5.お前たちの本気が見たい

『おい、お前らの本気はそんなもんか? 俺を一位にさせるならまだまだ足んねえよ』


 入室して早々違った洗礼を受けた。


 この前配信に来てくれた黒夜さんの配信に来てみたのだが、今までのどれとも違うスタイルだった。


只野人間

「今晩は。この前は配信来ていただいて、ありがとうございました」


たぴ

「今日もSっ気がよき」


Misa

「ブーストするよお!」


キャンディ*よしぴの彼女

「きゃんちゃんもがんばるう」


 俺のコメントは一気に流されていく。ものすごい数の人数が配信に出たり入ったりしているようで、枠主はいちいち気にしていないようだ。


『きゃん、もっとやって。俺のこと好きだろ?』


すうちゃ

「すうちゃもいるもん」


どん

「ねー、名前よんで」


みーたん

「はぁ、イケボつら」


 コメントに反応するのも、課金ブーストというものをしようとしている人を煽っているだけで、特に中身のある会話をしているわけではなさそうだ。


 場違い感がMAXだった。


 FORKを始めたその日にとんでもないところに来てしまった、と感じたこのアウェイ感は久しぶりだった。


『お前ら、俺を一位にさせたいんならもっと投げろよ。今から一番投げた奴には好きなセリフ言ってやる』


 そう黒夜さんが言った途端に、画面がものすごい勢いで流れて課金アイテムが飛び交った。


「すげー……」


 飴やハートやリボンや応援コメントの数々。どれも高額な課金をしないと贈れないようなアイテムばかりだ。


『あれ? もう終わり? こんなんじゃ俺は満足できないんだけど』


 アイテムの波が途切れたところを見計らって、さらに煽る黒夜さん。


 同時視聴人数が30人を超えて、リスナーの俺でさえ何が何やら分からない。


 人の名前やコメント、そして課金アイテムがどんどんどんどん記号に見えてくる。これがたくさんの人から愛される証拠なのか。


「…すご」


 たかが数人のリスナーが来てくれただけでテンパってしまう俺とは大違いだった。


 クレしんさん、いちごさん、古美さんにねぐせ君。最近では、ぴゑんさんや児島さん、ぐるとさん…。毎日楽しくおしゃべりして、時々やってくる初見さんに一喜一憂して、晒す価値もないような日常を切り取って話して。これはこれですごく楽しい。今までの自分の生活にはなかったことだし、顔や名前を知らなくても友達と呼べる間柄になれたこともすごく大きかった。


 でも。


「俺の配信でこんなのできたらすごいだろうなぁ」


 そう、今までの行き来している配信では、こんなに課金アイテムが飛ぶことはなかった。どうやったら、これだけ課金してくれるようなリスナーさんを捕まえられることができるのか。どんな配信スタイルにしたら、どんなタイトルにしたらこうなれるのだろうか。


「配信巡りするか」


 黒夜さんの配信を抜けて、それっぽい配信タイトルの配信を手当たり次第入って勉強することにした。


 入っては抜け、抜けては入り、次々と配信を巡って漂流していると、それまでにはなかった価値観が俺の中で出来上がっていくような気がした。

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