第595話 文字だけでも分かるもの
「星さんって、【Bonjinkai】に移籍したの?」
「え? ああ。場合によっては考えてなくもないんだけど、俺はまだ【The】のメンバーだぞ」
「え、何お前うちに移籍とか考えてんの?」
「でもそういやレッピーのとこの
だい、〈Star〉さん、レッピー、俺と順に続く言葉たち。
こんな会話がなされていたのは、自販機やら座るとこやらが備わっている休憩スペースのようなとこだった。
そう、レッピーから「一緒に遊ぼう」と誘われた後、俺と〈Star〉さんがお互い相手の名前は知ってるけど、どんな奴か知らないってことで、まずはちょっとおしゃべりしようという流れになったのだ。
つまり結局俺とだいはバッティングマシーンでは遊べなかったんだけど、この辺はまぁ後でやるとしよう。
で、とりあえず簡単に今話してたメンバー同士の情報をまとめると
〈Zero〉:本職ガンナー。中身は27歳。
→〈Daikon〉:彼女。LAでの付き合い7年。
→〈Reppy〉:サービス開始当初に所属していたギルドが一緒で、そこが解散した後も何だかんだずっと付き合いが続いている腐れ縁フレンド。LAでの付き合い8年。
→〈Star〉:数ヶ月前に名前を知っただいの知り合いで、
〈Daikon〉:本職ロバー。中身は25歳。美し可愛い。
→〈Zero〉:彼氏。LAでの付き合い7年。
→〈Reppy〉:彼氏のフレンド。俺を介してLA内でも一緒に遊んだことあるが、どうやらフレンド登録はしてないらしい。LAでの付き合いは6年くらい、たぶん。
→〈Star〉:製作職人としてのフレンド。素材の融通などで交流があるが、パーティを組んだことはない。LAでの付き合いは4年らしい。
〈Reppy〉:ギルド【Bonjinkai】リーダー。本職アタッカーだがヒーラーとして回復の早さに定評有り。中身はだいとタメらしく25歳か26歳。口が悪い。
→〈Zero〉:くだらないことでメッセージのやりとりをしたりする付き合いの長いフレンド。たまに助っ人に呼ぶ。付き合い歴は前略。
→〈Daikon〉:
→〈Star〉:何故か先月の第二回【Bonjinkai】オフ会に参戦してきて知り合う。LA内での付き合いは1ヶ月。
〈Star〉:本職グラップラーの廃神。元【Vinchitore】だが色々あって脱退。現在は【The】に所属。壊れ性能の格闘武器サハスラブジャヤを所有。年齢は33歳らしい。
→〈Zero〉:〈Cecil〉がやたら気にしてるガンナーという認識。名前は知ってた。今日が初対面。
→〈Daikon〉:製作職人仲間。バザールでよく名前を見たことから連絡を取りだし、素材アイテムのやりとりでたまに話す。最近見た目が女キャラになったことにびっくりした。付き合い歴は前略。
→〈Reppy〉:先月のオフ会に押しかけさせてもらったことでフレンドとなる。〈Reppy〉のことはいい奴だと思ってるらしい。アンビリーバボー。付き合い歴は前略。
って感じだな。
で、気になるのは何故〈Star〉さんが【Bonjinkai】のオフ会に参加したのかということなのだが——
「あ、俺は星でいいよ。みんな星って呼ぶし。俺もゼロやんって呼ぶからさ」
「え、あ、はい。分かりました」
「おいおい、たしかに俺だけけっこう年上だけどさ、敬語もやめてくれって。同じ冒険者だろ?」
「りょ、了解」
おそらく元【Vinchitore】同士の〈Risaco〉経由で何かあったんじゃないかと想像して尋ねた俺に、まずは〈Star〉さん……じゃなくて星さんから敬語禁止の要望が伝えられた。
ここで「同じ冒険者」なんて言われたら、LAプレイヤーとしてNOとは言えないけど、とは言えリアルじゃ初対面だし、全然話したことない相手に敬語使うなって、けっこうむずいよな。
「で、ゼロやんのさっきの質問だけどさ、俺はたしかに〈Risaco〉と知り合いだぞ。ってか実際のとこだいぶ昔からフレンドだな」
「あ、そうなんで……だ。つまりそこ経由でレッピーんとこのオフ会に?」
「だな。こいつがうちのりさこに会いたかったみたいでよー。寛大なアタシが参加を認めてやったってわけ」
「寛大?」
「どこぞの顔広野郎に愛想尽かすことなく付き合ってやってるアタシが寛大じゃなかったら何なんだね君」
「いやそれなんか俺がかまってちゃんみたいじゃん!?」
「たしかに顔は広いわね」
「ノーフォロー!?」
そして星さんが俺の質問に答えてくれて、俺がさらに確認の質問するや否や、何故か割り込むようにレッピーが代理応答してきた上に毒舌を塗り重ね、そこにだいが追い打ちをかけてくる。もちろん俺はレッピーの毒舌を否定するようにツッコむけど、なんだろうこの感じ。こういうやりとりへの既視感がすごい。すっごいデジャヴなんだが!?
