第545話 俺の経験が吠える時
〈Jack〉『はいったーーーーw』
〈Zero〉『ナイス!』
順調な戦闘、そんな言葉が適切だった流れをさらに助長させるジャックのログ。
そのログに俺は左手で握り拳を作りながら、リアルでもガッツポーズ。だってそれはこの作戦の鍵を握る魔法の1つだったのだから。
そう、俺が頼んでいたのはヒーラーにヒーラーをさせないための、嫁キングへの
さらにゆめに対して俺の移動速度ダウンよりも強力な、サポーターによる移動阻害魔法もかけてもらって安全マージンも忘れない。
そこに俺の通常攻撃も相まって、俺が狙い始めた嫁キングを筆頭に、ゆめチームのみんなのHPが少しずつだが、確実に減少していった。
みんなのHPが減少する。
そう、聡明な諸君ならもうお察しだろう。
俺が2手目として全員に喰らわせたのはベノムシェルという装備による攻撃で、銃に追加効果を与える弾丸だ。
その名前から分かる通り、ベノムシェルは2分間5秒に1回、相手の最大HPの0.5%を減少させる毒効果を付与する。通常その付与確率は50%なのだが、俺はこの毒デバフの付与率を上げるために、ジャックから魔法命中率50%上昇のバフをもらっている。
銃による攻撃なのに魔法命中率なのが変なのって思うのは仕様だからしょうがない。こうした追加効果系の発動率は魔法命中率アップで確率を高められるのがこの
なのでそんなシステムを正しく利用して、俺は毒の付与率を75%まで上昇させたのである。
ちなみに1発目にお見舞いしたのがパラライズシェルで、同じ確率で2分間麻痺効果を与えるデバフがあり、3発目にはコンフュズシェルで1分間混乱効果を与えている。これらが発動してるのかはログにでないため分からないが、麻痺は50%で行動中断効果で、混乱は30%の確率で攻撃や魔法の対象が味方を含む対象以外の相手になってしまう効果があるため、相手への妨害としては有益だ。もちろんこれらの装備では通常攻撃が雀の涙にしかならなくなるが、アタッカーであるガンナーに可能なデバフ効果としては申し分ない性能だ。
そんなデバフを振り撒く自分を、俺は密かに懐かしむ。
今は以前より強力な武器やスキルが増えた結果DPS重視時代となっているし、空中庭園が実装された頃にガンナーのアタッカー性能が上方修正されたこともあり、今ではこうしたデバフ要因としてのガンナーなんか全く目にしなくなったけど、砂漠エリアが実装されてから海底都市が最先端だった頃の5年前から2年前くらいまでは、割とこういう戦い方もガンナーの基本だったのだ。
そして俺は、それが自分の通ってきた道だからこそ、この戦い方をよーく知っている。
もちろんバフ・デバフが本職のサポーターならもっと強力なデバフもあるが、今回のPvPはスキル6つまでという制約付き。それならばむしろ、スキルではなく装備変更でこれが出来ることに大きな意味があるのは間違いない。
ここまでパーティ構成上アタッカーってのを意識しすぎて考えから抜け落ちてた自分を責めたいね。……いや、まぁこの銃弾需要減って供給が全然なくなってるし、製作の使用素材数が多くてお値段がなかなか高いってのもあるんだけどね!
