第15話「サイタマグルメ!」

 午前の授業が終わり、昼休みになる。時間がけっこう長めなので、部活をやっている人間は部室に行ったり、軽く運動をしたり、自由に使える時間だ。


 先週まではバラバラに過ごして食事を取っていのだが、雛子ちゃんを置いて勝手に行動するわけにもいかない。


「さて、どうするか……」


 学食か購買か。選択肢はこの二つだ。弁当を持ってきているなら、また別だが。


 サイタマスーパースクールは敷地が広いので、外でピクニックみたいに食べることもできる。屋上もある。教室で食べる者もいる。ちなみに、俺は昨日まで購買でパンを買って、中庭で食べていた。


「うーん、せっかくだし、今日はみんなで学食に行こっか!」


 それが無難だろう。雛子ちゃんに学食の場所を教えるべきだ。購買で買って一人で食べる癖をつけると、ぼっち化が進む。俺なんかは食事は一人でゆっくり食べるのも好きなので、それでもいいとは思っているが。


「浦和っちもオッケー?」

「……ん」


 浦和も孤独が好きそうなイメージだが、ここは一緒に行動してくれるようだ。なんだか雛子ちゃんを通して、俺たちの繋がりまで生まれているような気がする。それももしかすると、刀香先生の狙いだったりするのだろうか。


「うん、それじゃ、学食行こっ!」


 こうして、俺たちは学食へ向かった。


 食堂は一般教室棟と特別教室棟の間にある。ちょうど、ローマ字のHを描くようになっていて、その真ん中の横線が食堂だ。


 南側には日本庭園と校門がある。大宮が暴走して突っ込んだ池はこの庭園の池だ。で、北側は生徒が憩う中庭。その先にはグランドがあり、その西奥に体育館が、東奥にバトルフィールドがある。


 ちなみに、食堂の上の二階には図書館があり、三階に理事長室がある。つまり、理事長室から日本庭園と校門が一望できる。


 あの日、もし理事長が部屋にいたとしたら、俺と大宮の騒動をバッチリ見ていたことになるだろう。位置関係からして、弓香先生が目撃したというのは、この理事長室からかもしれない。あるいは、理事長室の上にテラスがあるから、そこからか。はたまた、図書館か。食堂からとなると、校門のほうまでは見通せない。


 ともあれ、昼食だ。


「なにかおススメはあるか?」


 浦和は中庭でパンを食べている姿を見かけたことがあるが、大宮の姿は一度も見てない。となると学食派なのだろうと思って、訊ねてみる。


「いろいろと食べてみたけど、どれもおいしかったよっ! 全部サイタマ県の食材使ってるらしいから! やっぱり地産地消(ちさんちしょう)が一番だよねっ! 無料で飲めるお茶も、サイタマ県の誇る名産品『サヤマ茶』だし! そして、この食堂で特筆すべきことは――『サイタマB級グルメ定食』があること!」


「……『サイタマB級グルメ定食』……ですか?」


「うんっ、そうっ! サイタマ県内に伝わる郷土料理や、その土地の特産品などを使って開発したメニュー! 有名なところだと、『ギョーダのフライ・ゼリーフライ』『ヒガシマツヤマのヤキトリ』『フカヤの煮ぼうとう』、『キタモトのトマトカレー』、『チチブのワラジトンカツ』とか。それが日替わりで、出てくるの!」


 さすがはサイタマスーパースクールといったところか……。学食を通して、サイタマスーパースクールの生徒にもサイタマの名産品をアピールしつつ、愛郷心を育むということらしい。


 バトルという興行以外にも、観光振興がサイタマスーパースクールの大きな役割だからな。生徒ひとりひとりを洗脳――いや、教育することで、サイタマの偉大さと素晴らしさを布教――いやいや、広めることができるわけだ。


