2.今日はどんな1日だった?
俺はドキドキしていた。
いつもの朝、いつもの仕事、いつもの帰り道、そしていつものコンビニ。
「はぁぁ~」
いつも通りじゃないのは俺のメンタルだった。昨日の配信でリスナーさんに言われたことが脳内を駆け巡っていた。確かにちょっと可愛いなとは思っていたものの、あんなに反響があるとは思わなかった。
そのせいで、何も始まっていないのになぜだか緊張する。向こうは俺のことを認識しているかも怪しいのに。
普段は寄り付かないお菓子コーナーで、商品を選ぶフリをしながらレジの方を盗み見た。夕方のこの時間帯だ。割と込み合っている。カウンターの向こう側でテキパキと仕事をしている彼女がいる。
「これ新商品の激辛スナックじゃん! 売ってて良かった!」
「何? お前、辛いの苦手じゃなかったっけ?」
「苦手だけどさ! これネットでめっちゃ話題になってんだよね! Twitterにアップしようと思ってさ!」
視界の端から手が伸びて、ちょうど俺の目の前にあったスナック菓子をつかんで消えた。和気あいあいとおしゃべりをしている高校生の背中を見ながら、考えた。
ネットで話題になっているのなら、これをきっかけに話しかけてみるのはどうだろう。「これ話題のお菓子ですよね。このコンビニにもあってよかったです」なんて言うのは結構言えそうなセリフじゃないか…?
買い物カゴにスナック菓子を入れ、棚を移動した。飲み物と、弁当を物色しながら、華麗にレジをさばく彼女を見る。
肩くらいまでのストレートの黒髪が、彼女の動きに合わせてサラサラと揺れている。大学生くらいなのだろうか。俺よりは若い感じなのに、なんというか、落ち着いている雰囲気があって好感が持てる。
「今日の夕ご飯何? …冷やし中華? あー今日暑かったもんな。さっぱりしてていいな。甘いもの何かいる? …うん、……うん、わかった。買って帰るよ」
通話しながらのサラリーマンは新商品のシュークリームを手にして、さっとレジへ向かった。
確かに今日は暑かった。俺も冷やし中華を手に取ろうとしたが、先に選んでいたスーツ姿の女性の方が早かった。ラス1の冷やし中華を手に去って行ってしまった。
冷やし中華の口になっていたのに、この持って行き場のない感覚をどうしろというのか…。
もうなんでもよくなって、麻婆丼をカゴに入れ、俺もレジに並んだ。
片方のレジは彼女が、もう片方はおっさんがレジを打っている。どちらに当たるかは運次第だ。
―――――
「れみたんぷるぷる」の配信を聞いて元気を取り戻していた。残念ながらおっさんレジだったのだ。今日は運がなかった。
今日の収穫は、彼女にうっすらと泣き黒子があることを発見したことだ。それなりの期間、あのコンビニに通っていて見ていたはずなのに、今日初めて気づいたことだった。思ったより適当に他人のことを見ているんだな、俺。
「でも、いいな」
新たな発見に少しだけ胸が躍り、何かが始まりそうな漠然とした期待が、心の中に棲みついた。
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