第6話「ホームルーム委員長任命」
☆ ☆ ☆
滞りなく授業は進み(といっても初日なので教材配布と自己紹介が中心だったが)、帰りのホームルームの時間になる。
「それでは……さっそくだが、このクラスのホームルーム長と副ホームルーム長を決めようと思う。立候補者はいるか? いないのならば、私の独断と偏見で私が決めることになるが」
刀香先生が教室内を見回す。誰もが俯き気味で、大人しくしている。
当然、そんな面倒な役割を進んでやろうという者はいなかった。
「ふむ……いないか。ならば、私が独断と偏見で決めてしまおう。ホームルーム長が決まっていないと、いろいろと面倒だからな」
くじ引きとかジャンケンとか決める方法はあるのだろうが、細かいことが嫌いそうな刀香先生は、そんなことは考えていないようだった。そもそも、初日で誰がホームルーム長に向いているかどうかなんてわかるのだろうか?
「それでは、決めるぞ。ホームルーム長、与野。副ホームルーム長、大宮、浦和」
迷うことなく、名前が呼ばれる。
心臓がビクッと跳ねたかと思った。
なんで、俺がホームルーム長なんだっ!?
仮想能力が低いうえに、格闘能力も学力も平均並だ。
俺が選ばれるなんて理解できない。
「えっ、なんであたしが副ホームルーム長なんですかっ!?」
俺よりも早く、大宮が驚きと疑問と抗議が混ざったような声を上げる。
「なに、ただの直感だ。私の直感は昔からよく当たるからな。おそらくこの三人を選ぶのがベストチョイスだ」
とはいっても、大宮と浦和の仲はすでによくない。俺と大宮の関係はいくらか修復したが、微妙だ。俺と浦和に関しては、まったく交流がない。
そもそも、クールな浦和が誰かと交流を持つ姿というのは想像しにくいのだが。
「……」
浦和のほうをうかがってみるが、表情に変化はない。
相変わらず背筋を伸ばした正しい姿勢で椅子に座って、前を見ているだけだ。
「異論はないな? まぁ、異論があるとしたら、詳細に辞退する理由を説明してもらうが」
刀香先生も、なかなか押しが強い。剣に雷という攻撃型サイタマバトラーだけあって、こういうところにも性格が出ている。
って、そんな分析をしている場合じゃない。このままじゃ、俺がホームルーム長になってしまう。
いきなりそんな面倒な仕事をやらされるのはごめんだ。
そもそも、クラスで一番仮想能力が低い俺がクラスの長というのはおかしいだろう。
「せ、先生っ……ちょっと、俺は……」
断るために行動するというのも情けないが、円滑なクラス運営をするためだ。
「ふむ、与野は異論があるのか。理由は?」
「ええと……俺は、その……仮想能力がみんなより低いですし格闘能力も並以下ですし、リーダーシップみたいなのないですし……」
自分で自分を貶めているようでいい気分ではないが、ここは断るのが一番だ。
陰キャがホームルーム長なんて、ありえない。
「それだけか?」
しかし、刀香先生は辞退を許してくれそうな雰囲気ではなかった。
「では、反論しよう。ホームルーム長に、そんなものは一切必要ない。なんでもできる人間は、すべて自分ひとりでやろうとするからな。それでは、クラスのまとまりがなくなる。誰かに助けてもらい、協力してもらうからこそ、集団に結束が生まれる。リーダーというのは、なにも前に立って引っ張ればいいと言うものでもない。誰かが引っ張らないと動けない集団というものは、烏合の衆と変わらない」
刀香先生の言葉は、刀のように切れ味が鋭かった。
俺の曖昧な言い訳は次々と斬って捨てられて、追い詰められてしまう。
「なに、ホームルーム長なんて、そんなたいそうなものではない。気楽にやればいいさ。いざとなったら、副ホームルーム長をこき使えばいいのだからな。それに、ほかのクラスメイトだって遠慮なく使えばいい」
使うとか気楽に言うが、俺なんかの言葉をみんなが聞くだろうか。
力がないような人間の言うことを。
「ま、言い換えれば、『助けてもらえばいい』。自分が力が低いと自覚しているのなら、なおさらだ。自分が能力が低いからといって集団に加わらず、なにもしなかったら『成長』などないのだからな」
赴任してきたばかりなのに、刀香先生はなかなかの教育者なのかもしれない。
それとも、意外と口が上手いのか。ここまで攻められると、反論ができなかった。
「…………わ、わかりました、やります」
こうとなっては、仕方ない。周りとうまく連携を取りながら、やっていこう。
「大宮と浦和もいいな?」
刀香先生は、俺から視線を外すと、大宮と浦和の顔を見た。
「うー……わかりました」
「…………はい」
大宮と浦和も頷いた。これで、本決まりだ。
正直、先が思いやられるが……。
「よし。では、決定だな。それでは、残りの委員会も決めてしまおう」
先に委員会を決めてくれたら、そちらに先に入ってしまえばよかったのだが……。
まぁ、もう肚をくくってやるしかない。そんなに責任重大な仕事はないだろう、たぶん。
しかし、そんな淡い期待はすぐに裏切られることを、あとで知ることになるのだが……。
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