第562話 そのプレゼントに想いを込めて

「ごほん! では仕切り直して、次はあたしだな!」


 俺らにしては珍しい時間を経て、みんなの飲み物やら追加の食べ物を注文してから始まった仕切り直しは、もちろんぴょんの発言からだった。

 だい、ゆめときて、次のプレゼントはぴょんの番。

 果たして何をあげるのかと思ったら——


「ほらよっ」


 ぴょんがスッとポケットから取り出したのは、名刺サイズの小さな包み。

 みんなが何だろうと思う中、それを受け取ったゆきむらが包みを開くと——


「むむ」

「お〜、なんかお母さんみたいだね〜」

「やかましいわっ! いいか、結局大事なのは教養なんだよっ!」

「教養かー……なんだろ、正しいんだろうけど、ぴょんが言うと説得力感じねーな」

「いやいや、そう思わせてぴょんの家けっこう本だらけだぜ?」

「国語科の先輩だもんね。一番タメになるアドバイスかも」

「いやー、俺はもうしばらく本読んでないっすね……」


 現れたのはウサギの家族が描かれたカード。それもたぶん、10枚くらいはあるだろう。

 そのプレゼントにみんなの反応はそれぞれだが、大和やロキロキが「本」って言葉を出したから、それが何かは分かるだろう。

 なるほどそうきたか、意外性よりもここは実用性。そういうこと、なんだろう。


「本は読むのですごく嬉しいんですけど……こんなによろしいんですか?」

「おうよ。後輩の門出をケチる先輩がどこにいるってんだって話だろ?」

「合格のご祝儀だね〜」


 そしてゆきむらがカードとぴょんを交互に見やってから、少し躊躇いがちに尋ねたが、ぴょんはそんなゆきむらに対してビールの入ったジョッキをぐいっと仰ぎながら、片手をひらひらして「当たり前だろ」をアピールしていた。

 でもゆめが言った言葉通り、よく見ればあれはご祝儀相当。3000円分の図書カードが10枚、そこにはあるようだった。

 ここまでだいもゆめも有名なブランドアイテムで、それなりな金額のプレゼントだったと思うけど、ぴょんのプレゼント金額はたぶんだいとゆめの二人のプレゼントの値段を足しても上だろう。

 いや、プレゼントは金額じゃないって言うけど、これはドストレートに金額自体がプレゼントなわけだし……何というかぴょんの器を感じるな。


「とりあえずここ5年くらいで流行ったり話題になった本で読んでないのあったら読んでおけよー。あとは教科書に載ってるやつらの本だな。引っかかりはどこから生まれるか分かんねーから、そのために教養はあった方がいい」

「はい、分かりました。頑張ります」


 そしてそのカードの使い途としてのお勧めをぴょんから聞き、ゆきむらがスマホにメモを取る。

 何だろう、すごく正しい光景なのに、変な違和感があるような……。


「本当にぴょんって国語科なんだね〜」


 はっ! それだ!!

 不思議な気持ちで二人のやりとりを見ながら何とも言えない感覚になっていた俺の内心を、見事にゆめが言語化してくれて——


「すまん、俺もちょっと思った」

「おいおいどっからどう見てもあたしは文学少女だろーが!?」


 激しいぴょんの反論を受けながらも、俺は失礼ながらゆめに同意した。

 いや、だってさ、冬になって夏よりも白くなってきているとはいえ、どう見たって肌の白いだいやゆきむら、ゆめと比べてぴょんはアクティブさを感じさせる肌の色をしているし、どう考えたって普段の言動から感じるのは体育科のオーラなのである。

 というか文学少女は流石にない。少女はダウト。無理がある。

 だが——


「スポーツ系と見せかけた、隠れ文学乙女属性なんだもんな」

「あ、少女より乙女の方がしっくりくるね」

「あ〜、割とメンタルがそうだもんね〜」

「おいやめろぉっ!」


 ここまでドヤったり強気な口調を見せたりしていたぴょんだったが、大和の「乙女」発言からだいとゆめがそれに同調し、本人が顔を赤くして沈没する。

 その光景はぴょんの素直さを表しているようにも見えて、たしかにこれは乙女だなと感じさせた。


「文学乙女って可愛いっすね!」

「うむ。乙女って響きはそうだな」

「おいっ!?」


 そんなぴょんへ無自覚ながら素晴らしい追撃を放つロキロキは、ものすごくいい笑顔を浮かべていて、俺はそれに加勢した。言い返そうとしたぴょんの顔は、アルコールのせいじゃない赤みで溢れている。

 いやぁ、いいねこの感じ!

