見捨てるわけないじゃーん! んじゃ、そういうことでみんな只野さんの配信に再集合ね! バイバイキーン!』


「ふう…」


 深呼吸をして、水をコップに一杯飲んだ。


 酔っての配信は初めてだ。どんな感じになるか、ワクワクと不安で自分の配信画面を開いた。

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