ツンデレ幼馴染 寧々宮檸檸 2



 ──寧々宮檸檸という少女にとって、その一ヶ月は我慢の連続だった。


 人生で最も辛かったことは何ですか?

 街角の街頭インタビューで、もしもこのような問いを投げかけられることがあった場合。

 恐らく、今の檸檸であれば一も二も無く「そんな無神経な質問を平気でしてくるあなたと今こうして出会ってしまったことでしょうね」と即答しかねないだろう。

 控えめに言って、そう確信できる程度には余裕を失っている。と、檸檸はそのように自己を客観視していた。


 長かった受験勉強もついには終わり、念願叶って華の女子高校生。


 本来であれば今ごろは、恋に友情に大忙しのキラキラ学園生活を送り、短くも貴重な三年間を一日たりとて無駄にはしないよう、何事にも全力で取り組み最高のを謳歌している。そんな予定だった。

 それがたとえ、実際には早々有り得ない幻想。夢見がちで、下手をすれば荒唐無稽とも評されてしまいかねないそんな未来予想図であったとしても。


 自分には未だ、有り余る若さと無限の可能性が備わっている。


 なら、かけがえのない十代後半の時を、到底無為になんて終わらせられない。

 夢見がちだっていい。恋に恋する乙女とバカにされてもぜんぜん構わない。

 誰もが羨み、そしてついやっかまずにはいられなくなる程の充実した毎日。


 それこそが、檸檸が何より求めて止まない『青春』の在り方なのだから。


 自分が幸福になるための努力もせず、ただ口を開けて餌が与えられるのを待つ雛鳥のような生き方は嫌いだ。

 身内に自堕落な性格の姉を持ったせいか、檸檸は小さい頃から成長するにつれて、自然とそういう考え方をするようになった。

 やるからには常に全力。自分から手を抜くなんて有り得ない。勉強も運動もオシャレも何だって上を目指す。もちろん恋だって。女の子ならそれは当たり前。


 ……別に、あらゆる面で他人より上でなければ気が済まないとか、そういうことを言うつもりはこれっぽっちたりとてない。世界には自分より優れた誰かが必ずいる。超えられないはいつだって間違いなく存在するし、人間だからときには何もかも放り出したくなる時だってもちろんある。


 けれど──最後に戦う相手はいつだって自分自身になればこそ、超えるべきは明日の自分だ。


 胸を張り、自分で自分に納得できるか。


 寧々宮檸檸は突き詰めるに、その一点を以ってどうしようもない程に他人よりも我慢が効かない人間だった。要するにこれは、そういう話でしかないのだとも思っている。


 ……我ながら穏やかでない性質なのは自覚もしているし、他ならぬ姉などからは「おまえの生き方は枸櫞クエンというより、むしろ蓬菊タンジーだろう」などと揶揄されたことすらある。


 枸櫞。すなわり檸檬レモンの花言葉には、おおよそ「熱情」だとか「忠誠心」などといった意味合いが含まれている。

 対して、蓬菊の花言葉は「抵抗」だの「わたしは貴方との戦いを宣言する」だのといった、実に負けん気に富んで強気なものしかない。


 “気性の荒いこのじゃじゃ馬め。少しは女らしい淑やかさを身につけろ”


 我が姉らしい実に遠まわしな皮肉だった。

 もちろん、妹の人格形成に誰より寄与しておきながら、いったい誰のせいでこうなったと檸檸としては憤懣ふんまんる方ないが、とはいえ世間一般でいうところのに満ち溢れた姉に対して、同じ土俵に立って張りあおうとしても結果は端から目に見えている。


 よって、いずれそう遠くない内に下剋上をと目論む妹としては、天然モノの宝石に負けぬよう、人工だろうと何だろうと使えるものは何でも使い、とにもかくにも切磋。自身の価値をより高めようと思うのは至極当然だった。


 そして、そんな檸檸だからこそ。

 十代半ばという若さにあっても、“自分にできることは当たり前のようにこなして且つ澄まし顔を保て”という、ややもすればいっそ最強の見栄っ張りとも呼べる信条ポリシーを貫いてこられたのである。


 ──だが。だがしかし……


(なによ。私だって、こう見えても女の子なんだから……!)


