第556話 当然の流れ
「しかし、スマホの通知止まんねーぞ?」
「そうなんですか?」
「うむ。これは間違いなくゆきむらのせいだ」
「むむ?」
「さっきみんなに報告しただろ? だから今みんなおめでとうを言ってるだろうし、誰かさんは絶対お祝いオフ会だー、って言ってるに違いない」
「それは嬉しいですね」
ゆきむらが連絡を送ってから1,2分後、俺のポケットの中は先ほどからずっと断続的な振動を伝えていた。
それはもうチェックするのも面倒くさくなるほどの通知ラッシュで、何が起きているのかは想像するに難くない。
だが俺の話を受けたゆきむらは徐にカバンからスマホを取り出して、画面に目を落とすと。
「流石ゼロさん。正解でした」
「そりゃそうだろなぁ」
たくさんの通知を目にしたゆきむらは表情を嬉しそうに綻ばせて、俺に結果報告をしてくれた。
まぁ、みんな応援してたからな。
面倒見のいい奴らの集まりっつーか、面倒見るのが仕事なことやってるわけだし、まして仲間のゆきむらに対してなら、だよな。
「では問題です」
「え?」
「祝勝会を開こうと最初に言ってくれたのはどなたでしょうか?」
「え、そんなんぴょ——」
喜ぶゆきむらの口から放たれた唐突な問に、俺は反射的に「ぴょん」と答えかけたが、ハッとして俺は言葉を止めた。
「お祝いオフ」ではなく、今ゆきむらは「祝勝会」と言った。おそらくゆきむらのことだ、原文ままの発言だろう。ぴょんならばきっとそんな言葉は使わない。そしてその言葉を口にするには確実に参加できる奴の確率が高いだろう。そうなると「祝勝会」というフレーズを口にする確率が高いのは——
「待て! ぴょんと見せかけて、だ——」
だい、と口にしかけて俺は再度自分に待ったをかけた。
本当にそうか? いや、違う。
そう、これは引っ掛けだ。「祝勝会」なんて
それならば誰か? ゆめか? いや、ゆめなら「これはお祝いしなきゃだね〜」とか、たぶんそんな言い方になるだろう。
そして他に気軽にオフ会に参加できる距離に住んでるのはジャック、大和、ロキロキだが、流れに乗るタイプのジャックは自分からオフ会やろうとは言わないだろう。そうなると大和かロキロキだ。でも大和が一番乗りで「祝勝会」なんて言うだろうか? いや、言わない。だってあいつも常に周りの流れに目を配る奴で、自分から流れを作るようなタイプじゃないから。そうなると残るはロキロキ。ロキロキなら……うん、「祝勝会っすね!」とか言ってるイメージもピンと来るし、日曜のこの時間ならLAの中にいて、スマホのチェックも迅速だろう。
そう、つまり——
「だいと見せかけて、ロキロキだっ」
そう、自信を持って答えたのだが——
「それでは正解はご自身の目でどうぞ」
クスッと笑ったような感じを見せた後、ゆきむらが自分のスマホの画面を俺に見せてきた。
いや、それ俺の画面でも見えるんだけど、まぁいいか。
それはけっこうなスクロールを必要とするメッセージ量だったが、起点となるゆきむらの発言の後は、こんな流れになっているようだった。
神宮寺優姫>【Teachers】『ご報告させていただきます。皆さんのおかげもあり、無事教員採用試験に合格致しました。来年度から私もちゃんと先生です。ご指導や応援、本当にありがとうございました』20:41
里見菜月>【Teachers】『おめでとう!ゆっきーいっぱい頑張ってたもんね。頑張った成果だね!』20:42
里見菜月>【Teachers】『お祝いに欲しいものあったら何でも言ってね』20:42
Aki.I>【Teachers】『おめでとうっす!合格って嬉しいっすね!』20:43
Aki.I>【Teachers】『俺もお祝いしたいっすから、何でも言ってください!』20:43
平沢夢華>【Teachers】『おめでと〜』20:43
平沢夢華>【Teachers】『頑張ってたもんね〜、よかったよ〜』20:44
☆あーす☆>【Teachers】『やったね☆ゆっきーおめでと☆』20:44
田村大和>【Teachers】『春から同業者!おめでとう!』20:45
山村愛理>【Teachers】『スーーーーーパーーーーーめでたーーーーーい!!!!!』20:45
山村愛理>【Teachers】『あたしの後輩になるんだな!!祝勝会の宴じゃー!!!!!』20:46
