4.アラサー男がこんばんは

黒夜/低音系ボイス

「はじめまして」


「あ、初見さんですね! はじめまして、只野人間です」


 いつもの通りに常連さんたちと他愛のないおしゃべりをしていたら、初めての人が入ってきた。


呉井心

「おっ! 初見さんだ! ハロハロー!」


いちご

「えっ、すごいファン数ですね」


小島

「ほんまや。これは大手」


「えっ…? あ、ホントだ。すごい。大手の人が僕なんかの配信に来てくれるなんて、感動です! あと、アイコンがイケメンすぎて眩しいです」


 アイコンをタップするとその人の簡単なプロフィールと、ファン数が見れることをこの前教えてもらったばかりだった。


「僕のファン数なんて、まだ20人もいかないですよ〜」


ぴゑんマン

「課金ブーストすれば、只野クンでも上位にいけるんだじぇ~」


グングンぐると

「比例してファン数もえぐい増え方しますよ!」


「課金ブースト?ってなんですか?」


黒夜/低音系ボイス

「大手なんてそんな大したもんじゃないっすよ」

「昨日の配信でも1万円くらいしか飛ばなかったし。実質5000円なんてハシタガネっすね!」


「えっ? えっ!? もらったアイテムって換金できるんですか? てか、そんなにリスナーさんから愛されてるなんてすごいじゃないですか!」


黒夜/低音系ボイス

「一番すごい時は一回の配信で10万くらい使うリスナーがいたんだけど、最近アイツ来なくてさぁ」


呉井心

「只野さん、それは愛されてるってのとは違う気がするぜ!」


黒夜/低音系ボイス

「それより最近はTwitterの欲しいものリストからブランドの腕時計とか、靴とかくれた方がいいんだよね」


レミア

「レミアも欲しいものリストからプレゼントをもらったりするよ~」


「そんなものもあるんですね~。知らないことばっかりだなぁ。勉強になります~」


 知らなかった。換金できることも、人気者でも有名人でもない普通の人間、それこそ「ただの」人間が、見知らぬ人からお金やプレゼントをもらえるなんて。


ねぐせ君

「すごい自慢してくるじゃないですか、この初見さん!」


黒夜/低音系ボイス

「だからここの人たちも、俺に貢献してくれていいよ」


児島

「ありえねえ」


「まぁそれはみんなの考えることですから、強要はしないでもらいたいですけど。でも、なんかすごくないですか?」


 FORKを始めて、新たな出会いや気心の知れた友人たちとおしゃべりしたりすることが醍醐味と思っていたが、こんな形での愛情表現もあるのか。


「あ、黒夜さん落ちちゃった」


呉井心

「塩まけ! 塩!!」


いちご

「なんかむかつく」


ぴゑんマン

「ザバーーーーー、ザバーーーーー(塩をまく音)」


グングンぐると

「やべえやつだった!」


「あはははは、皆さん落ち着いて」


 一気に流れていくコメントに思わず笑ってしまった。


ねぐせ君

「ああいうのは一回痛い目見た方がいいんすよ~」


古美

「自慢げに話しているところが憐れですね」


児島

「只野さん、すごいって連発してたけど、あんなの真似したらいかんぜよ」


「いやぁ~、でも純粋に、それだけリスナーさんと距離が近かったり愛されてるってことなんじゃないんですか? そんな見ず知らずの人間に課金アイテム投げるだけでもすごいのに、プレゼントまでなんて」


呉井心

「だ!か!ら! 愛されてるってのとは違うって!!!」


古美

「愛されてるってのは今の只野さんみたいなことを言うんですよ」


児島

「虚構を売って、虚構を得ているだけだ。そこにはなんもねえぞ」


いちご

「児島さんの言う通りだと思う」


「なるほど、そうなんですね。皆さんのお話、ホント勉強になります!」


 その後も、やれ大手がどうだの、イケボやカワボがどうだのとみんなでガチャガチャはしゃいでいた。俺はというと、やっぱり黒夜さんみたいな人の愛され方は分かりやすくていいなぁと考えていた。


 呉井さんのような愛されキャラもいいが、黒夜さんのような人気者っぷりも捨てがたい。というか羨ましい。言葉よりも一回の行動が勝ることもある。


 ズルズルとそんなことを考えていたら、深夜になってしまった。

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