3.アラサー男の進捗状況

「いや~、レジが彼女にならなかったんですよ~」


 その日、俺はリスナーさんに向かって言い訳をしていた。


「彼女のレジになったら話しかけようと思ったんですけど、やっぱりそうそう上手くはいかないですよね~」


呉井心

「なんだよー! 期待して待ってたのにー!」


ねぐせ君

「とか言っちゃって、ホントは彼女のレジだったんじゃないですかぁ~?」


児島

「只野さんみたいな人間がそれはないだろう」


ぴゑんマン

「いやいや分からないですよ~ボクたちに嘘をついている可能性もなくもなくもない話ですからっ!」


いちご

「ちょっと、ぴゑんマンさんのはどっちなの」


 それぞれのリスナーさんがリアクションのコメントを打ってくるのを眺めていた。それだけで、なんだか自然に頬が緩む。


「残念でしたよ~。あ、でもね、大きな発見を僕は見つけたんです…!」


呉井心

「お? なんだなんだ?」


古美

「話しかけなかっただけで、アイコンタクトはとった、とかでしょうか」


グングンぐると

「まさか彼氏といちゃついている帰り道をみてしまったとか…」


「違いまーす! 皆さんに言われるまで、雰囲気で彼女のことを眺めていたんですけど、先日はよーく見てみたんです。そしたらですね、なんと彼女には泣き黒子があったんです!」


 得意げな顔をしていたに違いない。ニンマリと口角が上がったことに気がついた。


いちご

「え、只野さん、ちょっと変態的」


ぴゑんマン

「泣き黒子が嫌いな男がいるものかッ!!!」


呉井心

「それはナイス発見!」


児島

「いちごちゃんの言う通り、ちょっと見すぎじゃない? レジ打ってもらったわけでもないんだろ?」


古美

「男のロマンですね」


児島

「おいおい、古美くんまで…」


「いや、そりゃもちろん、ジロジロ見てたわけじゃないですよ! こう、棚の影とかから、そっと伺っていたんです」


 誰に見えるわけではないのに、ジェスチャー付きで返答してしまった。そんな自分の動きに気づいて、苦笑いした。


いちご

「もっと変態的ですよ」


レミア

「只野さんがそんな人だと思わなかった」


ねぐせ君

「おおっ! 只野さんが女子メンバーから酷評されている!」


グングンぐると

「珍しいこともあるもんですね!」


呉井心

「いや、只野さんだからこの程度で済んでいるんだよ」


古美

「そうですね、きっとクレしんさんがやったらもっと罵詈雑言が飛び交うでしょうね」


「あはははは」


 思わず笑ってしまった。自分が真面目なキャラクターとして愛されていることもそうだが、FORKにおける各々のポジションをよく理解しているんだなと思った。現実でも起こり得ることだが、ある程度定まったキャラクターの域を出ないように自分で自分の行動を縛るものだ。それが意識しているかどうかは別だが。


「クレしんさんはそれだけ、皆さんに愛されてるんですよね。だって普通暴言なんて言われないじゃないですか」


ぴゑんマン

「クレクレしんしんは心が広い、イイ男♪」


呉井心

「只野さんありがとう!!! ぴゑんマンには言われても嬉しくねえ!!!」


 その後はクレしんさんと俺の違いについて、常連さんが盛り上がった。俺のことを拾ってくれたのはクレしんさんだから、あんまり悪いように言いたくはないけれど、キャラクターなのだろう。いじられて、それをものともせずにみんなの輪の中心にいる。


 かっこいいな、と思った。真面目キャラだなんて言われているが、リアルには真面目なところんなんて……。


 そう思うものの、楽しかったなぁとふわふわした気持ちを抱えて眠りについた。

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