第653話 昨日のアレはなんとやら
現れたログに、俺は目を見開く。
それと同時になんとも間抜けな声が出る。
いや、でも——
「莉々亜すごいね。どんな聞き方したんだろうね?」
「……アホなんじゃないか……」
俺のこと好きな人がたくさんいるんですか?
一体どんな話をすれば、そんな質問がやってくるのか?
これにはさしものだいも苦笑いのようで、振り返らなくてもその声からだいの表情が伺えた。
もちろん俺も思わず目を閉じ天を仰ぐ。
〈Jack〉『ゆっきーそれどゆことーーーーwww』
〈Loki〉『このギルドのみんなゼロさんのこと好きっすけどね!w』
そして覚悟を決めて溜め息混じりに目を開けば、予想通りに風見さんから連絡のいってない二人が興味津々な様子で反応している。
どゆことってね、俺も聞きたいくらいなんだけどね!!!!!
〈Yume〉『ゆっきーはストレートだな〜』
〈Yume〉『でもわたしもその人に「ゼロさんのこと好きっすか!?」って聞かれたんだけど〜』
〈Yume〉『わたしのことどんな風に話してるのかはとりあえず置いといて〜』
〈Yume〉『ゼロやんのこと好きな人でチーム組もうってどゆこと〜?』
〈Jack〉『なにそれーーーーwww』
〈Loki〉『すごい提案っすね!w』
〈Yukimura〉『私もそれを聞かれました』
〈Zero〉『あー・・・』
〈Daikon〉『ごめんね、二人に連絡いくかもって言っておけばよかったね』
そしてさらに重なる質問に、仲間たちが盛り上がり、どう言ったものかと思った俺が
この問の回答は、たぶんだいの方が適任だから、うん。ここは任せよう。
「返事よろ」
「任された」
そう判断し、俺はくるっと椅子を回転させ、だいにピシッと敬礼する。
そんな俺に気づいただいは一度きょとんとしていたが、その後ふわっとした笑みと共にゆるーい敬礼を返してきて可愛いかった。
そんな一瞬のほのぼの感を補給しつつ、俺はまたくるりと椅子を戻して、だいの説明を待つ。
〈Daikon〉『〈Hideyoshi〉って私のリアフレなんだけどね、色々あってゼロやんとも面識があるんだ』
〈Yume〉『ほほう』
〈Yukimura〉『そうなんですね』
そうしてだいの説明が始まってすぐ——
〈Jack〉『【The】ってとこのギルドリーダーの人だよねーーーー?』
どうやら
〈Daikon〉『うん』
〈Zero〉『よく知ってんなー』
〈Jack〉『くもん経由で知っただけだよーーーーw知り合いが移籍したとこだからさーーーー』
〈Daikon〉『あ、それって星さん?』
〈Jack〉『あ、だいも知り合いなのーーーー?』
〈Daikon〉『うん、私と星さんは製作職人仲間なの。たまに話したりするよ』
〈Jack〉『あーーーーwなるほどーーーーwって話逸らしてごめんねーーーーw』
説明開始と見せかけて秒速で話が脱線したが、この辺はさすがジャック。大人の対応というか、おそらくぴょんあたりだったら永遠と逸れ続け地球5周くらいはしたであろう会話をすぐに修正してくれた。
〈Yume〉『んとさ〜、ゼロやんとの面識ってLAの中だけじゃないって感じ〜?』
〈Daikon〉『うん。経緯は色々あったんだけど、ゼロやんも中の人と会ったことあるよ』
そしてその軌道修正を確認してから追質問を放つゆめ。
いやぁ、この会話の流れがスムーズな感じ、今日のメンバーは平和だなぁ。
〈Yukimura〉『それで、だいさんのお友達とのことですが、その方もゼロさんのこと好きなんですか?』
〈Daikon〉『んー・・・
〈Zero〉『え《「え」》』
なんて思ってたら、流石ゆきむらってレベルのキラーパスが飛んできて、だいがそれを肉声共々スルーパス。結果的に俺の前にそのボールがやってきたのだが、その予想外の展開に
〈Yume〉『聞いてきた時のテンションとか色々考えてみると、文脈的にそうなんじゃない〜?』
〈Daikon〉『そうだね。お兄様お兄様って懐いてるよ』
〈Yume〉『へ?』
〈Yukimura〉『むむ?』
