第604話 奇跡の勝ちは
「私とゼロやんは
「あー……なんかもう、笑うしかねぇな」
ビバ「————」。
偉大だぞ「————」。
全ての過去を網羅してくれる「————」。
素晴らしい。
……っと、いかんいかん。天の声が漏れかけた。
えっと、つまりあれだ。だいとレッピーとの奇跡具合対決という、正直意味の分からない対決のために始まっただいの語りはかなり長く続いたのだが、端的にまとめると以下の感じだった。
・7年くらい前の野良パーティで俺と連続で一緒になったことが俺とだいの出会いであり、LAでの長い付き合いが始まったきっかけであること(※俺はだいを男と思っていたけど)
・そのうち俺に誘われて一緒に【Mocomococlub】に入ったこと。この頃から居心地のいい相手から、明確に好きな相手と意識し出していたこと
・俺が就職後【Mocomococlub】の活動がしんどそうなのを感じてたから、一緒に抜けたこと
・俺が東京で教員やりたいって聞いたから、だいも東京の教員を目指したってこと
・【Teachers】に一緒に入ったこと
・初めてのオフ会前の合同練習で出会ったこと
・その後オフ会で出会って、好きが止まらなくなったこと
・家が近所だったこと
……正直改めて聞くとどんな確率で今に至ってるんだって話だし、だいから俺への矢印がかなり強かったんだなって分かって、かなり恥ずかしいねこれ。
でもそんな話を聞いてレッピーは——
「ギルド違うとことかゼロやんしゅきしゅきってとこは違うけど、アタシもなかなかの奇跡だと思ってたんだけどなー。職業まで追いかけるとか人生かけてんじゃん」
「しゅきしゅきなんて言ってないよっ」
ご丁寧に「しゅきしゅき」の時には自分の両手を握って声高に斜め上を見ながら伝えるという明らかな誇張表現を使って話をまとめていたのだが——
「うん、結論だけどアタシの負けだ負け。でもなんだろ、負けて悔しくないっていうか……違うな。この感情はあれだ、うん」
少し早口気味になりながらも最後にはニコっと口を閉じ、口角を上げる微笑みを見せてから——
「引いた」
スッと一言そう言った後、めっちゃ笑っていた。
その姿にだいが「もうっ、なんでよ?」なんて少し可愛いらしく抵抗してるけど、どうやらレッピーにその抵抗が届いている様子はない。
俺だってこれを客観的に聞いてたら……いや、ここはノーコメントでお願いします。
「いやもう全部やべーけどさ、特にオフ会前に仕事で会うとか、なんだその引き。恐ろしすぎだろ。しかもこの鈍そうなのは置いといて……あれだろ? きっとだいはそこでゼロやんって気付いたんだろ?」
そしてひとしきり笑ってから、レッピーが何か意味ありげな視線をだいに向けて質問を投げかける。
「あー、そういや連絡先交換した時の俺のアイコンが
「いや」
その問に少し言い淀む様子のだいが見られたから、俺が代わって会話に割って入って答えてみたが、何故か俺の言葉は途中で遮られ——
「そうじゃねーだろ? だいならきっとこの顔ですぐピンと来てたんじゃねーか?」
「え——」「え?」
意味ありげな言葉と視線をだいに向けながら口にされたレッピーの言葉には、どこか確信めいた自身が込められているようだった。
そのレッピーの言動に、俺とだいが発した音は
「だよなー。ずっとこの顔見てきたんだもんな。そら何かしらは思うよな」
「……よく分かったね」
「アタシも長いことこの顔見せられてきたからなー。マジで抜け出してきたんじゃねーかって感じだし、よく捉えてると思うよあのキャラメイク」
「あ、レッピーさんもすぐだったんだ」
「腹立たしいけどな」
「?
話が見えない俺を置き去りに、だいとレッピーの二人の間では謎の会話が続いていく。
優しげな表情を浮かべるだいに、少し神妙そうな顔つきのレッピー。
なんだか二人の空気感を出し始めた両者に俺は蚊帳の外感を覚えていると——
「いや、だってさー、あの顔だぜ? あの可愛い男子系の顔にキャラメイクするとしたら女かチヤホヤされたい非モテだろって。そんなキャラを誰が自分で自分作ったってと思うんだよ」
「……は?」
「そ、それは偏見が強いんじゃないかな?」
急にビシッと俺の顔を指差しながら、レッピーが何とも炎上しかねない発言をかましてくる。
その言葉に俺は戸惑い、だいが火消しに走るが——
「アタシも最初はほんのちょっとこいつ女かと思ってる時期もあったけどさ、マジ一瞬で中身女説は消えたんだよな。こいつデリカシーない会話も多かったし」
「それも失礼な言葉だなっ」
「それは……ちょっと分かる」
「え、だい分かっちゃうの!?」
「だろ? それにあんだけ可愛い系で作ってんのに、こいつマジのゲーマー過ぎてモテようって言動なんもないじゃん? だからマジであの顔にはどんな意図があんのかって、昔モデルでもあるのか画像検索したこともあったからな」
「あ、そんなことしてたの……?」
「まぁな。でもまさか、ガチで本人に似てるとは思わなかったぜ。どんだけ鏡見て作ったんだよお前?」
「え、あー、いや……」
「ん?」
恐ろしい暴論だとは思いつつ、一気呵成に捲し立ててきたレッピーを止められない。
そんな勢いに押し負けて、いつの間にやら
で、でもこの問いの答えは……言ってもいいものなのか。
どうするべきかと気まずさに視線を彷徨わせた俺を、相変わらず無駄に輝くミラーボールは笑っているかのように見えたのだった。
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