第560話 フリーダムフリーダム
にゃあ!? 今「にゃあ」って言ったか!?
何それ可愛い!! じゃなくて!!!
「おいゆきむらどうし——」
「ううん大丈夫よ。頑張ったみたいだね」
「え? は? どういう——」
「ありがとうございますにゃあ」
「でもどうしてもデートしたかったなら、私にも連絡して欲しかったな」
「ごめんなさい、にゃあ」
「うん。許す。今度3人でもお出かけしようね」
「いいんですか? にゃあ」
「うん、私が行きたいもの。でもその語尾可愛いけど、ゆっきー大変じゃない?」
「実は少し恥ずかしいです。あ、にゃあ」
「うん、無理しなくていいよ」
え? いや、待て待て待て!!
なんでわかり合ってるの!?
最初の「ごめんなさいにゃあ」の意味が、だいには分かったってのか!?
だいをじっと見るゆきむらと、そのゆきむらに優しい目線を送りながらその頭を優しく撫でるだいの光景は、完全に姉妹の様相を呈していた。
だが俺にはそうなる理由が全く分からない。
完全に部外者感を覚える中、唖然としながら他の奴らに頼りなく視線を向けると——
「すごいっすねだいさん。今ので察せるんすね……」
「うむ。倫から聞いていた話とは言え、突然のにゃあとごめんなさいでここまで理解するとは……」
驚きの表情で二人の様子を見ているロキロキと大和と——
「ちゃんと実行するゆっきー可愛くてきゅんとしちゃうね〜」
「うむ! でもまぁ、今回の殊勲者はゼロやんだな!」
可愛いものを見るように楽しそうな様子でゆきむらを見るゆめと、何故か俺の方にサムズアップしてウインクをかましてくるぴょんがいて、俺の頭はまさに——
「へ?」
という状況の真っ只中におかれていた。
状況を整理しよう。
猫になって謝ったゆきむら、そのゆきむらに優しく語りかけるだい、その二人に驚く大和とロキロキ、きゅんきゅんしているゆめ、なぜか俺を褒めるぴょん。
なるほどなるほど……全く分からん!
まるで自分一人世界から取り残されたような心待ちになりながら、とりあえず俺は呆然としたまま、俺を見ているぴょんと目線を合わせて「どういうこと?」と視線で訴えたのだが——
「ゆっきーこんなに可愛いのにね〜」
「でもだいさんも美しいっすからねっ」
「マジに付け入る隙ないくらいラブラブだからなー。でもほんと、だいの性格次第じゃ倫は刺されててもおかしくねーけどなっ」
「は? 刺され、は?」
ダメだ、全く分からん!
だいが美しいとゆきむらが可愛いは分かるけど、俺がだいに刺されるとか何事よ?
誰も助けてくれない、そんな状況の中で俺は助けを求めるようにだいを見た。
そんな俺に気づいただいが——
「先週の話をゆっきーがみんなにして、ぴょんに泥棒猫だな反省しろ、とか言われたんじゃないかしら?」
「ええっ!? そこまで分かるんすか!?」
「そこまで分かるとか最早エスパーだなっ」
「さすがだい〜」
「うむ! 付き合い長くなってきただけあるな!」
……へ?
先週の話? 泥棒猫? エスパー? さすが?
……はぁ!?
いや、だいの言葉に対するみんなの反応の反応で、何となく流れはわかった、気がする。
つまり相変わらずぴょんはぴょんで、ゆきむらは素直、そういうこともあるのだろう。
しかし、それを察するだいの理解力……いや、大和の言う通りそれはもうエスパー以外の何者でもないのでは?
そんな驚愕の気持ちが湧き上がる。
「ゆっきーから話は聞いた。まぁたしかにあのゆっきーがって驚きはあったけど、それよりもビシッとNOをゼロやんが突き付けたんだろ? おかげでゆっきーは身内瓦解罪未遂で済んだわけだ! ゼロやんグッジョブ!」
だが、俺がもう何が何やらとなっているにも関わらず、赤ら顔でご機嫌な女はさらにわけわからんことを言ってくるのだが——
「ゼロやんならさ〜、もっとよく考えろとか、お前は何も分かってないだけだとか、そんな言葉で対処しそうだな〜って思ってたけど、ちゃんと応えられないって言ってあげたんだってね〜」
「すまん倫! 俺もゆっきーから告白したんですって話を聞いた時、ゆめと同じ反応したのかなって思ったわ!」
「ゼロさんとだいさんの関係、素敵っす!」
他の奴らも色々と言ってきて、俺の頭は一瞬何を言われてんのか理解出来なかったのだが——
「ちゃんとフラれたのです、私」
「頑張ったね。頑張れたゆっきーにはいつか必ずいい人が現れるよ」
だいに頭を撫でられるゆきむらと、慈しみの表情を浮かべるだいもみんなの発言に続き、少しずつ俺の頭も落ち着いてきて——
「いや、ゆきむら話したんかいっっっ」
浮かんだのはこの言葉。それを俺は届かないながらも手の平を立ててビシッとゆきむらに向けながら、声量強めに送ってやった。
「おおっ、さすが【Teachers】のツッコミ担当は動きにもキレがあるな!」
「大和うっさいっ」
「でもゼロやんが合否聞いてくれたからこうしてお祝いできるし、結果オーライだね〜」
「いや、それ本当にオーライか!?」
「俺は皆さんと会うきっかけできて嬉しいっす!」
「いや、えっと、いい奴かっ」
そんな俺の動きに呼応するように口々にみんなから話しかけられるが、ぴょんに褒められたかと思えば結局俺の役回りはいつもと同じじゃねえかおい!
「最近どうってぴょんさんに聞かれたのでお話ししたのですが、ダメでしたか?」
「え、いや、俺からダメとかっていうか、普通はゆきむらが話しづらいことじゃないかそれ……」
そんなツッコミラッシュをしていた俺に、いつものトーンでゆきむらが首を傾げてきて、俺はそこで他の奴らに向けていたテンションを落とさざるを得なくなる。
ほんとこいつは、ゆきむらだな!
そしてだいさんや、君ずっとゆきむらの頭撫でてるけどどんだけ可愛がってんだ君。まだシラフだよね君は!
ああもう、ほんと相変わらずフリーダムなメンバーだなこいつら……。
到着からまだ10分くらいで俺は早くも疲れ始めて来たのだが——
「まぁそこはゆっきーだからな! ってことで、ようやくみんな揃ったんだ! お祝いの本番開始だぜ! 野郎ども、ブツを出せ!」
毎度の仕切り屋ぴょんが急に立ち上がり、声高に高らかな宣言を上げる。
それに合わせてみんなも「おー!」と乗ってみせる。
え、何このテンション?
何だろう、酔っ払い集団にシラフで呼ばれた時のあの心境になりながら、俺はやれやれと自分のビールをぐいっと仰ぐのだった。
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