第14話「みんなで授業」
本鈴の寸前というところで、俺たちは教室へやってきた。
大宮、雛子ちゃん、浦和、俺の順で室内に入っていき、大宮が「雛子ちゃんの席はここねっ」と教えてから、それぞれ着席する。
クラスのみんなは、驚いた表情をしていた。なぜ俺たちが雛子ちゃんと一緒に行動しているのか、よくわかっていないのだろう。それは、当然だ。刀香先生が、内々に俺たちに指示したのだから。
ううむ……ちょっと、やはり俺たちだけ浮きすぎな気もするな。他のクラスメイトとの交流も少しは取らないとと思う。
そんなことを考えていると、教室の前の扉が開いて、刀香先生が入ってきた。出席簿を抱えて、颯爽と入ってくる姿は、やはり格好いい。
「ふむ」
教卓についた刀香先生は、教室の全体を把握する。露骨に視線を向けるようなことはしないが、俺たちのほう――俺の前の席の雛子ちゃんの姿は視認したようだった。
「全員、揃ってるな」
ほかに欠席者もおらず、初めてクラスメイトが揃ったことになる。
「よし、点呼するぞ」
わずかだが、刀香先生の声はいつもより弾んでいた。やはり、雛子ちゃんが来てくれたことが嬉しいのだろう。
廊下側の前の席から点呼が始まる。
雛子ちゃんは、顔と名前を覚えようとしているのか、身体は動かさないものの、顔と視線を遠慮がちにクラスメイトに向けていた。
俺も、この一週間、大宮と浦和としか交流がなかったので、改めて、クラスメイトの顔と名前を再確認していく。
点呼はつつがなく進んでいき、ついに雛子ちゃんの番になる。
「岩槻雛子」
刀香先生が呼ぶと、雛子ちゃんは起立した。
「あ、あのっ……い、岩槻っ……雛子です……その……よ、よろしくお願いしますっ!」
そう言って、ぺこりと頭を下げる。
やはり、雛子ちゃんは礼儀正しい、というか、いつだって一生懸命という感じだ。
その張り詰め具合が自分自身に負荷をかけることになっているのだと思うけど……徐々に慣れていって、肩の力を抜けるようになれば、と思う。
「岩槻。名前のほかに、使用する仮想武器と、得意な仮想魔法の種類を」
刀香先生が促す。
「あ、はいっ……! 使用する武器は杖で、魔法は……ええと、召喚魔法ですっ……」
雛子ちゃんの言葉に、教室が少しざわついた。やはり、召喚魔法を使えるというのは大きい。野球で言えば、160キロのストレートを投げられますと言っているようなものだ。
「ふむ、それでは明日のサイタマスーパーバトルの授業で、岩槻には召喚魔法を見せてもらおうか。では、座っていいぞ。次、与野待人」
続いて、俺の点呼になる。特に、変わったことを言うこともない。入学翌日に自己紹介したように、同じ内容を口にする。その後も、窓際の最後の列の点呼が滞ることなく進んでいき、最後は浦和、大宮が返事をして、点呼は終了となった。
「よし、今日も一日元気でやれ。以上」
雛子ちゃんについて改めて触れることなく、朝のホームルームは終わった。最初の点呼だけでかなりテンパり気味だったので、妥当な判断かもしれない。
その後は、普通の授業の時間になる。
学校が始まって二週目ということで、徐々に授業内容も進行していく。もう一週経過すると、追いつくのが大変になるだろうから、雛子ちゃんが復帰したのはギリギリのタイミングだったかもしれない。
昨日、時間割も渡していたので、雛子ちゃんはちゃんと今日必要な教科書を持ってきている。もし忘れたものがあったとしても、隣には浦和がいるから安心だ。俺や大宮より浦和は勉強できそうだしな。改めて、いい席順だと思う。
最初の英語の授業が終わり、休み時間になった。
「大丈夫だった、雛子ちゃん?」
大宮が、心配そうに、でも重くならない程度に訊ねる。
「あ、はいっ……だ、大丈夫ですっ……久しぶりの授業で緊張しましたけどっ……」
雛子ちゃん、一心不乱に授業を受けてたしな……。むしろ、俺と大宮のほうがソワソワしていたぐらいだ。ちなみに、浦和の集中力もすごかった。背中から殺気にも似たものが立ち昇っていた。勉強のできる人間はオーラが違う。
「うー、あたしも勉強頑張らないと」
「大宮は勉強苦手なのか?」
「理系科目はいいんだけど、文系は苦手なんだよねっ」
「あー、確かに国語の文章問題とか苦手そうなイメージだな」
暴走癖があるからな。落ち着いて文章を読んで、考えるというのは駄目そうだ。アサっての回答を書く姿が容易に浮かぶ。
「浦和っちは、勉強得意でしょ? 立ち昇るオーラが違うもん」
「……勉強は好きだから」
やはり、浦和は見た目通り頭がよさそうだ。そもそもウラワはサイタマ屈指の文教地区だしな。サイタマ県トップの公立男子校と公立女子校もあることだし。そこそこ偏差値の高いサイタマ大学もある。
ちなみに、ちなみに大宮はこの通りアホっぽい感じだが、オオミヤにあるオオミヤ高校はめちゃくちゃ偏差値が高い。というか、公立の共学ではトップだ。
……まぁ、サイタマスーパースクールに通う俺たちには、普通校の話はあまり関係ないが。余談ついでにいうと、サイタマは私立高校も多くあり、有名大学の付属校があるなど、偏差値が高いところがたくさんある。
「そういうあんたは、どうなのよ」
「俺は……まぁ、典型的な文系タイプだ。大宮と逆だな。雛子ちゃんは、得意な科目とかはあるか?」
「あ、はい……得意な科目はないですけど、苦手な科目もないです……あっ、体育だけはすごい苦手ですっ……」
体も小さいし、機敏に動くようには見えないしな……。
それでも、サイタマスーパーバトルで召喚獣を使いこなせるというのだから、面白い。現実世界で運動音痴なのと、サイタマスーパーバトルで活躍できるかどうかというものは無関係だから。身体能力よりも想像力が大事なのだ。
そうこうするうちに、チャイムが鳴った。
次の授業は古典。雛子ちゃんも大丈夫そうだし、勉強に集中しよう。
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