第584話 捉え方は違うから


『うむ! ちょっとずるいくらい可愛いんだよな!』

『分かります。ロキさん可愛いです』

「……えっ、えっ、えっ?」


 畳み掛けるように告げられた言葉たちに、ロキロキからはここまでの緊張感とは違う緊張感を覚えているような、そんな焦りの色が浮かんでいた。

 そしてロキロキが困惑の顔で俺を見てきたが……すまんロキロキ。あいつらの言ってる気持ちはちょっと分かる……!


『肌も綺麗だし、まつ毛長いし、おめめくりくりだし、せんかんはザ・男だからいいとしてもさ〜ロキロキなら男って分かってても、ってことが起きかねないって思っちゃうんだよ〜』

『だいさんもロキさん可愛いし……って何回も言ってましたね』

「え? いや、そんなこと——」

『正直ロキロキの純粋さはずっこいよな! あたしの次くらいに可愛く思えるからな! あたしの次に!』

『はいは〜い、そだね〜。ぴょんも可愛い可愛い〜』

『感情どこいったおい!?』

『ロキさんの笑顔、素敵ですよね』

「あ、ありがとう……っす……?」


 そしてそして、さらに怒涛のように伝えられた「ロキロキ可愛い」攻撃に、当の本人は完全にどう反応すればいいのか分からないと、そんな困惑を見せていた。

 そらなんたって本人は自分を男って思ってんだからな。この「可愛い」ラッシュを浴びるのは複雑だろう。しかもほら、俺の一学年下の年齢なんだから若く見えてもアラサーだし。

 さらにどう考えても、みんなの口にする「可愛い」は、俺が言ったという弟的な可愛さとは受け取り方も違うだろうし。

 とはいえ、みんなこんなに可愛いって思ってたのか……。

 そんな風に一連の流れを考えていると。


『だからさ〜、そんな可愛いロキロキと酔っ払った人間が一緒にいたらさ〜、やっぱ不安になっちゃうじゃん?』

『男はいつだって狼だからな!』

『狼は群れで暮らす生き物ですから、そうなるとゼロさんとロキさんで群れることになりませんか?』

『は〜い、ゆっきー一回お口にチャック〜』

『ぐもも』

『ってことで、だ! はい! 狼2匹いたら羊が不安がるから、ロキロキは撤収!』

『てっしゅ〜。ほら、だいが話に入ってこないってことはきっとゼロやんの顔見て気が抜けて寝ちゃったかなんかなんでしょ〜? ぴょんの言う通り、ここは起きる前に帰っとこ〜』

『お気をつけてお帰りくださいね』


 つまり結論として、って話が女性陣から伝えられた。

 それはロキロキのことも理解しつつ、というもので、その意見に俺が反論するところはない。

 なのでちらっとこちらを見てきたロキロキに、俺は小さく頷いた。


「え、あ……はい。そうっすよね。分かったっす」


 そして俺の頷きを確認したロキロキが、電話の向こうにいる三人へ首を縦に振る。

 そんなロキロキに対し——


『うんうん、それでよし!』

『今度ゼロやんち泊まる時はみんなもいる時に泊まろうね〜』

『あ、それは楽しみです』

『ベッド増設しとけよ!』

『じゃ、ゼロやんに連絡もあるから、ロキロキ見送ったらもっかい連絡よろ〜。じゃあね〜』

「え」


 ツーツーツー……。


 と、最後は俺宛てのメッセージになってもいたが、一気呵成にあーだこーだと話されて、俺が何か言う間もなくぴょんたちからの通話が終了する。

 でも、ロキロキ帰したら連絡して? これは……いやー……お説教かなぁ……。

 まぁ流石に今回は俺が悪い。

 となれば、まずは言われた通りにしなければ。

 いや、もちろんベッド増設とかは無理だけど……と、そんな感じに考えながら——


「あー、とりあえずわけ分かんないことも多いけど、俺もだいファーストだからさ、言われた通りにしてもらっていいか?」


 こうロキロキに切り出した。

 だいファースト。これだけはね、譲れない。


「え、あ、はい、そ、そっすよね……」

「ごめんな。俺がうちに泊まればいいって言ったばかりに」

「やっ、そんなことないっすよ! ゼロさんと色々話せたっすからっ。むしろ俺のほうこそご迷惑おかけしましたっすっ」

「そかそか。じゃあまぁ、ここはおあいこってことにしよう」

「うすっ」

「ん。じゃあだいのことは俺に任せて、解散だな」

「はい、了解っす。着替えたらお暇させてもらうっすね。あ、借りたこの服は……」

「大して着たわけでもねーし、それくらい大丈夫だよ。というかあれだ、ぴょんとゆめに早く連絡した方が俺の安全のためにもよさそうだし、だいが起きる前に帰っとこう」

「は、はいっす。そっすね! ほんと色々すみません、色々ご迷惑おかけしましたと、ありがとうございましたっす!」

「うん。佐竹先生のことは、ちょっと話聞けそうだったら聞いといて」

「了解っす!」

「じゃあまたな」

「はいっ」


 で、俺がこうしようと決めたなら、一つ決まれば後はもう早い早い。

 流石の弟分よろしくロキロキはそれはもう見事な物分かりを見せてくれて、話が進むとロキロキはさささっと動き出した。

 そしてあっという間に我が家を後にし……ロキロキの撤収後、何だか部屋がガランとしたなぁと思いながら、俺はそこでようやく一息つく。

 いや、ほんと何というか激動だった。

 ロキロキのこともだいのことも佐竹先生のことも、マジで中身が濃すぎだろ。

 でも自分で蒔いた種もあるから、これは本当に反省だ。

 流石にベッドの増設なんかは出来ないが、今度みんなが来るってことがあるのなら、その時は全力で饗応しよう。

 でも俺はとりあえずしばらく酒控えだな。


 しかしジェンダー、かー……。

 色々難しい。いや、ほんとは難しく考えることなんかないはずなんだけど、感情があるから難しい。でも、誰の感情を大事にするのか。

 それを外しちゃいけないな。


 そう心に留めながら、俺は横になっているだいのそばに座り、改めて少し赤くなっているおでこを冷やしてやる。

 そして改めて見ると色々えげつない数の通知が来てんだなと自身のスマホに驚きながら、ミッション終了報告すべく、ぴょんへと連絡を取るのだった。

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