3.はじめまして

「ふぅ~」


 だいぶ緊張している。さっきは呉井さんに乗せられて、勢いでこうして開始してしまったが、本当に来てくれるのだろうか。


 このまま誰も来てくれなかったらどうしよう。というか何を話したらいいんだろう。話題、話題……。まずは自己紹介だろうか。でも何を言ったらいいのか分からない。


呉井心

「ハロハロ―! 宣言通り遊びに来ましたよっと!」


「あっ、呉井さん!」


 良かった。心細い気持ちが一気に緩んだ。


「来ていただいてありがとうございます」


呉井心

「いえいえ~。初配信は緊張するっすよね~!」


いちご

「お邪魔します」


「あっ、いちごさんも来ていただいてありがとうございます」


いちご

「素敵なお声ですね。たくさんおしゃべりしましょ~」


呉井心

「それにしてもホントいいセンスしてますよ、その名前!」


「ええ~? いちごさん、ありがとうございます。初めて言われました」


「呉井さん、ありがとうございます。僕、無個性な人間なんで、なんかないかなって思って。それで変換で出てきた漢字そのまま使ったんですよ」


古美

「先ほどはどうも」


ねぐせ君

「こんばんはー!」


「あっ、古美さんにねぐせ君さんも来ていただいてありがとうございます」


「全然しゃべり慣れていないのですが、お手柔らかにお願いします」


いちご

「クレしんは只野さんみたいなネーミングセンス大好きだよね」


呉井心

「オレの好物過ぎて、うちの配信来てくれた時にまじで興奮したよね」


ねぐせ君

「僕のことは『ねぐせ君』でいいですよぉ!」


古美

「そのうち慣れていきますから、大丈夫ですよ」


いちご

「只野さんはどうしてFORK始めたんですか?」


ねぐせ君

「あっ! それ僕も気になる!」


呉井心

「オレはなーんか楽しそうだな!って理由だぜ☆」


古美

「呉井さんには聞いてないですよ」


いちご

「クレしんうるさい」


ねぐせ君

「只野さん大丈夫ですか~?」


 すごいコメントをたくさん打ってくれる。考えている間に進んで、上手く入っていけない。


「あっ、ごめんなさい。なんか、僕もリスナーのつもりで皆さんのやり取りを読んでいました。これを読みながらおしゃべりするんですよね。ちょっと、難しいな」


呉井心

「大丈夫大丈夫! すぐ慣れるって!」


いちご

「コメント少しゆっくりにしましょうか?」


古美

「最初のうちはコメントを読み上げて、それに対してリアクションするのがやりやすいと思いますよ」


ねぐせ君

「コメント読み上げbotは初心者向け~」


「コメント読み上げbotってなんですか?」


いちご

「上の方とかだと、コメント流れるのめちゃめちゃ早いから、それをひたすら読んで笑うだけの人とかもいるんですよ」


呉井心

「全部声に出して読まなくたってリアクションすりゃいいのにな」


「そうなんですね。勉強になります」


呉井心

「只野さん、カタいカタい!」

「もっとフランクに行こうぜ! 楽しまなくちゃ!」


古美

「私は只野さんのその真面目そうなところが好感持てますけどね」


いちご

「私も只野さんのきちんとしてる感じ、好きですよ」


ねぐせ君

「アイドルが! 初見の只野さんに傾いてる!」


いちご

「ねぐせうるさい」


「…ふふっ」


 気兼ねなく、純粋に会話を楽しんだのはいつぶりだろう。思わず笑ってしまった。


呉井心

「おっ! やっと笑った!」


古美

「笑ってくれると安心しますね」


「いや、だって皆さん面白いですもん。僕、こうやって誰かと話して笑ったの久しぶりです」


ねぐせ君

「これからもっと笑わせるから覚悟してくださいよっ!」


呉井心

「お? ねぐせ、言ったな? 只野さんのこと爆笑させろよ?」


いちご

「そうだそうだー!」


古美

「言質は取りましたからね。ね、只野さん」


「はい、きっとすごいのをねぐせ君は用意してくれるんでしょうね。僕、すごく楽しみです!」


呉井心

「ほらほら~、ねぐせ~黙ってないでなんとか言えっ」


ねぐせ君

「静かにしてください。今僕は自分の走馬灯を見てるんです。あぁ~死んだおばあちゃんが川の向こうで手を振っている…」


いちご

「つまんな」


古美

「逃避ですね」


「あははは」


 居心地がいい。まだこの人たちのことを何も知らないけど、じんわりと俺の心に染みるものがある。最初にこんなに話しやすい人たちに出会えてよかった。


 笑いながら夜が更けていくのは、久しぶりだった。

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