第654話 負けないこと投げ出さないこと逃げ出さないこと信じぬくこと
〈Zero〉『え!?嘘!?』
〈Loki〉『くもんさんと
ジャックの告げたまさかの言葉に、俺たちの中に激震が走る。
なんたってジャックは今回
正直マッシブはくもんさんチームが圧倒的優勝候補で、他のサーバーはよく知らないが、それでもぶっちぎりで全48サーバーの中でも最有力になるだろうと思ってた。
それなのに——
〈Jack〉『詳しくは言えないけど色々あってねーーーーw』
〈Jack〉『くもんのチームはうめに任せて、くもんと一緒にチーム〈Richard〉の一員として出ることになったんだよーーーーw』
〈Loki〉『え?リチャードさんのチームなんすか!?』
〈Daikon〉『どんなチームなの?』
明かされる事実に、俺は呆然としてしまう。
たしかに【Vinchitore】の参謀たるくもんさんの後釜は、ジャックから【Vinchitore】サポーター部門の幹部を引き継いだ〈Ume〉さんが適任なんだろうけど、ジャックを率いるリーダーが、リチャードさんだと?
たしかにあの人も超一線級というか、LA最強アタッカーと言って申し分ない人だとは思うのだが、自分がリーダーでチームを作りたいとか、他のチームのリーダーだったくもんさんや主力のジャックを引き抜こうとか、そんなことする人だっただろうか?
いつぞやの3人制限のバトルコンテンツで一緒に戦わせてもらった時にリチャードさんとは色々話したけど、でもやっぱり、リーダーやるぜ! って感じの人ではなかった……と思うんだが……。
ううむ。
〈Zero〉『リーダーがリチャードさんって、そもそもリチャードさんってルチアーノさんのパーティでうめさん入れてトリオ組むはずだったよな?』
〈Zero〉『ルチアーノさんのパーティもどうなったんだ?』
考えれば考えるほどに浮かぶ疑問。
ジャックの言葉を聞く前に俺がそれを尋ねると——
〈Jack〉『チームリチャードは、〈Richard〉、〈Luciano〉、〈Semimaru〉、〈Kumon〉、あたしの5人なんだよーーーーw』
〈Zero〉『え』
〈Jack〉『決まったの昨日だけどねーーーーw』
〈Zero〉『なぬ!?』
〈Daikon〉『ほむ』
〈Loki〉『昨日なんすか!』
〈Yukimura〉『急だったんですね』
〈Jack〉『やーーーー、昨日セシルがいきなりスタンダードで出るー!って言い出してねーーーーw』
〈Zero〉『あー・・・』
〈Jack〉『
〈Jack〉『その流れでリチャードが提案してきたんだーーーー』
〈Loki〉『でも、提案したからリーダーがリチャードさんなんすか?』
〈Yume〉『ルチアーノさんがいるなら、リーダーはルチアーノさんでいいんじゃないの〜?』
〈Jack〉『まぁそこは色々あってねーーーー』
〈Jack〉『リチャードがメンバー選んだのもあってさ、リーダーはリチャードなんだーーーー』
〈Jack〉『だからわたしもみんなのライバルだよーーーーw』
〈Daikon〉『そうだったんだね』
〈Yume〉『でもやるからには負けないぜ〜』
〈Yukimura〉『はい。私も負けないように頑張ります』
〈Loki〉『俺もジャックさんとくもんさんたちと戦うまで負けないっすよ!』
続々と明らかになった真実に、俺はまだ驚きを隠せはしなかった。
強い。強すぎる。なんだそのチームチートだろ。
そんな気持ちが拭えない。
元々のトリオ戦も10回戦えば9回は負けそうな戦力差で、それくらい俺とだいの亜衣菜の3人チームとルチアーノさん、リチャードさん、うめさんという【Vinchitore】幹部チームの差は大きかったはずなのに、今度の編成は100回戦えば99回は負けそうだ。