里見菜月>【Teachers】『そうだね、みんなでお祝いしないとね』20:46
平沢夢華>【Teachers】『賛成でありま〜す!』20:46
Aki.I>【Teachers】『祝いたいっす!どこでも行きますよ!』20:47
田村大和>【Teachers】『シャンパンでも買ってくかw』20:47
☆あーす☆>【Teachers】『大阪開催は?☆』20:48
Mami>【Teachers】『ゆっきーおめでとう!嬉しいよー』20:48
Mami>【Teachers】『そっちいけない分、お兄ちゃんにお祝い送って渡してもらうね!』20:48
山村愛理>【Teachers】『来週の金土日どれでもいいぞ!!』20:49
平沢夢華>【Teachers】『善は急げだ〜』20:49
里見菜月>【Teachers】『食べたいものあったら何でも作るから何でも言ってね』20:50
Aki.I>【Teachers】『来週いつでもどこでもOKっす!』20:50
田村大和>【Teachers】『お祝い品バトルだな!喜ばせてみせるぜ!w』20:51
Shizu>【Teachers】『おーーーー!おめでとーーーー!!よかったねーーーー!!』20:51
山村愛理>【Teachers】『マジでめでたい!!ゆっきー日時指定よろ!!』20:52
「あー」
ゆきむらのスマホの画面を確認し終えた感想は、流石【Teachers】ってとこだろう。この一瞬でお祝いムーブメントが生まれるのはほんと、流石の一言だ。
ちなみに俺は相手の名前をフルネーム表示に自分で変更してるけど、ゆきむらは相手の登録ネームそのまんまみたいである。だからAki.Iはロキロキで、Mamiは我が妹、Shizuはジャックのことだからな。
それはさておき——
「正解はぴょんさんでした」
「捻りすぎたか……!」
メッセージを見る前に出された問題に、俺は見事に不正解。
一見最初にお祝いって言葉を出したのはだいなのだが、みんなで集まろうの提案を出したのは、これはたしかにぴょんだった。
でも、ぴょんの発言を受けてのだいは予想通り「お祝いしないとね」って言ってたから、俺のだい読みは間違ってなかった。とりあえずそれで今回は満足するしかあるまいて……!
「ふふ」
そんな間違えて悔しがる俺に、ゆきむらは楽しそうに笑っている。
こんな笑顔が見れるなら、むしろ今間違えてよかった、そう考えることも出来るだろう。
そう考えて、俺も合わせて笑ってみた。
「ゼロさんは都合がいい日ありますか?」
そんな俺にゆきむらは「いや、これお前のための催しなんだから」みたいなことを言ってきたが……日時を選べるなら、そうだな。
「最近の活動日は盛り上がってるからさ、金曜とかはどうだ? 仕事終わりになるけど、それをきっかけにみんな調整するために今週の仕事頑張れそうだし」
「なるほど」
新システムやPvPで盛り上がる今の雰囲気はあまり止めたくないから。
俺は月末花金満喫の11月27日を提案した。
その返事にゆきむらはコクっと頷いてくれたけど、あれかな。ゆきむら的には何曜日でも大丈夫って感じだったのかな。
「じゃあ、その日にしましょう」
「いいのか?」
「はい。だってその日なら、確実にゼロさん来てくれますよね?」
「え、いやそうだけど……俺に拘るの? 自分で言うのもなんだけど、君さっき俺にフラれたんだよね?」
「あ、そうでした」
「おいおい……」
「でも、一番指導してもらったのはゼロさんですから。ですから、ゼロさんには必ず来て欲しいです」
「あー……それはまぁ、そっか」
「はい」
「じゃあ金曜日って連絡しときな」
「分かりました」
ということで、ちょっとなんだかなぁと思うところもあったが、こうして俺たちの11月のオフ会日程が決定した。
しかしほんと、毎月やってんな、俺ら。
……楽しい限りだ。
色々あったけど、ゆきむらの成長も見れたしな。
そんなことを思いながら、俺は日程の連絡やみんなへの返事を終えたゆきむらを新宿駅のホームまで送り、勇気を見せたゆきむらとのデートを終えるのだった。
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