中編
むかしむかしのそのまたむかし。
あるところに、くいしんぼうのおんなのことおくびょうなおとこのこがおりました。
ふたりはだいのなかよしでいつもいっしょにあそんでおりました。
いつでもいっしょなふたりはまるでほんとうのきょうだいのようにそだてられます。
あるとき、いつものようにおんなのこのいえでふたりがあそんでいると、おとこのこがとてもおいしそうなケーキをみつけたのです。
なんともいえないおいしそうなケーキに、おとこのこはおもわずひとくちつまみぐいをしてしまったのです。
つまみぐいされたケーキをみつけたおんなのこのおかあさんはふたりにたずねます。
「ケーキをつまみぐいしたのはだれ!?」
おんなのこのおかあさんはふだんはとってもやさしいけれど、おこるととってもこわいのです。おとこのこがこわくてじぶんがたべたのだといいだせずにいると。
「またあんたね!!」
おかあさんはくいしんぼうのおんなのこがつまみぐいしたのだとおもい、おんなのこをとってもおこりました。
ケーキをたべたのはぼくです。
おとこのこはほんとうのことがいいだせず、おんなのこはわるいことをしていないのにおかあさんにおこられてしまいましたとさ。
※※※
小休憩時間に早弁をしていても
ごはんを食べても誰にも何も言われない時間。
そう、昼休みです。
勿論、昼休みにも京さんはごはんを食べます。そんな彼女が向かうのは、私立
大きなお弁当を持参して食堂へ向かう京さんの足取りはとても軽う御座います。彼女にとって学校に居る間でなによりもお楽しみの時間であるのだから仕方ありません。
そんな彼女はただいま御一人様でありました。
食堂はみんなにとっても人気な場所のため早い者勝ちの壮絶なデスマッチであります、そこで、毎回彼女は一寸さんに場所を取るよう命令、もとい、お願いをしているのです。
引っ込み思案とはいえ、一寸さんほどの体躯から放たれる圧はなかなかのもの。場所を取ることに於いて、彼はとても優秀なのだそうです。
まさに女王様と下僕。
彼らの関係に口を出す人は誰も居ません。いえ、お節介焼きさんが口を出すことはあったのですが、
「一寸が好きでやってんねんからほっときぃや」
と、京さんが一蹴するだけでありました。
彼女がいないところで一寸に尋ねても、あ、尋ねた後で口元に耳を近づけても。
「好きで、やっとるから……」
としか言いません。
こうなってしまえば、さすがの
京さんと一寸さんの関係はきっとこのままも続いていくことで御座いましょう。それは、たとえ彼らが高校を卒業し、大学生になったとしても。
もしかしたらその後も。
そんな風に京さんは思っておりました。
彼女の中では確定事項なのでありましょう。
だからこそ、
「…………」
目の前の光景を信じることが出来なかったで御座います。
「……は?」
抱え込んでいたお弁当箱を落とさなかったのはまさに奇跡というほかありません。それぐらい目の前の光景に彼女の身体は機能を停止していたのですから。
場所を取るために先に行っていたはずの一寸さんが廊下に立っているのです。
それだけではありません。
彼の傍には、女生徒が立っているのです。
それだけでありません。
彼らは楽しそうに談笑しているではありませんか。
目の前の光景に京さんの脳が処理不良を起こしてしまっておりました。一寸さんが
なにより、一寸さんが誰かと楽しくお話をしているという事実に。
一寸さんに京さんを除いて御友人はいらっしゃりません。それは京さんが一番分かっている。はずでした。
美宝さんのように話しかけてくる方が皆無ではありませんが、美宝さんにしても何か御用事があるときぐらいしか話しかけません。ましてや、京さんが傍に居ない時に話しかけることはかなり珍しいのです。
そんな一寸さんが、それも女性と話している。会話が成り立っているという事実に。京さんは、
「
「あぁ? ……ああ、
「よく知ってるな」
「むしろお前が知っておけよ、風紀委員長のくせに」
彼女の耳に入ってくる男子生徒の会話内容。
思わず、ぐわりと振り向けば、そこに居るのは
「さすがは猿之介。お前こそ風紀委員長に相応しい」
「馬鹿言ってんな、はやく行かねえと席取ってる犬がまたうるさい」
「吉備津!!」
「え? うわッ!? なにっ!? え、やだ俺金もってないよ!」
「なんやあれ!!」
山賊宜しく飛びかかる京さんの勢いに、桃太郎さんは情けない悲鳴をあげました。端から見ると抱きついたようにも見えてしまう光景に、美宝さんが傍に居ないか焦る猿之介さんはなんと苦労人なことでしょう。
「じいちゃん、ばあちゃん、先立つ不孝をお許しください……」
「阿呆かッ! 話聞けッ!」
「南無阿弥陀、あれ? なんだ、誰かと思ったら打出じゃん」
さすがの桃太郎さんも美宝さんの御友人でもある京さんのことは存じ上げていた御様子。
それにしても貴方、仮にもこの学校で一番強いというのに……。
「あれッ! あれ、ど、どないなって! なんで一寸がッ! ていうか、一寸が!!」
「あー、あれうちの勇子」
「名前はどないでもええんじゃ!?」
「どないなってるって聞いてきたのそっちのくせに……」
落ち込む桃太郎さんを見かねてか、猿之介さんが二人の間に入り込みます。このままの状態が続いて美宝さんに見られでもしたら大変ですしね。
「落ち着けって、打の字。勇子と一の字が仲良くしててなんか問題あるんか?」
「仲良ぉ!? い、一寸がウチ以外と仲良ォ!?」
「あー……、勇子は特別、その、変なんが好きっていう悪癖が……」
「好ッ」
「あ。好きって言ってもそういう意味じゃないぞ? なんというか、あれだ興味本位的な奴でって、聞いてる?」
「好き……」
「おーぃ?」
「一寸が……、ウチの……一寸が……」
「戻ってこーい」
「好き……」
まるで洋画のゾンビのように、ふらふらとどこかへ歩いていってしまう京さんの後ろ姿に。
「……言い方まずかったかな」
「っぽいなぁ」
見た目ヤンキーのくせに反省している猿之介さんと、風紀委員長のくせに興味を一切示そうとせずすでに頭の中は腹減ったなぁ、ぐらいしか考えてなさそうな桃太郎さんなのでありました。
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