第566話 そのプレゼントに込められたのは

「ほらほら! どんどん飲めよっ」

「わっかりやすいな〜」

「でもあのプレゼントは、形が小さくても先輩の経験そのものだもんね。自分がこうしておけばよかったって教えてもらえるのってありがたいわよね」

「そっすね! たしかに今は受かって嬉しいが強いかもしれないっすけど、どんどん来年から大丈夫かなって気持ちが出てくるかもしれないですし、あのプレゼントを通してやっておくべきことを教えてもらえたのはありがたいっすよね!」

「だな。……とはいえ、先輩の矜持としてどうなんだって気もするけど、ほんとまぁ、自分が受かったのかってくらい嬉しそうな顔してんなぁ」

「おいおい、そこがいいところじゃんか? こんなとこも可愛いだろ?」

「ははっ! たしかに、そっすね! 可愛いっす!」

「そこは同意で〜す」

「うん、すごい可愛い」

「いや、まぁ、そうな。うん。それもまた人を惹きつける魅力か」

「やらねーぞ?」

「そういう意味で言ってねーよ!」

「私は惹かれちゃうけどね」

「わたしも大好きだよ〜」

「俺もっす!」

「一番は俺だけどな!」

「……人のこと言えないけど、大和も大概俺と一緒だぞ?」


 若い子と肩を組み、世界一楽しそうなくらいにご機嫌に笑いながら、ビールを仰ぐ女が一人。

 それを見守る5人の大人。

 肩を組まれる子は積極的にお酒を飲んでいるわけではないが、かといって絡まれる状況を決して嫌がっているわけではなく、むしろ楽しんでいる様子が見受けられた。

 

 そう、もうお分かりだと思うが、ゆきむらに一番の感動を与えたのは、我らが盛り上げ隊長のプレゼントだった。

 だいも今言っていたが、みんなそれぞれ自分の経験からいいなと思ったりしたものをプレゼントしたわけだけど、ぴょんのプレゼントには同じ国語科として経験してきたからこそ分かる、今ゆきむらに必要なものって想いが込められていた。

 国語科としての授業の引き出しを広げるために、それだけ読んでおくべき本は多い、そういうことなんだろうな。

 誰よりもゆきむらの未来への不安を取り除く、それがぴょんのプレゼントだったってことである。

 で、今はそれが感動という形で伝わったよってゆきむらから伝えられて、盛り上げ隊長自身が盛り上げられてるって状況なわけだけど、この素直な無邪気さが、ぴょんのぴょんたる所以であり、ぴょんがみんなから愛される理由だろう。

 破天荒で無茶苦茶。そんな盛り上げ方をする時もあるが、周囲を見るのは忘れないしっかり者。

 ほんと、ぴょんってすげぇよな。

 そんな彼女への愛を隠さない大和も好感度が高いよね。


「私一人教科だから、先輩いるっていいな〜」

「あ、それは分かる。俺も一人科目だからさ、最初なんかどうすればいいか全然分かんなかったよ」

「音楽科は想像つくっすけど、社会科もそうなんすね!」

「うむ。科目で扱い内容違うから、割とお役所的な縦割り行政だよな、社会科って」

「だなー。自分の授業は好きにやってっていう、個人事業主スタイルが多いかな」

「数学とか体育は一緒にやるのが基本っぽいよね〜」

「そうだね。数学科は習熟度展開が多いから、他の先生と合わせるのが普通かな」

「体育もそうっすね! って言ってもまだペーペーなんで、先輩たちの言うこと聞くだけが多いっすけど」

「体育はマジ縦社会だよなー」

「高校もそうなの〜?」

「少なくとも俺は前のとこも今のとこもそんな感じだな」

「おお、ベテランの言葉は重みが違うな!」

「いや、たった2校しか知らねぇよ!」

「でも異動経験があるのって、ゼロやんだけじゃない」

「そっすね! ゼロさんベテランっす!」

「よっ、ベテラ〜ン」

「やめいっ、まだ6年目だっつーのっ」


 そしてスーパー先輩モードになっているぴょんがゆきむらにあーだこーだ話をし出した横で、俺たちはだらだら仕事絡みの話を展開する。

 でもその会話の中では何故か俺がいじられてんだけど、俺のことベテランっだっつーなら、もうちょっと先輩への敬意とかないのかねこいつらは!

 だいは置いといて、少なくともゆめとロキロキは年も経歴も俺が先輩だぞ……?

 なんて、今更言ってもって感じだけどさ。


 そんなまったりした会話で盛り上がるくらい、今日のオフ会は平和なのだった。







「次どうするんすかね?」

「定番はカラオケだな。ゆめはガチで上手いぞ」

「でもまぁ、ゆっきー優先だろ今日は」


 盛り上がった会話をメンバーを二転三転入れ替えながら行った末、気付けば会話はメンズチームとレディースチームに分かれていた。

 そんなメンズチームメンバーで、まもなく退店時間だなと話になり、この後の展開予想が始まったのだが——


「じゃあうちでやってみる〜?」

「いいのか!?」

「ちょっと気になりますね」

「みんな行くなら私も行こうかな」


 レディースチームから聞こえてきたのは、かなりの盛り上がりを見せる会話だった。

 いや、そもそも何となく耳を澄ませばゆきむらがもらったバスオイルのくだりから美容系の話題で盛り上がるという、今までにない【Teachers】オフ会の流れになっていたっぽいのだから、正直未知の展開があってもおかしくはなかったのだが、21時半過ぎ、そのまさかな感じで——


「すみませーん、そろそろ退店お願いしまーす」

「あ、はーい」


 俺たちのいる個室に店員さんが現れて、お帰りのお願いが伝えられると——

 

「メンズ諸君! 今日はチーム女神はこれから揃ってゆめんちに美の追求に行ってくる! 美しくなった姿を期待しとけ! ってことで今日はここで解散だ!」


 ポカンとするメンズチームを置き去りに、赤ら顔のぴょんから高らかな宣言が発せられた。

 その言葉に俺はそっとだいに目を向けると、小さく頷くだいの姿が。

 その仕草からは言葉を交わさずとも、そういうことだから今日はゆめのおうちに行ってくるね、という意図が伝わった。


「ゆめさんのお家楽しみです」

「3人泊まりに来るくらいは余裕だから安心してね〜」

「あ、じゃあゆっきー今日は一緒に寝ようか?」

「いいんですか? 嬉しいです」


 そしてぴょんの提案にはみんな乗り気な感じで、これは——


「じゃあ、男だけで2件目行くか?」

「だな。たまにはそんな日もありだろ」

「了解っす! 楽しみっす!」


 当然メンズチームはメンズチームでの選択が求められる。

 ということで、大和の提案に欠片の異論もなく俺もロキロキも頷いて、これからの別行動が決定する。

 

 ゆきむらの祝勝会からって考えるとなかなか予想外な展開だったが、たまにはこんな日もあるだろう。

 

 そんなことを思いながら俺たちは店を出て、レディースチームならぬチーム女神を駅まで送り届けた。

 そして俺はだいと少しだけ「また明日」って会話をしたり頭を撫でたりしつつ、主役であるゆきむらを含めた4人を見送るのだった。

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