 ぴょんがいじられるこの感じ、素晴らしいオフ会だ!


「でも、本当にありがとうございます。しっかり勉強しますね」

「おう、ゆっきー頑張れよ! じゃあ次は俺だなっ」


 そんないじられぴょんへの救済ムーブメントか、改めてぴょんへのお礼を告げたゆきむらになぜか大和が応えて、話を次の展開へ持っていく。

 それはすごくナチュラルな物言いで、さっとみんなの視線が大和に移動したのだから、さすがだよな。


 そして大和がリュックから取り出したのはなかなか大きなラッピングの袋で——


「むっ、重い……」


 それはこれまでの流れとちがうプレゼントだったのか、受け取ったゆきむらの腕がプレゼントの重みのせいか少し沈む。

 あ、ちなみにここまでゆきむらはだいの隣に居座ってたんだけど、流石にここからはプレゼントが対面のメンズチームの番になったからか、当初のお誕生日席に戻ったぞ。

 その移動にだいが少し寂しそうにしてたのは今は気にしないでおこう。


「何あげたんだ?」

「けっこうでかいっすよね?」


 で、大和があげたものを見て俺とロキロキでプレゼント内容を尋ねたが、大和はドヤって答えない。

 そんな大和の様子に。


「持って帰るのめんどそうなもんあげてんなー」

「ぴょんと正反対だね〜」

「あ。そう言えばこの話出た時、せんかんシャンパン買ってくって言ってたよね」

「ドキッ!?」


 女性チームも袋を開けようとしているゆきむらの姿を見ながら反応するが、なかなかひどいことを言うぴょんやゆめの発言でも変わらなかった大和のドヤ顔が、だいの発言で露骨にハッとなる。

 それはつまり、そういうことだろう。

 そして——


「あ、可愛い色ですね」

「ほんとだっ。だいさん流石の記憶力っすね!」

「マジ流石だわ。全く覚えてなかったわ」

「ログで見たから覚えてただけよ」

「それがすごいんだよ〜」

「モエシャンのロゼか!」


 大和のあげた袋からゆきむらが取り出したのは、全体的にピンクがかったガラス瓶。

 それは今ぴょんが言った通りのアイテムの、正式名称モエ・エ・シャンドン ロゼ・アンペリアルで、だいが覚えていた通りシャンパンだった。


「有言実行!」


 そして本当は誰にも当てられずにゆきむらに開けてもらって、「そんなこと言ってたねー」的な空気を作ろうとしたであろう大和が、無理矢理ドヤ顔に戻って顔の前で手を広げ、ビシッと決めポーズを取る。

 そのポーズが何なのか、それはわからなかったが——


「うし! みんなで飲むかっ」


 なぜかゆきむらではなくぴょんがそう言い放ち——


「おうよ! 持ち込み料は先に払っておいたから、心配すんな!」


 大和がそれに乗っかって、用意周到な対応をしてくれていたことを明らかにする。

 そんな空気になったらもう——


「私シャンパン初めてです」

「普段から飲む人はいないもんね」

「お祝い用のお酒だもんね〜」


 ゆきむらも飲む流れを止めはせず、他のみんなも楽しそうにその流れに従うのみ。

 高いお酒、それが分かれば大人ってワクワクする生き物だしな!


 そんな感じでロキロキのプレゼントターンになる直前、俺とだいは2回目、他のメンバーはもう何回目か分からない乾杯を行うのだった。

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