「で、今日の日替わり定食はなんなんだ?」


 見てみると、券売機の横にホワイトボードが置かれており、そこに『本日の日替わり』が書いてあった。


「『ヒガシマツヤマのヤキトリ』定食か……。普通のヤキトリとなにが違うんだ?」

「へ? あんた、そんなことも知らないの?」

「いや、俺をお前のようなサイタマエキスパートと一緒にしないでくれ。そもそも、ヒガシマツヤマがどこにあるかすら正確にはわからない」


 北西のほうというのはわかるが、白地図を出されたら当てられないと思う。サイタマシティ周辺の人間なんて、だいたいそうだろう。


 トウキョウ方面に行くことはあっても、グンマーやトチギに行く機会はあまりない。旅行で高速道路を使う機会があれば、別だろうが。って、そう言えば、ヒガシマツヤマには確か、カンエツ道という高速道路のインターチェンジっがあったな。知識としては、それぐらいだ。


「ふっふっふ、じゃあ解説してあげましょう……」


 サイタマトークをできる喜びに、大宮は体を打ち震えさせていた。本当にこいつのサイタマ愛の強さはなんなんだ。でもまぁ、券売機には行列ができているので、時間つぶしにはいいだろう。


「教えてあげるっ! 『ヒガシマツヤマのヤキトリ』は、実は『ヤキトリ』じゃないの!」

「『ヤキトリ』じゃない? え? ヤキトリってもろに書いてあるのに?」

「そうっ! 『ヤキトリ』といいつつ、焼いているのはトリじゃなくてブタなの! 正確にはブタのカシラ肉!」


 な、なんだってーーーーーーーーーー!? ……と過剰に反応するほど俺はリアクション能力に優れているわけではない。


「ふぇ……ど、どういうことですか?」


「ヒガシマツヤマでは普通のヤキトリと『ヤキトリ』が混在しているの。だから、ちゃんと確かめないとだめ。まぁ、最近は混乱を招かないように『ヤキトン』って書くことも多いけどね。で……ヒガシマツヤマの『ヤキトリ』の特色としては……辛味噌のタレ!」