ルチアーノさんたちの最強の牙城を崩せる可能性があるとすればアタッカーの物量で、ここに微かな希望を見ていたのに……今の話だと越えねばならない牙城が恐ろしく堅牢になってしまった。
レッピーと佐竹先生を入れれば、間違いなく俺たちの戦闘は安定する。でもそれは相手も同様に強固さを増すわけで……「参加部門変わるなら優勝のハードル下がるんじゃね?」とかせこいこと思ってた自分が情けない。
「あー……壁がたけーなー……」
そんな現実に、俺は無意識に言葉を漏らしてしまったのだが。
「でもこれで勝てたら、私たち本当に凄いと思わない?」
どうすんだこれと思って思わず独り言を吐き出した俺の言葉が、そっと優しく拾われる。
「いや、そりゃそうだけど——」
そして耳に入ってきた音に対し、俺は振り返ろうとしながら途中まで言いかけ、完全に振り返ったところで、ハッとした。
だって——
「……そうな。俺らやってんの、ゲームなんだよな」
「そうだよ?」
振り返った先にあったのは、純粋に楽しそうな、俺なら出来るよってことを信じて疑わない笑顔だったから。
「同じゲームやってる人が相手なわけだし、探すしかねぇか。勝ち筋」
「ん。頑張ろ」
その声に、言葉に、振り返った先の楽しそうな笑顔に、あっという間に開き直れる俺がいた。
そもそもな、リチャードさんが何を思ったのかは知らないが、亜衣菜がきっかけで【Vinchitore】に激震が走ったのならしょうがないんだよ。むしろちょっとすみませんって感じだし。
そんな気さえしてきたり。
それに、相手が変わり勝率が下がったからと言って、俺たちの目標は変わらない。
俺たちはこの大会で優勝する。優勝して〈Cecil〉を輝かせる。
LAのアイドル〈Cecil〉の復権だ。
もちろん言うは易くも、この目的を果たすハードルはバカ高い。
でも、やれることをやるだけだ。
出来る出来ないじゃなく、やるかやらないか、まずはそのラインを越えなきゃ意味がない。
だからやる。
孟子曰く、為さざるは能わざるに非るなりって言うもんな。
そして俺たちの世界は、この状況すらも楽しんだもん勝ちだ。
だったら全部ぶんどってやるしかない。
そんなある種の諦め、ある種の覚悟が、だいの笑顔と言葉のおかげで湧き上がる。
だから——
〈Zero〉『相手にとって不足なし、かw』
俺は
〈Yume〉『おお、さすがモテ男。たくましいね〜』
〈Yukimura〉『モテモテですもんね』
〈Jack〉『負けないよーーーーw』
〈Daikon〉『いい戦いにしようね』
〈Loki〉『正々堂々っすね!w』
そして俺が「かかってこい」的なことを言ったところで、みんながそれを囃し立てた。まぁ一部の言葉はとりあえず聞き流すとして……アレなんだよな。今の流れとしてジャックは当たり前だけど、ゆめもゆきむらもロキロキも、大会ではこの仲間たちとガチンコな戦いをするわけなんだよな。
そうなると、ここで戦術的な話は出来なくなる。
それをみんな感じとったのか、そろそろこの話も終わりにしようかという、今日はこの辺でお開きです、みたいな空気が漂い出す。
流石ゲーマー度が高い今日のメンバーたち。
その雰囲気を感じながら、俺は椅子の背もたれに寄りかかり、ぼんやりと天井を見上げた。そして椅子が奏でたぎぃという小さな音の余韻を耳に残したまま、考え出す。
さっきのだいの声と笑顔があったから、楽観的に楽観的に、俺は思考をルチアーノさんたちとの戦いへと落とし込む。
ルチアーノさん……あ。じゃなくて、リチャードさんのパーティの構成は
遠近どちらからでも攻撃出来るし、ハードパンチャーも小技使いもどっちもいるし、それを支える支援役もいるし、後衛を守る盾は世界最強と盤石だ。正直あまりの良編成かつプレイヤースキルがオーバーキル過ぎて、今の俺には全く持って勝ち筋が浮かばない。