そんなことを考えながら俺が星さんからレッピー、そしてだいへと絶え間なく顔を向ける方向を変えていると——
「いいツッコミだなぁ! うちのギルドに欲しい人材だぜゼロやん!」
「いや褒めるとこじゃねーから!?」
爽やかな笑顔を浮かべて星さんまでふざけてきて、俺はあっという間に敬語を払拭することが出来ましたとさ。……いや何でやねん!
と、回ってくる役回りが【Teachers】のオフ会と変わらないことにツッコミたい気持ちが溢れてくるも——
「ま、つまりそういうことなんだけどさ。いやぁ、LA内での〈Risaco〉はオンライン上ながらいい女だなぁと思ってたんだけど、やっぱりリアルでもいい女でさ。完全に惚れたよね俺」
「……へ?」
その言葉に、爽やかな笑顔で放たれたその言葉に俺は完全に虚を衝かれた。
いや、だってその笑顔が……まるで、少年みたいだったから。
言葉を飲み込ませる、これはガチだと信じさせるそんな力が込められた笑顔だった。
「そういうことらしいぜ。しっかしまぁ、オフ会後とかならまだしも、ゲーム内でしか知り合ってないLA内でのフレンドにそんな感情抱くかね? 中身の性別違ったら悲しすぎん?」
「いや——」
だが星さんが素敵な笑顔を見せる傍ら、レッピーがベンチに腰をかけたまま足を伸ばしたりさっき買った缶ジュースの缶を指先で持ってくるくる回したりしながら、やや呆れ気味な表情を見せリアリストなことを言ってきた。
でもその言葉に星さんが爽やかな笑顔を崩さずに言い返そうとしたのが見えたのだが——
「私は気持ち分かるけどな」
「あー?」
ここで間に入ったのは、だいだった。
そんなだいにレッピーが少々柄悪く聞き返すも、だいは真っ直ぐにレッピーの目を見つめて——
「オンラインの付き合いって顔が分からないからこそ本音が出るっていうのかな、対面じゃないからこそ見えてくる部分があるじゃない? その部分が相手の姿を想像させてくるっていうか、そういうのってない?」
「あー……」
「どんな人なんだろうとか、好きだなぁとか、私はあっていいと思うよ」
「あー……ああ。自己擁護か」
だいの伝えたい気持ちを受け取って、レッピーがからから笑う。それはぱっと見だいの考えを馬鹿にするような様子にも見えたのだが——
「でもたしかにアタシもどんな奴なんだろってのはたしかに思ってたからな。……いい意味でだいには裏切られるぜ」
そう言ってレッピーがニッと笑い、だいがニコっと微笑み返す。
いい意味での裏切りとは何だろう? 俺にはそれが分からなかったが、二人の間に生じたその空気感を追求するのは野暮な気がした。
とはいえ、だ。蚊帳の外扱いになってるけど、元々は星さんの話だったわけじゃん?
星さんについてはまだ分からないことがある。
その疑問が俺にはあった。
だから俺はまだいい感じを漂わさせるだいとレッピーと、それを何故か満足げに眺めている星さんたちを順に見てから、こう尋ねた。
「色々分かったけどさ、それでなんで今日はレッピーと星さんが二人でここにいたんだ?」
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