第544話 カッコいい自分であるために
〈Jack〉『じゃあ、その作戦でいってみよーーーーw』
〈Earth〉『頑張るね☆』
〈Zero〉『ああ、頼む』
だいの期待を受けて迎えた3戦目の突入前。
今回も打ち合わせの時間が与えられ、15分間俺はジャックとあーすに俺の勝利への方程式を伝達した。
それは勝利の方程式ではなく、あくまで勝利への方程式。正直勝算はゆめの強さを考えれば未知数だ。
なんたってさっきの第二戦、俺たちの方が圧倒的スピードで戦いを終えたけど、ゆめチームも危なげなくこの試合も制して2連勝なのだから。
しかも聞けばゆきむらにリダを抑えさせて、ゆめが嫁キングの支援を受けながら、ぴょんとロキロキの二人を同時に相手にし、押し切ったらしい。
そんなゆめと俺がタイマンを張ればどうなるか……なんて、そんなことは考えなくても分かるだろう。
でも、戦う前から諦めるのは話が違う。
なんたってだいに期待されたからな。
勝つ。勝ってカッコいいところを示す。
それが俺の至上命題なのだ。
〈Gen〉『じゃあラスト、健闘を祈る!w』
〈Jack〉『ちゃんと言えたねーーーーw』
〈Pyonkichi〉『勝ーーーーつ!!!』
そして、今度こそちゃんと誤字せずに言ってきたリダの言葉を受けて、俺たちは3戦目の戦いを開始した。
見慣れたコロシアムのフィールドへエリアチェンジして、まずはバフタイム。
今回鍵を握るのはこのバフたちなわけだが、俺の作戦を伝えるとジャックは「面白そう」と言ってくれた。
勝てそうとかいけそうとか、そんな言葉はなかったけど、やってみる価値はある。きっとそれがジャックの判断だったのだろう。
そしてこの戦いは俺に運があるか、そこに今回の作戦成功の鍵がある。
正攻法ではなく、見方によってはせこいかもしれないけれど、ルール違反は一つもない。
運要素を補えるように努力はしているが、100%の保証はどこにもない、それが俺が立てた作戦だった。
〈Jack〉『おっけーーーー』
〈Zero〉『じゃあ予定通りに。長期戦なるかもだから、頑張ろう!』
〈Earth〉『任して☆』
そしてバフの時間が終了し、俺はまだ相手が見えないうちから一つの攻撃スキルを発動させる。
銃スキルはスキルを発動させた後、照準合わせをして発射時に発動するものがほとんどだ。だからまだ戦闘が始まる前から、相手に何を起動させたのか分からない場所で初手のスキルを選ぶ事ができるのだ。
もちろんスキル発動から一定時間内に攻撃しなければスキルの発動可能時間がなくなって、発動にかかった消費MPは無駄になる。でも今回の相手チームの編成から、待機戦法は取らないだろうと、そんな確信が俺にはあった。
だいチーム、リダチームにあって、ゆめチームにないもの。
それは移動速度上昇バフだ。
盾役である武士のゆきむらも、重量系アタッカーのゆめも、ヒーラーである嫁キングも、移動速度を上げるスキルや魔法は使えない。
移動速度上昇は短剣、苦無使いが使えるスキルで、サポーターのみが魔法で可能なバフなのだ。
一応装備によって若干のアップは可能だが、スキルや魔法での上昇はそれとは比較にならない。
よって移動速度を上げてだいのように一人だけ別ルートで迫るようなことは、作戦として考えづらいわけである。
それにゆめのことだ。アタッカーが俺でジャックがアタッカーをやらないなら、おそらく正攻法で勝てる、そう思ってることだろう。
もちろんこちらにはサポーターとして超一流のジャックがいるから、何か作戦があるかもと何かしらの警戒はするかもしれないが、それでもきっと俺はノーマーク。それなら、俺の作戦が決まってもおかしくない。
そんな思惑を持って、俺はもらったバフの一つ目、移動速度上昇効果で一気に前に進み、まだジャックとあーすが来る前に、ひと足先にゆめチームを視界に捉えた。
やはり、予想通りに相手の足並みは三人一緒。
ゆきむらの背後に嫁キングがいて、ゆめはその隣にいる。
きっと先んじてやってたPvPの経験から俺が撃ってきてもガード出来ると踏んだのだろう。何ともまぁ狙ってくれと言わんばかりの進軍だ。
でも初手の一撃はダメージが狙いではないのだから、ガードされても関係ない。
そんなわけで、俺は早速立ち止まり、銃を構えてゆめに照準を定め……Bang! と先ほど使ったスキルを乗せてゆめを狙って攻撃する。
そしてそれは予想通りガードされたのだが、ゆめがガードしたすぐあとに、これまた予想通りにゆきむらと嫁キングの足が止まった。
そう、俺が放ったのはデバフ狙いのヘヴィショット。これは相手の移動速度を一定時間遅くするスキルで、これでゆめの機動力は俺と比べて相対的に大きく落ちる。それに合わせて、ゆきむらと嫁キングも足を止めざるを得なくなる。これが向こうのパーティの足が止まった理由だろう。
そんな相手が戸惑っている隙に、俺は少し横に移動して嫁キングも狙える位置からさらにBang! Bang! Bang! とヘッドショットなんか狙わずにスピード重視の三連射を嫁キング、ゆめ、ゆきむらの順にお見舞いした。
この攻撃にはきっと向こうも驚いたに違いない。だって俺の三連射は、通常の銃撃よりも圧倒的に早い間隔で放たれたのだから。
これが俺がもらったバフの二つ目、攻撃間隔短縮だ。
そして手早くマクロを起動して一部の装備変更をしてから、さらに三連射をそれぞれに食らわせる。
ここまでゆめに3発、ゆきむらと嫁キングに2発銃撃を当てているが、それだけ撃っても後衛の嫁キングにすら100もダメージは与えられていない。
でもこの攻撃は、ダメージ量を求めたものではないから。
そうこうしていると、俺の2回目の三連射の後、俺が次射を撃ってもいないのに、全員のHPバーが微妙に減少したのが見えた。
その減少に俺は心の内で「よし」と叫ぶ。
1回目の三連射の効果はまだ分からないが、2回目の三連射は明らかに効果を見せている。
それを確認し、俺はまたマクロを起動してから三連射。これもまたダメージはほぼ皆無だが、そんなことは気にしない。
その間にジャックとあーすもやってきて、二人が俺の横を過ぎて行く。
ここまでは完全に作戦通り。
あとはあーすがゆきむらを止めて、ジャックが嫁キングにあの魔法を決めれば、俺たちの勝機が見えるだろう。
警戒すべき相手はゆめだけど、この作戦は嫁キングに何もさせないことがポイントだ。そうすれば後は、ゆめを抑えながらの持久戦になるのだから。
そんな思考を巡らせながら、俺はマクロを発動させて愛銃フラガラッハに込めるまた銃弾を変更する。そして先に横を抜けていったジャックたちに追いつくように駆け出して、俺は嫁キングにヘッドショットを決められる位置まで、勝利を目指して前進するのだった。
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