「なっ!? 辛味噌のタレだとっ!? 普通、ヤキトリに味噌なんてつけないだろっ!? ありえんだろっ!」


「それが素人の考えなんだなー。一度食べてみれば、わかるからっ! あの辛味噌と焼いた肉の絶妙なハーモニーは一度食べたらヤミツキなんだから!」


「食べたことあるのか?」

「もちのろん! あたしはサイタマの名産品とか特産品はひととおり食べてるから!」


 大宮の守備範囲はサイタマシティだけに留まらなかった。


「ま、定食の形にするのは聞いたことなかったけどね……普通に串に刺してあるのを食べるのが普通だから」


 まぁ、それじゃあ飲み屋かなんかのツマミみたいになっちゃうし、食べ盛りの高校生の空腹を満たすことはできないからだろう。


「……というわけで、あたしは今日は『ヒガシマツヤマのヤキトリ』定食にしようかな」

「あー……俺も、それにするか。割と辛いの好きだし」

「え、えっと……雛子は辛いの苦手なので、その……すみません」


 雛子ちゃんは本当に期待を裏切らない。なんというか、レトルトカレーも子供向けの超甘口を食べていそうなイメージがある。


「あ、気にしないでっ。あたしがサイタマトークしたかっただけだからっ!」

「は、はい……勉強になりました」


 そんな話をしているうちに、券売機の順番が来た。先頭で並んでいた浦和が、『ウラワの鰻重(特上)』のボタンを迷うことなく押す。値段は、五千円。


「ひ、ひぃぃぃっ!? 浦和っちって、やっぱりセレブなの……!?」


 表情を変えずに券を手にする浦和を見て、大宮が恐れ慄いていた。……というか、学食に鰻重(特上)を普通に売るのもどうなんだという話だが。


「……食事は大事だから」


 そして、浦和は続いて券売機の『本日のケーキ』のボタンを押した。やはり、ウラワ区民のケーキ消費率日本一はダテじゃない。

 続いて、雛子ちゃんが悩みながらも、『きつねうどん』のボタンを押した。


「うんっ、ここのうどんおいしいから、大正解だと思う! ちなみにサイタマ県のうどん消費量って、あのうどん県「カガワ」に次いで二位なんだから!」

「あのうどん県に次いで二位って、すごいじゃないか。意外だ……」


 うちの食卓はそんなにうどんばかりってわけではないんだが……。


「サイタマ東部のカゾあたりが特にうどんが盛ん。あっち方面しばらく行ってないから、またうどんの食べ歩きしたいなぁ」


 こいつのサイタマの知識の深さには、驚くばかりだ。どんな話題でもサイタマになる。すべての道がローマに通じるように、すべての話題がサイタマに繋がってしまう。


 まぁ、いつまでもサイタマトークをしていても仕方ない。俺と大宮は「ヒガシマツヤマのヤキトリ」定食の券を購入した。


 そして、学食のおばちゃんのいるところに券を持っていって、バイブ機能付きの呼び出し器を受け取る。そして、空いていた席に四人で座った。俺の隣が浦和、目の前が雛子ちゃん、斜め前に大宮だ。


 ちなみに、『ウラワの鰻重(特上)』の食券を受け取った途端におばちゃんの目つきがかわり、後ろに「鰻特上入りましたー!」と叫び、団扇みたいなのを持ったおばちゃんが、厨房に接するドアから外に飛び出していった。……おそらく、外でモクモクと煙を立てながら焼くのだろう。


「どう、雛子ちゃん? 授業は大丈夫そう? 疲れてない?」

「あ、はい……だ、大丈夫ですっ……! お気づかい、ありがとうございますっ……!」


 雛子ちゃんはいつも一生懸命だ。ちょっとした会話ですら、テンパっている感じがある。 もっと気楽に過ごさないと一週間持たないんじゃないかとも思うが……まぁ、それを言ったところでしょうがないか。ずっと引きこもっていたわけだしな……。


「困ったことがあったら、なんでも言ってね! あ、今度、一緒にトイレも行こっ!」

「あ、は、はいっ……! ぜ、ぜひっ……!」


 食事の場でなんという話をしているんだろうか……。しかし、なんでか女の子も一緒にトイレに行きたがるんだよな。男子の連れションと同じような感覚なのだろうか。って、昼飯前に考える内容じゃない!


「……お茶」


 浦和はいつの間にか立ち上がって、トレーにお茶を四つ乗せて持ってきていた。ある意味で、タイミングがよすぎる。いや、悪すぎるというべきだ。連想しちゃうじゃないか。


「浦和っち、ありがと!」

「あ、ありがとうございますっ! も、申し訳ありませんっ!」

「すまん、俺が行くべきだったな」


 ちょっと、気が利かなかった。


「……問題ない」


 浦和は俺たちの前にお茶を並べてくれた。


 最初に出会ったときは他人との交流を持たないイメージがあったが、こうしてお茶を持ってきてくれるんだから、それはこっちの勝手な思い込みだったということだろう。人を第一印象だけで判断してはいけないな……。


「うん、やっぱりサヤマ茶おいしー!」


 大宮はズズズッと音を立てながら、緑茶を啜る。

 俺たちもサイタマ県内にある窯で焼かれたという湯呑に口をつけて、サイタマの誇るブランド緑茶サヤマ茶を飲む。


「うん、確かにうまいな……これが、サヤマ茶か!」


 普段ペットボトルか缶の緑茶ぐらいしか飲んでなかった俺にとっては、びっくりするぐらい芳醇な味わいだった。


「本当に、おいしいですっ……! すごくまろやかで、コクがありますっ……」

「……美味」


 さすがはサイタマスーパースクールといったところか。無料のお茶ですら、サイタマブランドが使われている。普通校の学食とは比べ物にならないほど、金がかかっているだろう。そもそも、鰻(特上)があるようなところだからな……。