それでも錬金術の製作スキルを上げてれば作れるんだけど、フレンドで錬金術上げてる奴って、
だが、今の状況にそんなことは関係ない。
〈Zero〉『ゆめが動けないうちに、嫁キングを落とす!』
嫁キングがデバフ解除の魔法を設定していれば簡単に治されてしまうけど、今は魔法が使えない。
だからこの隙に、嫁キングを落とすのだ。
あーすがゆきむらのヘイトを固定したのを確認し、俺はサドンリーデスを起動して、早速嫁キングにぶっ放す。続けてリベレーションショット>スナイパーショットと続けて無防備なヒーラーを狙い撃ち。この3スキルの発動でMPの1/3を消費したが、そんなの全く気にしない。
今はスピード最優先。向こうが防御力アップをしているからか、今のラッシュで嫁キングのHPを残り60%ほどまでしか削れなかったが、攻撃間隔が短くなってるからな、俺は通常射撃でもとにかく嫁キングを狙い続けた。
俺が急ぐのには理由がある。
ジャックのかけた沈黙はおそらく
しかしジャックがゆめにかけた移動阻害は効果そのものが強い分装備で時間延長は出来ず、30秒で切れてしまう。そして再使用までは90秒。つまり嫁キングを落とすのが早ければ安全にゆめに対処出来るけど、遅くなればなるほどゆめを自由に動かせてしまうわけである。
そして移動阻害が切れた少し後には、嫁キングたちの混乱も解ける。
そうなれば、もしかしたらのリスクもある。
そんな理由で、俺はとにかく攻撃を急いだ。
あ、ちなみに通常攻撃にはブラッドブレッドという火力重視の、デバフなんかない銃弾を使っているからな。デバフ装備だとぜんっぜん攻撃力出ないから、俺は一通りのデバフをばら撒いた後に変えたのだ。
俺はほんの少しずつHPを減らしながらも、かたつむりのようにじわじわとこちらに向かってくるゆめに意識を取られすぎないように気をつけながら、嫁キングへの攻撃を継続する。
15秒間隔で使えるスナイパーショットを挟みつつ、間隔の短くなった通常攻撃を、とにかくどんどんどんどん嫁キング
絵面的に相当な光景だったけど、こればっかりはしょうがない。
そして残りHP10%ほど、あと3秒でリキャストタイムを終えたリベレーションショットを使えば嫁キング落とせるだろうと確信した時——
パァァァ、と装い新たになった凛々しい犬耳獣人の嫁キングの身体が輝くと、その光が一瞬ゆめの方に向かって、嫁キングへと戻っていく。
まずい!
そのエフェクトは、知っていた。
それはヒーラーである錫杖使いの固有スキル〈サロゲート〉の光で、対象にかかっているデバフ全てをサロゲートを使用したヒーラー自身に移すという効果のものだ。
その光を見た直後、俺はリキャストタイムを終えたリベレーションショットを発動させて嫁キングを撃破したけれど、これが即時発動型でよかった。このスキルを強化しててよかった。
もし今のタイミングでヘッドショットを求められたら、焦って外してたかもしれないから。
〈Earth〉『おー☆』
そして嫁キングを倒したのがログから伝わったのだろう、あーすが能天気にも鬨の声を上げるが、俺にはそんな気持ちは微塵にも湧いてこない。
なんたって、嫁キングの置き土産のように全デバフがなくなったゆめが、俺の方に向かってきていたから。
それはもう先だって行ったPvPの時より怖かった。ゆめが強いから? いや、それも当然なくはない。
でも今俺はだいの期待を背負ってゆめを倒しに来てるのだ。そんな分かりきってることじゃビビらない。
じゃあ何が怖いって?
いや、だってさ? 斧、めっちゃデカく見えるのよ。凛々しくて割と背の高かったエルフの旧〈Yume〉から、今は小柄で可愛い犬耳獣人の新〈Yume〉になってるわけですし。
サイズ感が変わったせいで、不思議と移動速度も速く見えた気がしたし。
そんな姿を捉えてから、俺は刹那の思考を展開する。
ジャックからもらった移動速度アップは通常の30%増しで、つまり今の俺の通常の移動速度は130%。でも今は攻撃態勢を取っているから、半分の65%。ゆめは100%の速度で来てるから、このままいけば確実に詰められる。たぶん、今の姿勢のままいれば8……いや、6秒あれば俺は死地に入るだろう。
ジャックの移動阻害は、まだリキャストタイムだし、ヘヴィショットは……今使ったらゆめにも俺がそれを使ったのが見えてしまう。そしたら避けられる可能性も高くなる。通常攻撃のふりして麻痺や混乱を狙ったとて、今俺が撃つ銃弾にはその効果があるだろうとゆめが思わないわけがない。そうなると、避けられる可能性は高くなる。
もちろんゆめの動きを予測して当てることは不可能ではないだろうが、そもそもヘヴィショットはまだしも、デバフたちは100%発動するわけではない。
となればここはヘヴィショットを狙う? いや、でも——
一歩、また一歩と死神の鎌のようにいかつい斧を振りかざしたゆめが迫る。
今回防御アップはもらってない。
ガードのない俺ではフルボッコにされれば、30秒あれば余裕で死ねる。
きっとここが、この戦いの分水嶺。
お互いどんな手を出すか、刹那の間合いで、思考上という盤面の戦いが展開する。
そんな長く長い刹那の末、俺が選んだのは——
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