第561話 綺麗はつくれる・・・のかな
「じゃあゆっきー、誰のプレゼントからもらいたい!?」
19時42分、ぴょんから切り出された今日のメインイベントの提案に、だいの隣で飼い猫みたいになってるゆきむらはいつも通りのぽーっとした表情を浮かべていた。
それは本当に話聞いてんのか不安になるというか、何とも読み取りづらい表情だったのだが、なぜか急にちらっと俺の方に視線を向け、その視線の意味が分からない俺と2,3秒見つめ合ったと思ったら。
「皆さん本当にありがとうございます。では、だいさんから時計回りでもいいですか?」
「なるほど、レディースチーム先攻、メンズチーム後攻ってこったな!」
「了解。じゃあ私からあげるね」
ゆきむらが俺から目を離し、何事もなかったかのようにぴょんの質問に答え、プレゼント一番手にだいを指定した。
ちなみにだいから時計回りということは、次はゆめ、ぴょんと続き、大和、ロキロキ、そして俺という流れになる。
つまりさっきのは、最後のは俺がいいという目配せか。
……うん、やっぱり色々まだ……って思うけど、まぁその辺はこれから徐々に変わっていくとこなんだろな。
ここで変に異議申し立てしてもしょうがないし、俺は他の奴同様、黙ってだいが荷物からプレゼントを出すところを眺めることにした。
そしてついでにロキロキから注文用タブレットを借りて、店員さんを呼ぶのも忘れない。
え、何で呼ぶのかって? そこはほら、まだ秘密。
で、だいがプレゼントをあげるところを見ていると——
「はい、ゆっきー。おめでとう」
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「うん、もちろん」
だいがゆきむらに渡したのは、丁寧にラッピングされた赤い袋。それをこれまた丁寧にゆきむらが解き、中からまたもや丁寧にラッピングされた箱が取り出された。
その丁寧なラッピングを剥がすと、さらにまたマトリョーシカよろしく……なんてことはなく、箱の中から現れたのはブルーに輝くキラキラした装飾のあるお高そうなペンだった。
「あ、名前入りなんですね。すごい可愛いです」
で、箱の中から取り出したペンをくるくる回しながら眺めるゆきむらがあることに気づく。
それは今言った通り、そのペンにはゆきむらの名前が刻印されているということだった。
あ、もちろん本名だからな、間違っても『Yukimura』じゃないからな。
「うん。ゆっきーをイメージしてブルーのにしてみたんだけど、すごい可愛かったからさ、私も自分用に同じの買っちゃった」
「むむ。つまりだいさんとお揃いですか?」
「うん。そうね」
「嬉しいです」
「喜んでくれてよかった」
そしてペンを渡した側も実は同じのを持ってるとカミングアウトされ、貰った側のゆきむらが嬉しそうな表情を見せる。
たぶん二人の会話を文字起こししたら抑揚なく話してるように見えるんだろうけど、その表情には二人とももらって嬉しいやあげれて嬉しいやらお揃いで嬉しいやら、自然体の笑顔が溢れていて、見ている側も気持ちのいいものだった。
「エコバッグも入れておいたから、もらったプレゼント入らなかったら使ってね」
「ありがとうございます。いつぞやのジャックさんみたいですね」
「うん。あの時さすがだなって思ってさ、見習わせてもらったの」
にこやかな二人に俺ももちろんほっこりする。
そんな気分で姉妹のような二人の会話を聞いていたのだが。
「だいのあげたペン可愛いね〜。どこの〜?」
「あ、じゃあゆめにも買ったとこのURL送るね」
「あ、俺も教えてもらっていいっすか! やよ……っと、知り合いがそういうの好きで、プレゼントに良さそうなんでっ」
「やよって、佐竹先生? そうなんだ。じゃあロキロキにも送るね」
「そっす! ありがとうございますっす!」
そして会話に華やかさを加えてくれるゆめとロキロキ。
ああ、平和だなぁ。もう今日はこのまんまでいいんじゃないかなぁ、なんて、俺は自分のいつもの役割も忘れてそんな牧歌的な感覚になってきたのだが——
「さっきから聞いてりゃボケもオチもねーな!!」
「いや、プレゼント渡す時の会話にボケもオチもねーだろ普通」
なんとも和やかな会話を前に、ついに仕切り屋がツッコミをいれる。
そこに仕切り屋の管理人大和がツッコミへのツッコミをいれるわけだが、すまん大和、俺の役目なのに。
……って、もはやこう考えるのってツッコミの呪いか……!?