 そうしてサヤマ茶を味わっているところで、呼び出し機が鳴った。


「おっと、できたか。じゃ、取りにいくか」


 さすがに四人分を一人で持っていくのは無理がある。俺たちは席を立って、食堂のおばちゃんから料理を受け取りに行った。

 そして、再びテーブルに戻ってくる。食卓には、サイタマブランドの数々が並んだ。


「わぁ、みんなおいしそうっ!」


 俺と大宮の『ヒガシマツヤマのヤキトリ』定食は、串に刺された豚肉が四本。大宮の言っていたとおり、辛味噌がかけられている。


 あとは、サイタマ県産大豆で作った味噌を使った味噌汁と、サイタマ県の誇るブランド米「彩のかがやき」のアツアツご飯。浅漬けもついているが、これも県産野菜を使っているらしい。いずれも、食堂の受け渡し口の横に説明が乗っていた。順番を待っている間に、自然とサイタマ知識が増えていくわけだ。


 浦和の頼んだ『鰻重(特上)』は、ちゃんと漆塗りの箱に入っていて、ただならぬ高級感を漂わせている。外国産の鰻と違って、ブヨブヨしていない。ちゃんと引き締まった国産ウナギの品格を感じさせる。タレの香ばしい匂いが、非常に食欲をそそる。窓の外でモクモクと煙が上がってたからな……。おばちゃんが焼いたばかりのものだろう。この香りだけで、ご飯が食えそうだ。


 雛子ちゃんの頼んだ『きつねうどん』はオーソドックスなものだが、キツネがとても大きくて、おいしそうだ。これも県産大豆を使ったものらしい。関東風のしょうゆベースの汁だが、ここにもサイタマ県内にある某醤油製造業社の醤油が使われているそうだ。


 ある意味で、これは高級な昼食だ。国産で全ての材料を揃えるだけでも値が張るのに、それを全てサイタマ産で賄っている。


 サイタマは海がないという欠点はあるが、肥沃な関東平野と、大小さまざまな川、そして、西部にはチチブという山間地がある。


 県の面積が広いので、東西南北、同じ県内でありながら、様々な名産品や特産物がある。カワゴエのサツマイモ、フカヤのネギ、カゾのうどん、ソウカのせんべい、などなど……。意外と、サイタマはグルメ大国になれる素地があるのじゃないだろうか。


「それじゃ、冷めないうちに、いっただきまーすっ!」


 大宮は御馳走を前に喜色満面だ。俺たちも、冷めないうちにいただこう。


「いただきます」「い、いただきます」「……いただきます」


 俺たちは軽く手を合わせて、食事を開始した。


 まずは、例の『ヒガシマツヤマのヤキトリ』だ。串に刺さってるので箸で掴みにくいが、下のほうを抑えるようにして、上の部分の肉を口に運ぶ。


「もぐもぐ……。――こ、これはっ!?」


 豚肉に、辛味噌が信じられないぐらいマッチする!


 普通のタレだと味がくどくなったりするところだが、辛味噌のおかげで、絶妙なサッパリ感がある。この後味は、絶対に普通のヤキトリでは味わえない。


「どう? おいしいでしょっ!?」


 大宮が身を乗り出さんばかりに瞳をキラキラさせながら、訊ねてくる。


「うんっ、うまいな、こりゃ! こんなにヤキトリ……というか、ヤキトンか……が辛味噌とマッチするとは思わなかった。こりゃ、癖になるな」

「でしょでしょでしょっ!? へへっ、やっぱりこの辛味噌って、サイタマブランドになるだけあるよねっ! うちに、この辛味噌のソースあるもんっ! もう、いろんなものにかけまくり!」


 まぁ、確かにわかる気がする。味噌文化というとナゴヤが有名だが、この辛味噌は将来サイタマを辛味噌文化一色にしかねないほどの破壊力を秘めている。もう、これじゃあ、普通のヤキトリも辛味噌じゃないと食べられなくなっちゃうじゃないか。


 そして、ご飯もうまい。味噌汁も、深い味わいがある。具の豆腐と小松菜と油揚げの組み合わせもいい。ちなみに、この小松菜もサイタマ県にある農業法人が作ったものらしい。


 というか、購買でパンを買って食べていたのは、ちょっともったいなかったかもしれない。まぁ、パンもサイタマ小麦を使った地元のパン屋のものらしいから、十分にうまかったのだが……。でも、これだけうまいものがあると、毎日学校に来ようという気にもなる。


