2.人気の配信をのぞいてみよう!

 悩んでいた2週間はなんだったのか……。あっけなく登録が済んでしまった。


 アイコンも自由に変えられるようだ。名前が只野人間なのだから、それっぽい画像がきっといいだろう。


 PCで画像検索をかけてみる。


 ……「人間」で画像検索したら大変なことになった。人体模型的な画像を想像していたのに、とんだグロ画像だ。大人しくいらすとやで人体模型の画像を引っ張ってきた。


 さて、登録は済ませてみたものの、どうするか。


 ズラッと並ぶサムネとタイトルの数々。何が何やら分からない。名前を見ればいいのか、タイトルで選ぶべきか、それとも入りやすそうなサムネか。


 とりあえず目に付いた、トイカメラ風な風景の「びーちさんだる」という人の配信に入ってみることにする。特に意味はない。直感というやつだ。


『ただのにんげんさん、いらったぁい』


「ん?」


 入室しただけで、名前を呼ばれた気がする。というか「いらったい」ってなんだ?


海の家の店長

「只野人間さんいらっしゃい。ふわふわロリボイスが魅力のびーちさんだるの配信へようこそ! 気軽にびーちゃんと呼んであげてください。時々漢字が読めないおバカなところが可愛いので、そんなところに癒されてってね!」


ラムネのビー玉

「只野人間さんどーも!」


浮き輪

「今晩わ」


 なんだなんだ。一気にコメントが流れていく。


『ただのさん、よかったらびーちゃんに自己紹介してってね~。あとあいさつもしてくれるとびーちゃんうれしいなぁ』


 これは結構忙しいんじゃないか? というか自己紹介ってなんだ? 


只野人間

「はじめまして」


『それでね、昨日先輩を廊下で見かけて、めちゃめちゃうれしかったの~』


海の家の店長

「それは嬉しいね~」


浮き輪

「びーちゃんに見つめられる先輩まじうらやま」


麦わら帽子not海賊

「かわいすぎる、びーちゃんすき」


「うわぁ」


 つい声が出てしまった。俺のコメントは無視なのか。何を話しているのか分からない。それに、リスナーのコメントが脳死プレイ過ぎてテンションについていけない……。


 スッとその配信から抜けた。むにゃむにゃと舌足らずに話す配信者に、群がるその様子に耐えられそうになかった。


 いや、癒しを求めている人や、そういう声が好きな人や、カワイイビジュアルの女の子を想像できる余地がある人なら、いいのかもしれない。最初から強烈なパンチを食らってしまった。これはなかなか、すごいところに来てしまったんじゃないだろうか。


 いやいや、まだ1人の配信を覗いただけじゃないか。


 キラキラしている背景は避けて、デフォルトっぽい画像の配信者にしてみる。「呉井心」と書いてあるが、なんと読むのか分からない。


『只野人間さん、今晩は! いい名前のセンスしてますね!』


 良かった。普通の人っぽい。


『多分オレの名前読めないと思うんで、一応自己紹介しておきますね。呉井心(くれい はーと)と言います。呼ぶのもちょっと恥ずかしい感じだと思うんで、クレしんちゃんとかそんな感じで呼んでください!』


いちご

「初見さんだね! 只野さん、今晩は!」


ねぐせ君

「初見つかまえろ! クレしん、がんばれ」


古美

「只野さん、はじめまして」


只野人間

「はじめまして」


『只野さんはFORK始めたてっすか? どこか他の配信行ったりしました?』


 俺に話しかけてくれてる。なんだかちょっと嬉しい。名前も反応してくれたし、若くてチャラそうな声だけど良い人そうだ。


只野人間

「さっき別の人のところにいました」


『そっちはどうでした?』


いちご

「上の方とかだとカワカテ・イケカテとかかな」


古美

「洗礼を受けたかもしれないですね」


『上の方だとやばいよな~。あんな風になりたくね~』


 そう言って呉井さんは笑っている。アットホームな雰囲気に心が落ち着いてくる。アウェイ感満載のキャバクラから、顔馴染みの居酒屋に帰ってきたような、そんな安心感があった。


只野人間

「アウェイ感ハンパなかったです」

「色々教えてください」


『おっけーおっけー。いちご、定期ある? あとで貼っといてあげて。まぁまぁ只野人間さん、気楽に楽しみましょう!』


いちご

「はいはーい」

「出ている数字はアクティブ→聞いている人数

課金アイテムは右下のboxから。ハートの大きさで課金率がわかります

あとはひたすらおしゃべりを楽しんで!」


ねぐせ君

「いちごさん、仕事が早い」


古美

「マネもできるアイドル流石です」


只野人間

「ありがとうございます」


 シンプルな仕様だ。ごちゃごちゃしてないのが好感を持てる。


『オレの配信あとちょっとで終わっちゃうんで、良かったらこの後配信してみませんか? 只野さん。オレら暇だから、みんなで遊びに行くんで!』


いちご

「いいね~」


古美

「習うより慣れろ、ですね」


ねぐせ君

「初見さんにぐいぐい行くぅ~」


 突然の申し出にびっくりしてしまった。


 でもこの人たちが来てくれるならボッチ感もなくできそうだ。


只野人間

「ありがとうございます。やってみます」

「よろしくお願いします」


『おっけーおっけー! じゃぁみんな次は只野人間さんの配信集合でよろしく! バイバイキーン』


いちご

「おつかれさま~」


ねぐせ君

「おつ」


古美

「お疲れ様でした」


 パッと配信が終わってホーム画面に戻ってきた。1人目で挫折しなくてよかった。


 自分が配信する日が登録したその日とは思わなかったが、郷に入っては郷に従えだ。どうせ時間はたくさんある。


 恐る恐る配信ボタンを押した。

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