例えばパッと浮かんだ戦法で戦ってみるとしよつ。
俺と亜衣菜が左右に分かれて向こうの後衛を狙う作戦。これをシミュレーションしてみると——
①俺と亜衣菜が左右に分かれて相手の後衛を狙って、先に一人落とすことによる数的有利を狙う。
→おそらくジャックとせみまるさんが固まって、ルチアーノさんが俺たちの攻撃を防ぎつつ、俺か亜衣菜がせみまるさんの魔法の射程圏になるようにじわじわと移動を開始する。ここでルチアーノさんを落とせ……たらラッキーだけど厳しいよなぁ。
②この隙を縫ってだいがルチアーノさんに仕掛ける
→きっとくもんさんが見逃してくれない。だいとくもんさんのタイマンの構図が出来上がる。だいが勝てるかは……2:8、前向きに見積もっても3:7でくもんさん有利だろう。
③おそらくリチャードさんが俺か亜衣菜を狙ってくるから、佐竹先生をそこに当てる
→せみまるさんからの攻撃を受ける俺か亜衣菜と、タイマン張るだい、そしてリチャードさんの攻撃を受ける佐竹先生への回復で、レッピーのMPがジリ貧になっていき、たぶん誰かが落とされる。
→対人戦は数的有利がある方が圧倒的に有利なわけだから、この段階で、はい詰んだ。
しかも相手には遊撃的に動けるジャックもいるし……というかそもそも全員が全員、超一線級プレイヤーなのだから、全員が臨機応変に動いてくるわけで、常に予測出来ない攻撃がやってくると思った方がいいだろう。
……うん、やはりこれはしんどい。
今の戦略の勝ち筋があるとしたら、だいが早々とくもんさんとの一騎討ちを制することだが、それを計算に入れるのは酷……というか、それ以前の問題だろう。
「どうやって倒すかなー……」
そしてしばし頭の中での戦いで連戦連敗を繰り返し、俺はまた独り言を天井に向かって投げかける。
だいのおかげで戦略を考えるのは楽しいが、ここまで無理ゲーだとそのうち苦行になりそうだ。
でもおそらく、チーム〈Cecil〉の参謀は俺になる。
ああくそ、なんかいい戦略考えないと。
そんな葛藤が沸いてきて、俺が頭をくしゃくしゃとした、その時——
「勝てそうな作戦、思いついた?」
背後から俺の首を包み込むような温かな弾力と共に、俺の胸前に細くて白い腕が現れ、優しい声が耳に届く。
聞かれたことは、思わず強く言い返しかけたくなることだったなのに、温もりとか物理的接触ってすごいのな。
その存在の登場に、あー……となってた頭が、ゆっくりゆっくり落ち着いていき——
「だい、くもんさんに勝てる?」
そもそもまだチームで練習すらしてないのだから、見えない戦略も多いだろう。
そんな風に落ち着いた考えも浮かんできたから、俺はまるで今日の天気を尋ねるくらいの雰囲気で、だいにかなり無茶なことを聞いてみた。
だが——
「貴方がそれを望むなら」
「え」
「そう望まれるなら、私はそれを叶えるよ」
返ってきたまさかの言葉に驚いて、俺が振り返ろうとするも二山に包まれてるせいで首が回せず、それならばと後頭部を思い切り背後の弾力に突っ込んで、背後から俺を抱きしめてきた人物を見上げると——
「……ちょっとカッコ良すぎん?」
「普通だよ?」
そこにはいつもの綺麗で可愛い顔が穏やかな笑みを浮かべていて、その表情に俺は思わず苦笑い。
だってその表情を見たらさ、本当に実現してくれそうな、そんな気がしてきたんだからしょうがない。
「ま、そんな無茶な作戦じゃなくても勝てるように、明日からまた考えるさ」
「ん、期待してるね」
そんなわけで、俺はだいに感謝の気持ちを込めてニッと笑ってみせ、とりあえず今日はもう考えるのはやめにした。
本当もう、頼もしすぎる彼女だよ。
そしてそんなことを改めて感じつつ、適当にみんなに
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