「きつねうどんも……すごいおいしいですっ……!」


 雛子ちゃんも、驚きの表情を浮かべている。


「それに、この一緒に入っているネギ……もしかして」

「そう、イワツキネギみたいっ! 産地表示に書いてあったから」

「あ、そうですよね……このネギ、そうですっ……」


 雛子ちゃんは、地元の食材と学食で再会したわけだ。ちょっと入っているだけのネギで自分の地元のネギだとわかるんだから、雛子ちゃんの舌は繊細だ。


「……鰻も、予想以上に美味。この焼き加減とタレの染み込み具合は、職人の技」


 そして、鰻重(特上)も浦和からお墨付きを得られたみたいだ。というか、いつも表情に変化の乏しい浦和の頬が緩んでいる。こういう表情もできるのかと、ちょっとドキッとしてしまった。


 やはり、おいしい料理は人の心を解きほぐす効果があるようだ。これだけおいしい料理が食べられるのなら、雛子ちゃんも毎日学校に通うのが苦にならないかもしれない。


 そうして、俺たちは胃も心も満たされるのを感じながら、料理を平らげていった。

 そして、料理を全部食べたところで、浦和のほうにあった呼び出し器が鳴る。


「……ケーキを取ってくる」


 浦和は席を立って、食堂のおばちゃんからショートケーキを受け取って、戻ってきた。見れば、ホームサイズだった。そして、取り皿が四つある。


「……みんな、協力してほしい」

「へ? あたしたちも食べていいの?」

「……食堂のおばちゃんがサービスしてくれた。やたらとおいしそうに食べているから、みんなで食べろって。あと、滅多に売れない鰻重(特上)を頼んだので、お礼も兼ねてと言っていた」


 まぁ、普通は昼食に五千円も金を使わないからな……。浦和の両親が残した遺産はかなりのものなのだろう。サイタマスーパーバトルシステム関連の特許だけでも莫大な利益になりそうだし。


「う、そんなにあたしたち、おいしそうに食べてたかな?」

「は、恥ずかしいです……」


 まぁ、少なくとも、大宮からはものすごい食事を満喫しているオーラが出ていたのは確かだ。


 料理を作った人間にとって、おいしそうに食べているのは嬉しいものだと思う。仏頂面で食べていたら、やはりいい気持ちはしないだろうし。

 喜怒哀楽を素直に表現できることは、ある意味で才能なのかもしれない。


「ともかく、ありがたくいただこうか。食器返すときに、お礼言わないとな」


 俺たちはそれぞれ取り皿にショートケーキを分けて、食べ始めた。


「あ、すごくおいしいっ!」

「いちごも……すごくあまくておいしいですっ……!」

「……この、ケーキ、激戦区のウラワでも十分に戦える味」


 女性陣の顔がまた綻ぶ。やはり、女の子は甘いものが好きなようだ。


「うん、上品な甘さだな」


 甘ったるいケーキは苦手だが、これは程よく甘さを抑えている。というか、いちごの甘さが本当にすごい。


「……このいちごは、サイタマ県内のいちご農家がビニールハウスで作ったものらしい」


 これだけ糖度の高い苺を作るのは、かなり技術力があるということだろう。いちごというとトチギが有名だが、サイタマもやるじゃないか。


 メインの料理だけでなくデザートでもサイタマブランドのすごさを感じて、俺たちの昼食は終わった。もちろん、食堂のおばちゃんには食器を返すときにお礼を言った。


「あんなにおいしく食べてもらったら、サービスもしたくなるってもんさ! ほら、これも持っていきなっ!」


 と、おばちゃん特有の「若い子にはとにかく食べものを持たせる」の法則が発動して、俺たちはイチゴの入ったパックを手に入れた。


 もうお腹いっぱいだったが、おばちゃん特有の押しの強いサービスを断るなんてことはできなかった。俺たちはありがたくイチゴのパックを頂戴して、食堂をあとにした。

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