第613話 新たな展望へ
「ハーレムに加えて欲しい=アタシがお前のこと好きだと思ったかー? 調子乗ってんじゃねーよ」
「あたっ」
急にPvPって単語を出されてぽかーんとしていた俺の額に、ぺしっと
これがLAの世界なら被弾による混乱デバフが解除されたことだろう。
だがここはリアルの世界。LAの法則は通じない。
ってことでまだ混乱する俺に、レッピーが今度はさっき攻撃に使ってきた人差し指をピンと伸ばして俺の額に当てながら、そのくりっとした可愛い瞳を線のように細めイタズラっぽく楽しそうに笑って——
「アタシは心配性だからな。友達カップルと元カノのパーティとか、そんなリスクだらけなパーティ黙って指を咥えて見てられっかよ。
「へ? ……え!?」
まさかまさかなその言葉に、その提案に、俺はあらゆる言葉を失うのだった。
☆
11月29日、日曜日、夜11時04分。
「明日相談したら連絡するね」
「ん。まぁおせっかいかもしんねーけど、ガンナー2のロバー1だろ? 正直勝つのしんどいだろ」
「それはまぁ、さっき話したが否定できん」
結局ピンクなことなんか何もなかったラブなホテルを後にし、俺たちは新宿駅のホームにやってきた総武線各駅停車に揃って乗り込んで、それぞれの最寄り駅に向けて出発した。……え? あ、いや、もちろんピンクなことなんか元々何も考えてなかったけどね? 当たり前じゃん? 俺は義によって立ってるんだから!
と、そんなことは置いといて、レッピーからのまさかの提案を受けたあの時、俺が彼女に伝えたのは「俺の一存では決められないので、だいとも相談してもよろしいでしょうか?」だった。
そう、露骨に大人の必須スキルたる〈
ただ、もちろん答えを待ってもらいつつ、俺の中ではレッピーを加えたら総合的にメリットがでかいだろうって予想は立てた。
ヒーラーを加えれば、俺の試算では勝率は上がる。正直最近の練習で今の編成に頭打ち感があったし、いっそ俺が盾使うって選択肢も話題に上がるくらい迷走してたわけだから。
しかもそもそも人数を増やすって選択肢を俺たちは考えてなかったから、俺からすると目から鱗だったのは否定できない。
でも、結局一人では決められないから、だいが起きるまで待ってと伝えた後、俺たちはけっこう冷めてしまった飯を食いながら、かなりガチめなPvPトークを展開した。
テーマはもちろん今回の大会の
で、この話において、俺とだい、亜衣菜によるトリオ編成は限りなく厳しいだろうという結論も見出された。
さっきも言った通り、実際3人でここまで練習試合的にやってきたPvPでの勝率は芳しくない。
そもそもノーヒーラー、ノータンクの脳筋編成なわけだが、中身が遠隔アタッカー2枚と遊撃アタッカーという、器用さはあっても近接アタッカーを集めたパーティよりも数段脆いパーティなのだ。どうにかこうにか相手を近づけさせずに相手の誰かを落とせれば勝ちパターンではあるが、俺か亜衣菜が敵に近づかれると万事休す。そしてこの相手を近づけさせないというのが正直かなり難しく、だいが足止めをくらったりしたらほぼ詰みだし、相手に盾役がいて落とすのが遅れるとジリ貧になって詰むし、ヒーラーがいて撃破が遅れるとジリ貧になって詰むわけだ。
この状況をどう改善していくべきかについては、
ってこともあったので、俺個人の考えで言えばレッピーからの提案は賛成なわけなのだ。
さりとてトリオは亜衣菜が望んだパーティだったから……俺に言えたのはみんなに相談するって答えだけ。
そしてこの話を可愛くねんねしていただいが起きてから伝え、今に至る。
「でもスタンダードになるとしても、盾は誰に頼むの? ゆっきー?」
「いや、ゆきむらはもうリダのチームでやってるからな。引き抜けんだろ」
「そこはお前の得意の人脈で探してくれや」
「つってもなー……」
そしてもしレッピーを入れるとして、あと一人は間違いなく盾役が望ましいのだが、それを誰にするか。これはかなりの難問だ。
自分で言うのもなんだが、元々の3人もレッピーも、全員が全員LAガチ勢と言えるメンバーで、相当に知識と経験が深い。だからこそ臨機応変さには相当な自信が持てそうなのだが、それについて来れる盾役となるとかなり数が絞られる。だってパッと候補として俺の頭に浮かんだのは、本当に数人だったから。
まず最高位として浮かぶのは最強の盾の異名を持つ【
ならば次点として誰か?