〈Loki〉『お兄様なんすか!?』
〈Jack〉『ゼロやんがお兄ちゃんなのはいっちゃんでしょーーーーw』
俺の返答を待つことなく、想像でゆめがゆきむらの問に答えてくれた……のだが、結果的にだいがその答えにいらん補足をしてくれて、その余計な情報にまたみんなが騒ぎ出す。
〈Zero〉『それはキャラの見た目が似てるだけだからな?俺もあいつも黒髪男ヒュームってだけだからな?そして俺は〈Hideyoshi〉を弟だなんて思ってないからな?』
そんな再びの脱線ムーブに、俺はタタタンっとキーボードを叩いて、端的に風見さんのお兄様発言の理由を説明する。
己の職務を忘れるな。たしかにいつもより話がスムーズなメンバーしかいないが、元来話を進めるのは我が役目ではないか。
そんな反省を一人でしつつ、俺が話を戻そうとすると——
〈Yukimura〉『むむ?つまり〈Hideyoshi〉さんは男の方なんですか?』
その文字に、時が止まった。
〈Yume〉『いやいや〜、たしかに今ゼロやんが弟とかって言ったけど、それはLAのキャラの話だろうし、男の人がお兄様なんて言ったりしないでしょ〜』
〈Yume〉『それにだいのリアフレだよ〜?女の子でしょ〜』
〈Jack〉『たしかにーーーーw』
〈Daikon〉『否定しません』
〈Yukimura〉『なるほど。男キャラなのに中身は女性なんですね』
〈Zero〉『え、ゆきむらそれ素・・・?』
〈Jack〉『あたしもだけどゆっきーも元々キャラ男で中身女でしょーーーーw』
〈Daikon〉『でも私もだけど、最近は見た目変えてるもんね。そっちに慣れてきちゃったのかも?』
〈Yume〉『なんちゃって男の子多いからな〜、うちは〜』
〈Jack〉『てへーーーーw』
〈Daikon〉『てへ』
〈Yukimura〉『あ。てへ』
〈Loki〉『ゆっきーさん合わせたっ!w』
流石にゆきむらの天然には全員がツッコみをいれたくなったのか、優しげなだいを除いてみんな「っておい!」って空気を作ったけど、たしかにまぁね。
最近は
っと、また話が逸れた。
まぁこうやってみんなと話してるのも悪くない、んだけど、ゆめとゆきむらは結局本題が見えてなさそうだからな。
そう考えて——
〈Zero〉『まぁつまり!』
〈Zero〉『色々あってリアルでもLAでも懐かれてんだよ』
〈Zero〉『でもあれだぞ?無理に誘い受けなくてもいいからな?』
〈Zero〉『そもそもゆきむらはリダのチームに入ってるし、ゆめはソロで大会出るつもりだったんだろ?」
と、進まない話に決着をつけるべく、俺は二人にフォローをいれたのだが——
〈Yume〉『でもゼロやんたち、セシルいれたトリオから、他二人足してスタンダードなるんでしょ〜?』
〈Jack〉『らしいねーーーーw』
〈Yume〉『で、〈Hideyoshi〉さんたちのチーム片想いはゼロやんたちと勝負したいけど、まだ3人しかいないらしいじゃん?』
〈Yume〉『だいもこの話知っての上って感じだし〜』
〈Yume〉『だとしたら、わたしは入ってあげてもいいかな〜ってちょっと思ってるぜ〜』
〈Zero〉『え』
〈Yukimura〉『ゆめさんもゼロさんに片想いだったんですか?』
〈Yume〉『おうよ〜。ゆめちゃんはみ〜んなのことが好きだからね〜。返してもらえなかったら片想いだよ〜』
〈Yukimura〉『私もゆめさんのこと好きですよ?』
〈Yume〉『じゃあゆっきーとは両想いだね〜ありがと〜』
〈Daikon〉『私もゆめのこと好きだよ』
〈Jack〉『わたしもーーーーw』
〈Loki〉『俺も好きっす!w』
〈Yume〉『みんなありがと〜』
話を進めた、話が進んだと思ったのに、あっという間にまた逸れる。
そして何ともまぁ同調圧力を感じさせるような流れがやってきて、「え、これ俺も好きって言う流れ?」って迷いながら、ちらっとだいの方を振り向けば——
「よそ見しないの。ゆめ話してるよ?」
「え?」