 戦う相手は常に自分。

 ゆえに、誰よりも負けを認めることは許されないと。

 当たり前のことではあるが、そんな風に絶えず生きていける人間は極稀だ。

 たとえ、その精神性がどれほど並の少女ではなかったとしても。

 やはり、寧々宮檸檸とて年端もいかぬ少女であるという、そういった側面が完全に消え去ることはない。有り得ないのだ。


 したがって、必然。


 人生ではじめてぶち当たることとなった『失恋』という壁を目の前にしたとき、檸檸は盛大に膝から崩れ落ちた。


 勉強も運動もオシャレも恋も。

 後悔などしないよう常に最高速であることを心掛け続けた檸檸は、スピードを出せば出すほどリスクが跳ね上がる自動車事故のように、それはもう見事に恋愛大破クラッシュしてしまったのだ。


 慢心も油断も、些細なミスとて犯したつもりはない。


 好意を自覚したのは保育園に通っていた頃から。

 家同士が隣で、自分の部屋とそいつの部屋には窓を開ければすぐ入れる。

 一般的に幼馴染と呼べる関係性であり、長い付き合いだからある程度の絆もある。

 他の女が知らない二人だけの過去。幼い日に交わした他愛のない約束。いつか大人になったら結婚しよう──なんて。


 そんな程度のことで気を緩めて、挙句ぽっと出のどこの馬の骨かも分からない女に大切な人を奪われる? まったくもって馬鹿げている。


 幼馴染だからこそ、檸檸は警戒を怠ることはしなかったし、アドバンテージを覆される可能性はそれこそそれが芥子粒ほどの可能性であったとしても徹底的に見逃さなかった。

 だって、他ならぬ自分は、をずっと何より大切に想ってしまっているのだから。

 みすみす奪われることを許してしまうそんな自分は許せない。

 女の子なら自分の恋は自分で守らないと。


 ゆえの──最高速。なればこそ、初速にしてトップギア。


 実際、檸檸のその姿勢はとても効果的だった。

 積み重ねた努力は檸檸を一人の女の子として以上に、凄まじい速度で人間的な魅力で満たしていったのだから当たり前である。

 周囲からの評価はうなぎ登りに上がっていき、それに見合うだけの成果も出しているから、プラス方向へのスパイラルは順当に加速していく。

 もともと器量の悪い方ではなかった、というのも実に大きな一因となった。

 よって、檸檸の心に広がる自信もプライドも当然それに見合う努力の裏打ちがあればこそ。


 全国模試順位一桁台。女子陸上全国大会出場。凄さを測る尺度としてこれだけ分かりやすいものがある程だ。


 ──だが。


「檸檸の気持ちは嬉しい。けど、その想いには応えられない」

「──へ?」


 幼い檸檸は知らなかった。

 幼馴染である自分が頑張れば頑張るだけ、輝くような称賛を浴びれば浴びるほど、片割れであるもう一人は暗くどこまでも落ちぶれていくのだということを。

 比較の視線はどこまでも無遠慮に注がれて、勝手に期待した挙句の果て訪れるこれまた勝手な失望──。

 女であるあの子があんなに努力しているのに、どうして男であるお前はそんななんだ。

 たとえ誰に言われずとも、それは男を苦しめる呪いに他ならなかった。


「苦しいんだよ……! お前といるとっ」


 結果、未だ若く年相応に未熟であるしかなかった少年は、仄かに敵意すら滲ませて寧々を拒絶する。


 まさに──愕然ショックという他にない。


 大切に育て続けた告白おもいを否定され、無残にも斬って捨てられた。初恋を成就させるために費やしてきたこれまでの努力が無為になってしまった──


 自分が失敗した理由。


 聡明な檸檸はそれにすぐさま気がつき、そして──分かってしまった。

 自分がこれまで犯した罪。大切な人を知らず知らず傷つけていたという、そのとんでもなさを。


 ──全国模試で十位以内に入ったって? すごいな、檸檸。

 ──え!?