俺の知り合いで考えていくと、うちのリダとか最近ちょこちょこ組んでた〈Ikasumi〉さんなんかは腕前としてはいい感じだろう。
でもこの二人が組むチームを俺はもう知っている。さっきも言った通り、リダは【Teachers】のメンバーとチームを組んでるのだ。しかもそこにはうちのサブ盾であるゆきむらと大和もいるから、ゆきむら大和も誘えないのは確定。……というかこのパーティは俺とだいが亜衣菜と組んでトリオでやってみるって宣言して、リダの誘いを断ったパーティだから、ここから誰かを引き抜くのは人としてあり得ない。
そうなるとあとはレッピーのとこのりもちゃんが浮かぶくらいだけど、これまでの付き合いから〈Limon〉にこのメンツの盾は正直荷が重いだろう。
もちろん腕前は悪くないのだが、〈Cecil〉がパーティメンバーにいることで相当な注目を浴びるわけだから、割とビビりで謙遜する性格のりもちゃんが本番テンパってもおかしくない。
そうなると……いや、ほんとに誰も浮かばないんだよな。
もちろん育て鍛えるって道はあるけど、いかんせん大会までもうほとんど日数がない。予選の予選って話のNPC戦開始が12月7日の月曜日だから、もう10日もないのだ。
……え? じゃあ〈Earth〉はって? いや、あーすはいかん。たぶん亜衣菜とレッピーに怒られる。あ、言っとくけど性格の話じゃないぞ? 技量以前に、心持ちの話だぞ? あいつ言われたことは出来るけど、言われたことしか出来ないし、自分で考えないからな。悪いけどここは除外ってわけだ。
しかし、そうなると……ううむ。
「ま、どうしようもなかったらこの話はなかったことにしてくれてもいいけどな」
そんな俺があれこれ考えているのが伝わったのだろう、さすが気遣いの人よろしくレッピーがダメならダメでいいってことを言ってくれた。
あ、ちなみにこんな前向きな会話しているが、レッピーの提案をだいに伝えた時の反応は、最初は困惑だった。
だいとしても亜衣菜が俺とだいと組みたいって言ってきたのは、俺たちと遊びたいという、俺らの関係性が理由ってことを分かってたからだろう。実際色々あったけど、雨降って地固まる的な感じだったからな、亜衣菜の望む3人で、っての気持ちはだいの中にも強かったんだと思う。
しかし楽しんだもん勝ちってのが俺の考え方だとしても、やはり勝てないのはストレスなわけだし、今度の大会ではガンナー〈Cecil〉の復権という目論見もある。
いや、実際〈Cecil〉人気が落ちてるとか、オワコンとか言われてるとか、俺はそんなの感じたことないんだけど、これは本人が気にしてたとこだからな。亜衣菜としてはこの目的もあるのだろう。
そうなれば楽しむことを優先しつつ、勝つことも考慮したくなる。
だから俺らはどうすればいいかをあーだこーだ話し合ってきたのだが……そこで今回のレッピーの提案だったわけだ。
亜衣菜の希望と、レッピーの提案。
この折衷案として俺が考えたのが、メインアタッカーを〈Cecil〉とする5人パーティ。
メインアタッカーに〈Cecil〉、サブアタッカーに〈Zero〉と〈Daikon〉。ヒーラーに〈Reppy〉。そして盾役に誰か。
これがもしレッピーを加えたらの想定だ。
「私も亜衣菜さんがOK出したら、誰かいないか探してみるね」
「え、だいに知り合いいるの?」
「少しくらいいます。ギルドは別だけど」
「「別ギルド?」」
そして悩む俺に気遣うレッピーの姿を見てか、だいも俺のフォローをしてくれたけど、その発言の中で聞かされた別ギルドという言葉を、俺とレッピーは二人揃って聞き返した。
そんな俺たちのリアクションが心外だったのか、だいは少しだけ拗ねた表情を見せてから。
「星さんか佐竹先生なら知ってるもん」
「あー、佐竹先生って知らんけど、星がいたか」
「あー……たしかに佐竹先生の〈Cider〉さんて盾って風見さん言ってたか」
「うん」
その発言に、俺とレッピーが「あー」となる。
そんな会話をしたところで——
「っと、そろそろ東中野か。じゃ、メンツ集めよろー。今日は楽しかったぜー。だい愛してる。ゼロやんはまた明日なー」
「うん、私も楽しかったよ。明日行けなくてごめんね。ゼロやんのことよろしくね」
「ういうい」
「とりあえず、また明日な」
「うぃー」
新宿から東中野は近いもので、いつの間にかあっという間にレッピーの最寄り駅に到着し、ひらひら手を振りながらレッピーが電車を降りていく。
その軽い感じの後ろ姿に、今日が初対面でも実際は長い付き合いを重ねてきた相手って感じを覚えて俺は思わず苦笑い。でもまぁ、明日も会うわけだしな。こんくらいでいっか。
去り行く友の背中で揺れる茶髪を眺めながら、俺がそんなことを思っていると。
「ふふん」
「ん?」
レッピーの姿が見えなくなった直後、隣に立っていただいが手を繋いできて、俺はそちらに顔を向ける。
「またお友達増えちゃった」
するとだいは何とも嬉しそうな声と表情を浮かべていて、今日が本当に楽しかったってことを言葉にせずとも伝えてくれた。
「ゲームの中よりずっと話しやすい人だったね」
「そうかー? 俺からすれば変わんねーけどな」
そしてだいの嬉しそうな感想に俺は苦笑いのまま返すけど、会えてよかった、その気持ちはだいと一緒だった。
「メンバー探しかー」
「その前に亜衣菜さんとの相談でしょ?」
「たしかに」
そして今日の日の振り返りと、明日からのやらなきゃいけないことを思いながら、俺はもう少し電車に揺られる。
でも、だいと繋いだ手は離さない。
この手を繋いでいれば、きっとなんでも大丈夫。
レッピーに言われた言葉を脳裏に掠めさせつつも、俺は楽しそうな笑顔を見せるだいにそう思うのだった。
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