第19章
第549話 ふわりスカート揺らす君
11月22日日曜日、12時42分。
朝から気温が上がらない生憎の小雨パラつく天気の中、俺は襟付きのシャツにカジュアルジャケットと、そこそこにピッシリした装いで、家からわずか数駅の新宿駅まで総武線でやってきた。
そして予定通りに人混みを掻き分けながら、乗り換えるわけでもなく埼京線のホームへと歩を進める。
俺がそんな不思議な移動をしているのは、先週頼まれた予定を果たすため。
そう、今日はゆきむらから直接、何かしらの話を聞く日だからだ。……いや何かしらってあまりにもふわっとしてんなって、俺だって思うけどな!
ちなみに今日の件については当然だいに伝えてある。
俺が素直にゆきむらから二人で会って話したいことがあると言われたと伝えると、最初は「ゆっきーが?」と不思議そうに驚いていた。
でも俺がこんな話になるのではないかという予想を伝えると、それはもう明らかに反応は変わった。ゆきむらが落ち込んでるかもしれないなら、その日はゆきむらをしっかり慰めるようにと、完全にお姉ちゃんの表情で命令されてしまったわけである。
まぁこれは俺への信頼もあるからだと思うけど、なんていうか前々から続く争奪戦とか、そんな言葉を気にしてる様子は欠片もなかったね。
というわけで、現在俺は
ちなみにちなみに、今日に至るまで火曜と土曜の活動日があったが、そのどちらにおいてもゆきむらに別段変わった様子は見られなかった。
昨夜も今日の確認のメッセージがスマホに送られてきたくらいで、LAの中でのゆきむらは完全にいつものゆきむらだったと言えるだろう。
あ、ちなみにちなみにちなみに金曜夜に亜衣菜の予定が空いていたようで向こうから声がかかったから、約束通りだいと3人で組んでNPC相手にコロシアムのトリオ戦をやってみた。そこで色々試した結果、相手が一人なら空砲使ったシーソーはスリップダメージ戦法と相性が良さそうだということが判明したぞ。
ま、そんな状況簡単に作れるとは思えないので、現実的かどうかは別問題なんだけどね!
って、今はこの話関係ないか。
「さて、流石にちょっと早過ぎたかな」
そんな先週から今日までのことを振り返りながら、俺が埼京線のホームに辿り着いたのは12時45分頃。
待ち合わせは13時だから、普通の待ち合わせならもうゆきむらが来ていてもおかしくはないが……なんせ今日の待ち合わせ場所は駅のホームだからな。
迷子スキルインフレのゆきむらのナイス提案だと思ったが、つまりゆきむらは降りた瞬間に待ち合わせ場所に着くんだから、時間ギリギリに来てもおかしくない、そう思ったのだが——
「む」
待ち合わせは分かりやすく、大宮発新宿行きが到着する1・2番線のホームの真ん中。
そう取り決めておいた場所に俺が着くと、ちょうど5号車と6号車の停車位置の中間、さらに1番線にも2番線にもどちらにも等距離になるであろう、文字通り埼京線のホームの真ん中をポジション取るように、約束の人は立っていた。
相変わらずスラッとしたスタイルに見えるのは、その小顔さの賜物だろう。身長160センチ台半ばながらパッと見8頭身のモデル体型に見えるのだから恐ろしい。
そんなゆきむらが浮かべているのはいつもと変わらぬ感情の読めないぽーっとした表情、なのだが、時折チラチラとゆきむらの方に視線を送る通行人たちには、もしかしたらあれがどこか儚さを感じさせる、物憂げな表情に見えているのかもしれなかった。
まぁでも、そう思う気持ちは分かる。
なんでそう思うかって言ったら、それは今日のゆきむらの格好の影響だ。
いつもはパンツスタイルが多く、割とラフな服装が多いゆきむらなのに、今日はいつぞやの格好と似ていて、裾がひらひらと風を受けて舞うようなスカートスタイルだったから。
それはまるで、どこかの令嬢のよう。白いフレアスカートに、紺色のニットを着たその姿からは、ラフな格好が与えてくるアクティブそうな印象はまるでない。
いや、元々ゆきむらの表情とかにアクティブさはないんだけど、それでも今までは着ている服装から、僅かながらのアクティブさを感じさせていたのだ。
だがスカートスタイルではそれもなし。
だからこそ非アクティブ+非アクティブで今日はばっちり非アクティブ。窓辺でコーヒーを傾けながら読書してそうな、そんな印象がその姿から与えられた。
今日はいつものリュックスタイルじゃなく、ハンドバッグスタイルのようだし。
……いや、しかしなんだろう。
なんと言うか、いつものゆきむらと比較すれば気合い入った格好、っぽいような……可愛すぎる気がしたのだ。
……それだけ今日の話に気合いいれてる、のか? いやでもそんな明るい話でもないだろうし……むむ?
そんなちょっとした混乱の中、俺が一歩、また一歩と美しい女性に近づいていると、行き交う人波の中彼女の頭がゆっくり向きを変えてきて、近付く俺と目が合った。
その瞬間、色のなかった表情に明るさが宿った、気がした。
そのまま嬉しそうに駆け出してくる、そんな雰囲気も感じた、のだが——
「……ん?」
身体の向きもこちらを向いて、明らかにこちらに歩いてきそうだった動きが、いきなりぎこちなく止まる。
そして結局俺に気付きながらもその場から動かず、ただ真っ直ぐに何かを訴えかけるようにこちらに視線を送ってくるという状態に。
いや、なんだ?
そんな会って早々謎の動きを見せたゆきむらに頭の中ではてなが溢れる。
でも、お互い立ち止まってもしょうがない。
よく分からんのは、いつものことか。
そう考えて、俺はとりあえず彼女のところへ進むのだった。
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