 ──大会出場も決まったばかりなのに、いつも頑張り続けて……うん。ほんとうにすげーよ。

 ──べ、べべ別にっ、アンタなんかに褒められてもぜんぜん嬉しくなんてないんですけど!?


 フラッシュバックする幸福な想い出。

 けれど、それはもう片方にとってはまったく幸福などではなくて。


 ──檸檸はすごいなぁ。どうしたら俺もそんな風になれる?

 ──や、やーね。べっ、別にこれくらい、ぜんぜんすごくなんかないわよっ!

 ──……そっか。お前にとってはまだこれくらいなのか。いや! マジ尊敬するよ!


 幼馴染が笑わせる。

 結局のところ自分は一番大切なときに相手の想いに気づかなかった──否、気づこうとさえしてこなかった。

 それどころか、言葉の表面的な部分ばかり拾って、自分が聞いて嬉しいと思える言葉を彼が口にしてくれていると、そう本気で思い込んでいたのだ。


 ──だから。


(拒絶されるのは仕方がない。だって、私の自業自得だし)


 寧々宮檸檸は大好きだった彼の『運命』になり損ねた。

 そこに恋敵ライバルだとか何かの作為が差し挟まる余地はなくて、ただ徹頭徹尾どこまでも拭い難い自分自身の愚かしさだけがある。


 ──そう。だから、進学先の高校で別のクラスとなった彼とその彼女が、来る日も来る日もそれは楽しそうに談笑している様を遠目に眺めることになっても。たとえそんな辛い罰が与えられたとしても、甘んじて受け入れるしかない。

 自分が不幸になればなるほど好きな人が幸せになれる。

 これまで無神経にも奪い続けてきた代償として、これほどシンプル且つ相応な手段はないに等しいのだから。


(──でも)


 繰り返すようだが、寧々宮檸檸はまだ十代の多感な少女である。

 傍目から見て何事もそつなくこなしているように見えていたとしても、実際は水の中でジタバタともがきながら必死に窒息しないよう喘いでいるだけ。

 積み重ねた努力がなまじ同年代の平均を優に超えてしまっているがために、同い年が集まる集団環境の中では余裕を持っているように見えてしまう……というのが実態だった。

 ゆえに。


(もう……ダメっ! これ以上、ムリ……! ツラすぎりゅ──!!)


 人生初の大失敗。

 長年育んだ恋に待っていたのは勝利でなく、予想すらしていなかった極大の黒星。

 これがまだ勉強や運動面、身嗜み等の話であれば傷は浅かっただろう。

 努力も研鑽もすべては自分との戦いであると見切っている檸檸にとって、負けたのならそれは総じて自分自身への追い込みが足りなかったからだと結論できる。であれば、今度はより一層の負荷をかけて臨むまで。そういう思考のサイクルが既に確固として確立されているからだ。


 だが、今回のような積み上げた努力が逆に足枷になるというパターン。


 それは勝利や成功を尊いものだと信じて育ったな少女にとって、まるで思いもしてこなかった想定外。いやさ、常識の埒外だったと言っても過言ではない。

 敗北者の逆恨み。凡人の悲嘆。空を舞う鳥の視線と地を這う蛇の視線が交わらないように、『天才』にまつわるありがちな悲劇であると言うのは実に簡単だ。

 しかし、残酷なことに檸檸は決して世に言う天才などではない。それは身内の、実の姉にこそあたる。よって檸檸は、ただ最高速を持続させていただけの凡人に過ぎない。

 なぜなら、そうでなければそも告白が失敗に終わった卒業式の日に涙を零すことなどはじめから無かったのだから。


 我慢の限界が訪れるのは必然で。

 罪悪感に押し潰されながら自己嫌悪は繰り返され。

 もともとの性格が内向的ということもあって、檸檸は高校入学から一ヶ月も経たない内にだった。


 端的に言えば、ストレスで日がな一日中吐き気を催さない日がないという限界状態。


 そんな時に、もしも隣の席で自分と同じく不幸面を晒しているクソヤロウがいたら?


