6.おひさ*ちょっとだけ
帰宅後の新しいルーティンができつつある。スマホを取り出して確認してみると、いちごさんが配信をしていたので、さっそく入ってみる。
只野人間
「こんばんは」
『只野さん、今晩は! うちの配信来てくれるのは初めてですね~。おしゃべり楽しみましょ』
初めて聞いたいちごさんの声。ちょっと高めで幼さも残るような澄んだ声だった。ねぐせ君がアイドルと言っていた理由が少し分かる気がする。
アスマン
「いちごちゃん、配信久しぶりじゃない?」
『うん、そうだね。最近学校が忙しかったんだぁ』
いちごさん、学生だったのか。忙しい合間に俺の配信にも来てくれたなんて嬉しいな。
呉井心
「ハロハロ―! 俺が来てやったぜ!」
『あークレしんいらっしゃい。相変わらずのうざさだね』
ふふ。いちごさんは自分の配信でもクレしんさんに手厳しいな。長い付き合いがあることを感じさせるやり取りだ。
ちゃちゃ
「この時期テストとか色々あってだるいよね~」
『そうそう、レポートも出さなきゃだし、バイトもあるしでめっちゃ忙しいの~』
只野人間
「レポートってことは、大学生なんですか?」
『そうだよ~。って言っても短大だけどね。保育士さん目指してるんだ。応援してくださーい』
ニコッと微笑んだのがわかるような言い方につられて俺も微笑んでしまった。夢や希望に溢れた、充実した学生生活を送っていることが分かる。
カシュッとノンアルビールを開けて一口流し込んだ。
呉井心
「いちごはオレにだけは厳しいんだから。でもそれは愛情の裏返しだってオレは知ってるゾ☆」
ちゃちゃ
「この前いちごちゃんに教えてもらったカフェ行ったよ!」
『ちゃーちゃん、ほんと!? あそこめっちゃいいでしょ~』
ちゃちゃ
「うん! 雰囲気すっごく良くて、ゆっくりできたよ! ありがと!」
呉井心
「オレはコーヒーよりサイダー派かな~」
ねぐせ君
「久しぶりのアイドル枠…!!!」
『ねぐせ、いらっしゃい~。おひさ』
ゆるゆると独特の空気が癒される。仕事の疲れがこういうもので取れていくとは知らなかった。常連さんばかりで、落ち着いた雰囲気なのもありがたい。若い子だからもっときゃぴきゃぴしているのかと思ったけど、今時はそうでもないんだろうか。
ノンアルビールを飲みながら、聞こえてくる声や流れていくコメントを眺めていて、不思議だなぁと感じた。
平日のいつものノンアルビールと、いつものコンビニ弁当。模様替えも掃除もしていない自分の部屋。なのに、なんだか違って見える。
ワクワクすることや楽しいことからこんなにも離れていたのか。ちっぽけなアプリのちっぽけな交流で、密度が変わっていることに気がついた。それが違う景色を見せているのかと思うと、誰も居ないのに一人で苦笑いしてしまう。
物思い、というほどでもない感慨に耽っていたら、いつの間にか配信が終わっていた。
急に空っぽになってしまった乱雑な部屋を見て、次の週末は掃除をしようと決めた。
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