第568話 3人って割と2:1になる不思議

「いやー、しかしゆっきーにはビビったわ。ってか何よ? なんでそんなゆっきーと面白いことしてたんよ?」

「本人いないからって急にグイグイきたなおい」

「ゆっきーさんのゼロさんラブって、そんなだったんすか?」

「そうだったと思ってたけどなー、俺。まぁ最初に会った時の話は軽く聞いただけで詳しく知らんけど、なんていうか親鳥についてくる雛みたいな感じでラブだったよな」

「だったよな、って俺に同意求めんな! しかもその例えじゃラブなのか全然わかんねーだろっ」

「なるほどっ」

「いや分かるんかいっ」


 時刻は22時24分。

 俺たちは活気のあるがやつく居酒屋のテーブルを囲んでいた。

 オフ会で使ったような個室でもなく、おしゃれな雰囲気とかでもなく、そこはザ・大衆居酒屋で、男だけで来るならこのくらいで十分だって感じの店だった。……でもなんだろう、こういうとこの方がちょっと落ち着くこの感じってするよね。

 ちなみに座席配置は俺と大和が向き合う形で、俺の隣にロキロキが座ってるんだけど、これはテーブルがそこまででかくなかったからの配置である。

 横にでかいわけじゃないけど、なんだかんだ大和って肩幅広いしさ。


 そんな状況で、乾杯直後の俺たちが話す内容はまずはゆきむらの話題らしい。

 その話題を切り出した大和の何ともふざけた発言になぜか納得を見せるロキロキが現れて、俺がそれにビシッとツッコミをいれて二人が笑う。そんな二人に俺はこれもう予定調和だろと呆れるのみ。

 でも何だろう、大和のいじりは慣れてるのもあるけど、この場には女性陣が時折放つえぐみがないから、俺も安心してツッコめた。

 ……いや、この感覚もどうなんだ?


 とか気楽なメンバーになったな、ってことを改めて感じながら、ため息をつく素振りを見せつつ注文したハイボールで喉を潤していると——


「しかしさー。倫の人を惹きつける力ってなんなんだろうな、ほんと」


 肩肘をテーブルについた姿勢の大和がポツリと呟いたと思ったら——


「その力ありますよねっ、分かるっす! でもやっぱりゼロさんったら優しさじゃないっすかねっ」


 ロキロキがテーブルに身を乗り出してこの話題でも楽しそうに即答する。

 しかしなんと参加しづらい話題なのか。

 そんな急な話題転換&そもそもの話題自体に、俺はこの会話への参加を躊躇っていると——


「誰にでも優しいから近付いてきやすい、と」

「ですです。ゼロさんって安心感あるじゃないっすか」


 まるで俺がこの場にいないかのように、二人が視線を合わせて話し出す。

 しかしロキロキよ、何で君はそんなに乗り気なんだ。


「まぁな。で、だんだんその優しさとか安心感を自分だけのものにしたいって思って、色んな人が近づいてきたりしちゃったり?」

「ありそうっすけど、でもそれってあれっすよね。そう思いつつも、結局誰にでも優しいあなたが好きだから、って思う以上のことできなくて、好きになった方が勝手に我慢してダメになってくパターンじゃないすか?」

「あ、それは一理あるな。ってことは倫は悩める女製造機か?」


 ……あ?

 何だそれ。とりあえず色々思うところあるけど、失礼だな大和め。


「んー……なんかそれはそれでしっくりこないっすよね……」


 というかこれは何バナだ?

 俺の話オレバナなのか? 俺の周りに来る人たちの話なのか?

 いや、どちらにせよ会話に入るのは躊躇われるのは変わらないのだが。


「んむ。自分で言っといて何だが、倫の周りってけっこうぐいぐいいくタイプが集まってるよな」

「つまり我慢しないからダメにならないパターンの女性たちっすか」

「そういう可能性は高いな。もちろんみんな大人だからある程度の我慢はあるんだろうけど、攻めるとこは攻める的な」

「ふむふむ」


 うん、これは俺の周りに来る人たちの話ですね。

 たしかにだいがいるって分かってるのに、あいつとかあいつとかあいつとか……なかなかな行動力を発揮する人たちもいるよなぁ。

 もちろん俺はだい一筋だから靡いたりはしないけど。

 

 耳に入ってくる話を聞きながら、色んな顔を思い出しつつ、でもやっぱり一番は当然だいなわけよ、と心の中で密かにドヤ顔を浮かべながら、俺は二人の会話中に頼んだスプリッツァーを口にする。

 口に含んだ瞬間、パッと広がるライムの香り。

 ……って香りしか来なくない? 思ったより味薄いなこれ。

 

 とか、油断していると——


「ゆっきー然り、セシル然り、ゆめもまぁちょっとそうだし、なんだったかな、倫のお隣の家によく来るっていうねーちゃんもぐいぐい来るタイプみたいだし、市原だけじゃなく市原姉も割とな感じあるんだっけ?」

「がふっ」


 っあぶねぇ!! 噴き出しかけたじゃねえか大和め!!

 実名はやめい、実名は!!


 一瞬咳き込んだ後、俺は恨めしげに大和を睨んで見たけれど——


「え、俺知らない人けっこういたっすけど、ゼロさんに惹かれてる人って何人いるんすか!?」

「本妻のだい以外に、いち、にぃ、さん……6人だから、7人? 俺らとかあーすもいれたら、両手いっぱいだなっ」

「わぁ……」


 ……あれ!?

 君ら俺もいること分かってる!?

 俺今ごふっとなりかけてたよ?

 大和くんのこと睨んだよ?

 え、まさか俺のこと見えてないの!?

 というか俺らとあーすもいれたらってとこにロキロキツッコミもなしなんかい!


 と、逆に最早不安になるレベルの反応を見せられた。

 これはマジで完全に俺は蚊帳の外。

 アウトオブ眼中。

 最早孤独感すら覚えるね!!


「ゼロさんめっちゃモテモテっすねっ」

「うむ。そうなんよ。こいつ可愛い顔して世の中の男の敵なのだよ」

「でもそれだけの相手から好かれても、ちゃんとみんなのことを見てあげてるってか、ゼロさんって人を蔑ろにしないっすよね」

「そうなー、それは倫の美徳だな」

「俺もゼロさんなら色々かまってくれるかなって思っちゃうとこありますし」

「奇遇だな、それは俺も同意する」

「男でも好きになっちゃうタイプっすよねっ」

「面倒見いいからなー。世が世なら一代ハーレムを建国してたに違いない」

「あははっ! そのハーレムなら俺もそばに置いて欲しいっすねっ」

「へ?」


 この状況に安心していた俺は既に過去のもの。最早完全に置き去りにされた会話は、怒涛の勢いで展開された。

 そしてこの会話の中でツッコミたい所は無数にあった。

 だがそんなツッコミを忘れるような言葉が、ロキロキから発せられた。


「ハーレムに、加わりたい……?」


 その言葉を俺は所在なさげに口から溢す。

 え? は? え?


 この話題の終着点がどこなのか。


「どういうこと……?」


 そんな見通しの立たない孤独の中、俺の呟きがようやく聞こえたのか、ロキロキがゆっくりとこちらを向くのだった。

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