 答えはもちろん決まっている。

 そう──








「──慰めて。何でもいいから私を褒めて肯定して。でないとアンタにきずモノにされたって校内で噂ばら撒くから」


 チョココロネを食べ終わり、満足そうに一息吐いた直後だった。

 それまで屋上のフェンスに寄りかかりながら、目を細めてそれはもう至福といった様子で甘味を堪能していた寧々宮さんは、目の前で絶賛ゼェゼェ息を切らし中の僕へ向かって突如としてそう言った。

 そこに三分で買って来いという命令を本当に三分で成し遂げてみせた僕に対する労りだとか、ましてや罪悪感なんてものは一切なく。

 むしろ、こんな程度のことで息を切らすなんて貧弱ね、とでも言いたげな様子がひしひしと漂っていた(ちなみに屋上から売店までは五階ある)。


 僕は文字通り虫の息となりかけながらも、しかし他ならぬ寧々宮さんからの要求に応えぬ訳にはいかず、何とか顔を上げてその真意をうかがった。


「ゼェ……ハァ……っ、な、なぐさめ?」

「そうよ。ムカつくけど、こんなこと言えるのこの学校じゃアンタ以外にいないし、しょうがないでしょ」

「ちょ、ちょっと、ハァ……待って、っ」


 常識でしょ? みたいな顔でのたまう寧々宮さんに、僕は右手をあげてちょっとタンマを掲げる。

 そして一旦目蓋を下ろして、すぅっと深呼吸した。頭の中と呼吸を一度キレイに整えたかったからだ。


 ──事ここに至り、寧々宮さんが僕に愛の告白をするという線は疾うに消えている。馬車馬の如く働けと言わんばかりにパシられたことからも、それは火を見るよりも明きらかだ。

 自らのぬか喜びととんだピエロっぷりに思わず大地を殴りつけたくなるほど悲しくて仕方ないが、冷静になって考えれば下駄箱に入れられていた手紙にはただ屋上に来いとだけしか書かれていなかった。使われている紙もそこいらによくあるコピー用紙を二つ折りにしただけ。どう考えてもラブレターではない。


 だから、それに関してはもう別にどうでも良かった。気にするだけ傷は大きくなるだけだし、今さらこの世界の神様が僕にそんな抜け道を用意してくれるなんて有り得なかったのだから。


 問題は、そう。寧々宮さんの意図が何であるか。それが読めないことには話についていきようがない。


(やばいな。なんか分からないが急にピンチだぞ僕。なんか寧々宮さんいつにもましてキレてるし、雰囲気がちょっと深刻マジっぽい……)


 尖ったナイフのようでいてくれと願っていたツケが、まさかこんなにも早く取り立てられるなんて。

 冷や汗が自然と蟀谷を伝い落ちる。

 ああ、怒れる女子の宥め方とか、日常会話への返答さえ覚束ない僕にはハードルが高すぎるのだが。許されるならいったいどうすればいいのかググりたい。

 しかし、マジトーンで喋る女の子を前にスマホなど出してしまえば、最悪火に油を注ぐどころかニトロを突っ込む結果に終わりかねない気もする。あれ? そうなるとこれってもしかして詰んでるんじゃね?

 なんか噂ばら撒くとかサラッと脅されたような気もするし、オワタ? 僕のスクールライフもしかしてオワタ?


「──えっと」


 ダラダラと嫌な汗をかきながら困った僕は、とりあえず小物特有の上位者へおもねる心境そのままに言った。


「寧々宮さんはその、か、かわいいですよ……?」

「っ」


 ピクリ、震える寧々宮さん。

 が、しかし。


「ダメね。ぜんぜんダメ。もっと力強く断言するように言って!」


 かすかに頼りなさが滲み出てしまったからか、寧々宮さんは今度は細かい指示まで入れてアップグレードを要求してきた。

 その顔は至って真剣そのもの。


(な、なんだこれ。いや、マジでなんだこれ──?!)


