第612話 クロスカウンター
「大丈夫だと思うけどな」
「ん?」
「あれこれ考えてもさ、俺には今の話がそこまで悲観的な話には聞こえんよ」
「え——」
俺の言葉に信じられないって表情を見せるレッピーに、俺は小さく笑って言ってやった。
でも、だってさ——
「要は俺が離れなかったら、それで何も問題ないわけだろ?」
「あー、まぁそりゃそうかもだけど……」
「そりゃ俺だってだいにマジかよって思ったことはたくさんあるよ。でもさ、それも結局は俺を好きでいてくれるからで、それがだいなりの気持ちの示し方なわけじゃん?」
俺はだいが好きだ。
それがあれば大丈夫。
そんな想いを、俺はレッピーに伝えていく。
「俺がいなくなったらとか、そんなこと好き同士で一緒にいんだから今考える必要ないだろ」
「あー……」
「それにさっきお前が言ったんだぜ? この寝顔は俺がいるからって」
「……そっか」
「そうそう。だから大丈夫だって。もちろんレッピーなりに心配してくれたんだろうけど、むしろその心配性なとこ、流石レッピーって感じだよ」
「……うるせえ」
そして俺が真っ直ぐに伝えた言葉に恥ずかしがってしまったのかレッピーが俺から目を逸らすけど、その姿に俺はまた小さく笑った。
レッピーの心配性、というかその気遣いし過ぎる性格を、俺はよく知っている。
1と0の世界の全てのプレイヤーには中の人がいて、中の人の影響を受けないキャラクターなど存在しない。
だから俺は、よく知っているのだ。LAの世界の中で、口調や振る舞いに反して心配性な友達の存在を。
これを口にすると今みたいに拗ねてしまうけど、こいつはいつも仲間がみんな楽しめているか気にかける、誰か不満に思ってたりしないか気にかける。
それが〈Reppy〉って奴なのだ。
そしてその
レッピーってのは、そういう奴だから。
「俺ら付き合いなげぇからな」
「そういううぜぇとこ、アタシもよく知ってるよ」
そんな拗ねた彼女へ俺が笑えば、机に突っ伏す姿勢になりながらも、ちゃんとこっちを見上げて言い返してくるレッピーは、やっぱり俺の知る〈Reppy〉だった。改めて俺の知る性格だってことが伝わった。
「ははっ! じゃあそうだな。ある種親目線で思ってくれてんなら、むしろ俺らが大丈夫ってこと見届けてくれよ?」
「あ?」
そんなレッピーに俺がパッと思いついたことを口にすると、こいつは俺を怪訝な目線で見上げたまま、明らかな「意味不明」を示してきたけど——
「だってヒーラーだろ? 俺らのどっちかが傷ついたら回復してくれってことだよ」
そう言って俺はまた笑ってみせる。
だが——
「やだわ、お前癒すとか。っつーかアタシの本業はアタッカーだっつーの。……はぁ、はいはい分かった分かった。アタシの杞憂。そういうことでいいってもう」
不安なんか欠片も見せず、大丈夫って顔を見せる俺の雰囲気に押されたのか、身体を起こしたレッピーは呆れた顔で両手のひらを天井に向け、分かりやすい降参を示してくれた。
と思ったら——
「つまりアレってことだろ? アタシもお前のチームハーレムに参加しろってことだろ?」
「んっ!?!?!?」
急転直下の謎の笑顔を浮かべると、謎の単語、チームハーレムというものが繰り出され、今度は俺が穏やかな笑顔を失った。
え、何それ!? 聞いたこともないんだけど!?
まさか少し前に考えていたことがバレたのか!? ってそんなエスパーなことはあるまいて! え、じゃあなんだ? どういう意味だ? てか参加ってなんだ? え、レッピーって、え!?
と、露骨に唖然茫然と混乱する俺に——
「見届けろっつったじゃん? つまり、そばにいて欲しいってこったろー?」
「え、いや、え!? ちが——」
「まぁアタシお前に可愛い認定されてっからなー。しょうがないかー」
「いや、だから——」
続々と自分の言った言葉、思ったことを利用され、俺は言い返す言葉を見つけられなかった。
そして——
「それにアレだろ? もしお前がだいより先にアタシと出会って、アタシがだいみたいなムーブかましてたら、たぶんアタシと付き合ってたろ?」
「え、は? はっ!? った!!」
さらに予想外の発言が重なって、俺は驚きのあまり後退りしようとして、華麗に椅子から落っこちた。
そんな俺を、両手の指先で口元を隠そうとしながらも、全く隠せておらずニヤニヤしてるのが丸わかりの顔は見下ろしてきていて——
「慌てんなバーカ。残念ながらそれは別な世界線の話だよ。お前はだいの彼氏だろ? アタシにとってお前は友達で、
そう言って、白い歯を見せてニッと笑われる。
それはムカつくくらい爽やかなすっきりした笑顔で、その笑顔に一瞬心を奪われた。
だがすぐに気を取り直し——
「いや、でもハーレムって——」
笑顔には見惚れてしまったが、その笑顔の意味が分からなかったから、俺はさっきのレッピーの言葉を反復した。するとレッピーはトンっと椅子から降りて、床に尻もちをついている俺の前で目線を合わせるようにしゃがみこんで——
「お前らのPvPのチームのことに決まってんだろバーカ」
「え?」
可愛いらしい笑顔とともに、予想外of予想外な言葉を告げられたのだった。
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