何事もないかのようないつも通りの雰囲気で、だいが俺にモニターを見るように促した。
俺が言うのもなんだが、正直その様子は正妻の貫禄というか、そんな余裕が伺えたほどである。
そんなことも思いつつ、俺が再びモニターに目をやると——
〈Yume〉『ゼロやんは答えなくていいからね〜、わたしが参加しづらくなっちゃうから〜』
なんてログが現れてて——
〈Yume〉『ってことで、だいのリアフレって分かったなら面白そうだし、〈Hideyoshi〉さんの誘い乗ってみようと思いま〜す』
〈Zero〉『マジ!?』
何ともまぁあっさりと、ゆめが風見さんのチームに入る表明がなされてしまった。
そして——
〈Jack〉『ゆめいいのーーーー?』
〈Yume〉『うん〜』
〈Yume〉『実はぴょんとちょっと話してたんだけどね〜』
〈Yume〉『いっちゃん自分のレベル低いからって今回の大会参加見送るって言ってたけど〜』
〈Yume〉『第一回大会にリアタイで参加できるって超レアじゃ〜ん?』
〈Yume〉『練習もよく参加してくれてるし〜』
〈Yume〉『だからさ〜、リダのとこからぴょん抜けていっちゃん入れてあげて、わたしとぴょんがあーす引っ張ってトリオ組んで大会でよっかって話はしてたんだ〜』
〈Jack〉『ほほーーーーw』
〈Loki〉『そうだったんすね!』
なんだ、と……!?
このタイミングで話題に上がった真実のこと。
たしかに真実は、〈Hitotsu〉は装備こそ揃ってきてるが、まだまだ他のメンバーとの力量差は大きい。特に個人の判断力が求められる今回の仕様では、活躍が難しいのは事実だろう。
とはいえ、ゆめの言う通りみんなで練習する時は参加してるし、反省会にも参加してる。本人は「次の大会までにはもっと強くなりますね!」なんて言ってたけど、そりゃそうだよな。何が正解か分からない第一回大会なんだもんな。
参加した方が面白いに決まってる。
でもまさか、俺の妹のためにそこまで考えていてくれてたとは。
そんな話が明らかになり、俺はモニターの前で閉口した。
なんていい奴らなんだと、じわじわとゆめぴょんへの感謝が湧き上がる。
そんなプチ感動があったのだが——
〈Yume〉『だから今回の誘い受ければさ〜、ゆっきーといっちゃんの入れ替えでおっけーじゃ〜ん?』
〈Zero〉『あ』
〈Yukimura〉『なるほど。たしかに』
〈Yume〉『渡りに船、Win-Winってやつだよ〜』
〈Loki〉『みんなで遊べた方がいいっすもんね!名案っす!』
〈Daikon〉『じゃあゆめとゆっきーは、私たちのライバル決定だね』
〈Yume〉『だね〜負けないぜ〜』
そしてゆめの発案にゆきむらもそれに乗っかると言い出して、あれよあれよとんとん拍子で話が進む。
そんな流れに俺は見事に置いてけぼりになったのだが——
〈Yume〉『〈Hideyoshi〉さん以外にもまだ二人はゼロやんのこと好きって人たちがいるみたいだから、その人たちも気になるしね〜』
〈Daikon〉『だいたいはいい人だよ』
〈Jack〉『みんな知ってるんだーーーーw』
〈Yukimura〉『チーム片想い頑張ります』
〈Loki〉『俺たちも負けないっすよ!w』
呆気に取られる俺を置き去りにしながらあれよあれよと話がまとまっていって、ゆめとゆきむらが風見さんと太田さんとうみさんのパーティに加わることが決まっていく。
それを受け、みんなが盛り上がる空気になっていく。
あれ? これ俺だけ乗り遅れてる!?
でもリダたちの承諾いらないの!?
盛り上がるみんなの会話を見ながら、そんな焦りを覚えるが——
〈Yume〉『これでジャック以外はみんなライバルだね〜』
これがみんなライバルだと、ゆめがそう言った直後——
〈Jack〉『ちなみに、あたしも今回事情があってスタンダードになったんだよーーーーw』
ジャックが、あのジャックが——
俺たちのライバルになることが告げられたのだった。
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