 理解を超えた意味不明な展開に僕は恐れおののいた。

 が、生憎なことに助け舟を出してくれる人間や、懇切丁寧に状況説明してくれる誰かなんて周囲には誰一人としておらず。

 結果として、僕はそのまま言われるがままに寧々宮さんの要求を呑み続ける他なかった。


「ねっ、寧々宮さんはかわいい!」

「もっと」

「!? ね、寧々宮さんはキレイだ!」

「語彙が貧弱」

「っ──、あっと、その、寧々宮さんはいつも身嗜みに気を遣っていて、髪の毛からはいい香りがして「キモっ」──!? っぅ、スタイルだってモデルさんみたいだ!」

「次、外見を除いて」

「まだ言えと!?」

「当然でしょ? 傷つけられた分の責任は果たしてもらうんだから」

「ぐぅ……!」


 そうして、それからどれほど時間が経過したことだろうか。

 気づけば日も落ちて空には夕焼けと夜の狭間が淡いグラデーションとなって僕らを見下ろしていた。


「今日はこれくらいでもういいわ。海石榴の割には頑張った方でしょ」

「へ、へぇ……さいですか」


 慣れないことに全力を注ぐことを余儀なくされ、危うく精も根も尽き果てかけていた僕はそこでようやく安堵の息を零すことができた。

 大の字になって屋上に転がる。

 寧々宮さんの方はといえば、この謎の時間が始まってからというものただの一度たりとて表情を和らげることをしなかったが、最後にはどうやらとうとう満足してくれたらしい。

 いったいこの僕の何が不興を買ったのか、その原因はついぞ分からないままだった僕だが、どうあれ喉元過ぎればなんとやら。とにかく心の中では「やっと解放される」と喜びで一杯だった。

 しかし──


「それじゃあ、明日もコレやるから。放課後は忘れずに来なさいよ」

「……え?」

「言っておくけど、今日のはギリギリ及第点だから。明日からはもっとセンスを磨いてきて」

「……マジですか」

「マジよ。嫌とは言わせないから」


 去り際、寧々宮さんは愕然と口を開ける僕にそう告げると、元陸上部らしい健脚ぶりであっという間に屋上から走り去ってしまった。


「は、ははは……」


 空漠と漏れる渇ききった笑い。

 もはや自分がどういった感情に支配されているのか、それさえよく分からなかった。

 ただ、たしかなのはひとつだけ。


 寧々宮檸檸。


 恋に破れ失恋を引き摺る尖ったナイフが如き少女。

 僕がそう思い、勝手に『枠』へと当て込んでいた彼女はしかし──どうやらいつの間にか、完全にバグってしまっていたらしい。これはもう、そういうこととしか考えられない。


「…………」


 ふと、空を見上げた。

 うっすらと夜の群青が領土を広げている。

 星の輝きが僅かに瞬いたのを遠くに眺めながら、僕はその日、こりゃ完全に今夜は夢に出てくるなと。女の子という未知で得体の知れない生き物に対して、はじめて恐怖した。


 そして同時に、彼女がもしも失恋を切っ掛けにしてこうまでおかしくなってしまったのなら、恋って本当にそこまでしてする価値があるものなのか? と。


 思春期をより一層拗らせた。


「とりあえず、明日は逃げよう」


 たった数時間で一生分の辱めを受けた気がする。

 異性を臆面もなく褒めそやすとか、荷が重いんだよッ!!

 夜空へと溶ける慟哭の叫びに、けれど応えてくれる者は誰もいなかった。










 なお、次の日も普通に捕まったし、何なら逃げ出そうとした罰としてまたパシられた。


 僕と彼女の不思議な関係性がそして始まる。



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