「失礼しまーす」
と、俺が地産地消ノリツッコミを心の中でしていると、さっき追加で頼んだ飲み物とともに店員さんがやってきたので、俺はさっと立ち上がり飲み物を受け取ってから、店員さんにこそこそ少し言葉を告げた。
その俺の言葉に店員さんは快い笑顔を見せ去っていく。
よし、これで準備はOKだな。
「む!? なんか仕込みか!?」
「秘密です」
「さすが倫、遅刻しても抜かりはねーな!」
「事実だけど一言多いわっ」
「ゼロやんはトリだからね〜。じゃあ次はわたしがあげるね〜」
俺と店員さんのやりとりに気づいたぴょんや大和からは予想範囲内の反応がきたが、だいのプレゼントターンが終わったことで、「次はわたしと」ゆめが可愛いデザインの紙袋を取り出して、それをひょいっとゆきむらに渡したから、俺への追及はそれ以上なく、みんなの視線がゆめのプレゼントに集まった。
「おめでとうね〜」
「ありがとうございます。見てもいいですか?」
「うん、もちろ〜ん」
そしてプレゼントを受け取ったゆきむらはまたも丁寧にお礼と中身の確認許可を取って、ゆめがそれにいつものにこにこした表情で頷いた。
「むむ。バスオイル、っていうんですか?」
そして袋の中からゆきむらが取り出したのは、見たことあるブランドのガラス瓶だった。
「うん〜。わたし使ってるのなんだけど、香りもいいし保湿も出来るし、よかったら使ってみて〜」
その瓶を眺めるゆきむらに、ゆめがどんなものかと説明すると、だいも「可愛いね」とか反応し、このプレゼントにはぴょんも「オイルっていいの?」とかちょっと興味を持ってゆめに聞いていて、完全にメンズチームはアルコール摂取タイムを迎える雰囲気が漂い出した。
そんな華やかな空気の中で。
「色も形も可愛いですし、ゆめさんが使ってるやつなら綺麗になれそうで嬉しいです」
さらっと年上キラーなゆきむらが現れて——
「え〜、そんなこと言ってくれるなんてゆっきー好き〜」
見事なチョロさでゆめが満面の笑顔を見せてくれた。
「私もゆめさんのこと好きですよ」
そんなゆめにゆきむらは追撃を放ち、またしても室内にほわほわした空気が漂い出す。
だが今回はぴょんがスマホで調べた何かをゆめに聞いたりしているし、ゆきむらもゆめに使い方の話を聞いたりして、だいもそれに参加し、見事に誰もツッコまない。
え、俺がツッコめばって?
いやいや。女性陣が盛り上がってる時に割って入るとか、何のメリットもないからな?
ってことで俺は料理に手をつけたり、お酒を飲んだり、リラックスモードを満喫しているわけだ。
そんな中——
「ゼロさんはなんか美容系アイテム使ってるんすか?」
不意に隣のロキロキから純粋な眼差しで質問がやってきた。
「え、何も使ってないよ」
いや、その質問誰得だよと思いながら、俺はさらっと答えるが。
「えっ、そうなんすか!? 肌綺麗だからだいさんになんかもらってるのかと思ってたっすっ」
なぜか不思議そうにするロキロキが現れて、俺は「え?」と言葉を失う。
というか肌綺麗って、それはロキロキも同じだろって俺は思ったのだが——
「甘いなロキロキ。倫はだいに栄養管理と幸せをもらってるから、その結果なのだよ」
「え、いや大和何適当に——」
急に大和がわけわからんことを言ってきて、俺はそれに呆れ顔でツッコもうとしたのだが——
「なるほどっ、たしかにそれは効果高そうっすね!」
「いや、何納得してんだおいっ」
熱烈な反応が俺のツッコミを上回り、結局俺のツッコミはロキロキに炸裂することになった。
いや、まぁたしかにだいには栄養も管理してもらってる時あるけど、いつでもってわけではないしからな?
「ちなみに俺は化粧水くらいは使ってるぞ」
だがこの話題はまだ続くようで、大和がまさかの発言を言ってきて。
「えっ!? そうなの!?」
俺がそれに驚くと。
「俺もやってますよっ。男だって見た目いい方が気持ちいいじゃないっすか?」
ぐいっと俺の顔を覗き込むようにロキロキの顔が近くにやってきた。
いや、しかし近くで見るとやっぱり長いまつ毛とか綺麗な顔立ちとか、ちょっと身体的な性を感じてしまって恥ずかしいからやめてくれ。
そんなことを思ったので——
「え、あー、それはまぁ、そうだけど」
俺は少し後退しながらそう反応したのだが。
「倫くんや、俺らみんなアラサーよ? 油断してっとすぐにおっさんだぜ?」
「くっ、言い返せねぇ……っ」
大和の言葉に今度は何も言えなくなる。
いやしかし、何だこの会話。
どうしてこうなった?
そんな疑問も浮かぶけど。
「渋みのあるゼロさんも見てみたいっすけどねっ」
ロキロキのあどけない笑顔に、俺はもう何を言えばいいかも分からなくなった。
とまぁ、こんな感じでね、いつのまにやらメンズチームもちょっと美容的な話になったりして、今までにない空気が俺たちの中に醸成された。
そしてそんな会話が続く中、ようやくぴょんが仕切り直したのは、ここから約5分後のことになるのだった。
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