4.1日おつかれさまっ【もぐりん◎

 この週末、どっぷりFORK漬けだった。暇があれば誰かの配信を聞き、要望があれば自分も配信をしていた。


 時間を気にすることなく、友達と遊んでいる感覚だった。


「おはようございます」


 いつもの月曜日より少しだけ晴れやかな気持ちで出勤した。日常は何も変わっていないのに、新鮮な気持ちで職場に来たのはいつぶりだろう。


「おはようございます。なにか良いことでもありました?」


 派遣の川相さんがニコニコしながら、コーヒーを淹れて来てくれた。


「えっ? 私、そんな顔してました?」


「ええ。いつもより楽しそうに見えたので、この週末に良いことあったのかなって」


 そんなに変化があるのだろうか。少し照れ臭くなった。


「いやぁ。特に、いつも通りの週末でしたよ」


「そうなんですね」


 川相さんはそう笑顔で答えて、自分のデスクに戻っていった。


 たるんでいるんだろうか。


 パシパシと軽く自分の頬を叩いて、仕事にとりかかった。



―――――



「お疲れさまでしたー」


 つつがなく仕事を終え、職場を後にする。


「疲れたなー」


 ボソリと呟きながら、コンビニの明かりを目指す。


 ほぼ毎日通っているコンビニだが、店員がいつも固定だ。俺が寄る時間には50代くらいのおっさんと、高校生くらいのお兄ちゃんが2人、そして俺と同じくらいか、少し若いくらいの女の子がいる。


 レジの向こう側から聞こえてくるハキハキとした声を背に、商品を選んだ。


 月曜日から飲む気にもなれず、ノンアルのビールと簡単なつまみ、弁当を持ち、レジに並ぶ。他にも仕事帰りや学校帰りなどの客で賑わっている。


「今日のテストどうだった?」


「俺は90点以上は確定だよ! 絶対! 自信あるし!」


「お前そう言ってこの前のテスト、赤点ギリギリだったよな…?」


 学生の話す会話が聞こえてきた。テストか。なんて懐かしい単語だろう。


「ああ、今朝は悪かったよ。アイス買って帰るよ。何がいい?」


 あのサラリーマンは電話している。彼女か嫁とでも通話しているんだろうか。


「あー、それじゃないよ! いい加減オレの煙草覚えてくれよ~」


 レジではおっさんが店員に絡んでいる。コンビニの店員と言えどラクじゃないんだなぁ。


 FORKを始めたからか、妙に他人の会話が気になった。耳から飛び込んでくる情報が、頭の中で錯綜している。


 俺は先週まで、どうやって過ごしていたんだろう? そんなに周りを見る余裕がなかったんだろうか? いや、それより興味がなかったのか。


 思ったより、人は色んなことを話しているんだな。


 そんなことを考えながら、弁当が入ったビニール袋を提げて自宅へ帰る。


 早速FORKを開き、適当な配信に入る。


『初見さんどーもっ』


 「れみたんぷるぷる」という意味の分からない名前の配信者だった。しかし思ったよりも普通の学生で、レポートが大変だの、今年の夏は海に行きたいだの、だらだらと一人で話していた。


 特にコメントは打たず聞き流しながら弁当を食べ、苦いジュースを飲み干した。

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