第535話 自分の顔は自分じゃ見にくい
〈Zero〉『じゃ、次は俺だな!』
〈Jack〉『おーーーーw』
〈Soulking〉『ゼロやんもおんにゃのこになるのかなっ!?』
〈Hitotsu〉『ええっ!?』
〈Senkan〉『ここで耳生やして来たら笑ってやるwww』
〈Yukimura〉『わんわんゼロさんも可愛いですけど』
〈Yume〉『まさかにゃんにゃんではないだろうしね〜』
カタカタキーボードを叩き、4番手の変身者として俺が名乗りをあげると、ここぞとばかりにやってくるいじり。
いや、まぁ分かるさ。
ゆきむら、嫁キング、ゆめと来ての俺だろ? そりゃ俺だってこのメンバーなら俺をいじる。それは分かる。
でも、一つだけ言わせてもらいたい。
〈Zero〉『俺も変身後、どうなってるか分からん!w』
〈Jack〉『んーーーー?』
〈Soulking〉『ランダム作成とかあったっけ?』
〈Yukimura〉『なかったと思いますけど』
〈Yume〉『あ、なるほど。ゼロやんはお金出しただけってことか〜』
〈Senkan〉『おいおいそんなパパ活みたいな・・・』
〈Zero〉『人聞きの悪いこと言うなっ』
どうせ伝わるだろうと思って発した言葉は最初の数人こそ上手く伝わらなかったみたいだが、途中でゆめが気づき、大和の雑なボケに繋がった。
そんな大和に当然の如くツッコむが……でもあれか?
〈Zero〉『ゆめのお察しの通り!』
〈Jack〉『それでみんなのキャラメイク中、ゼロやん全然喋らなかったんだねーーーーw』
〈Hitotsu〉『あれ?でもだいさんのPCは空いてたんじゃ・・・?』
〈Yume〉『このタイミングまで秘密にしたかったんでしょ〜』
〈Yukimura〉『だいさんのゼロさんも楽しみですけど、ゼロさんが作る新しいゼロさんも見たかったです』
〈Senkan〉『でもそれでもしどこぞの猫耳獣人みたいな感じなってたらリアクションしづらいぞw』
〈Jack〉『それはダメでしょーーーーw』
〈Zero〉『やめい!』
〈Yukimura〉『むむ?』
〈Hitotsu〉『あ、ほらっ、Ceで始まる人だよ・・・!』
〈Yukimura〉『ああ。セシルさんですか』
〈Zero〉『おいっ!!!w』
〈Soulking〉『いっちゃんが隠した意味www』
〈Yume〉『さすがゆっきーだね〜w』
そしてまた俺が喋ったことを起点として話が盛り上がる。
いや、なんかこう言うと俺がものすごいMC力を発揮してるみたいだけど、別にそんなことは決してない。水面に投げ込まれた石によって生まれた揺らめきを、みんなが勝手に広げているだけなのだから。
とはいえ、ここでセシルの名前を出す辺りは流石大和くんですよ。もちろん大和は9月の夢の国での一件が先月になって落ち着いた話を俺から聞いている。
だから俺へのセシルいじりがリスキーでないことを知っているわけだが、知っているからと言ってそこを堂々と使ってくるあたりは、大和の人間性だろう。
おのれ。
〈Zero〉『ま、ってことだから、とりあえずどうなるかは使ってからのお楽しみ!』
そんなこんな、アイテムを使用する段階までまた無駄に長いやりとりが生まれたが、俺は盛り上がり続けそうな話題をぶった斬って話を前に進めていく。
流石にこう言えば、もう俺がアイテムを使う流れだって分かるだろう。
〈Zero〉『いくぜ!』
そして、いざ! と意気込んで、俺はアイテム欄からトランスポーションを選び——
〈Zero〉はトランスポーションを使用した。
現れるログとともに光に包まれ、俺の画面も一時的にホワイトアウト。そして世界に色が戻ると、そこに——
「……ん?」
直毛チックな黒髪を眉辺りの長さまで伸ばす、落ち着いた髪型の、そこまで背が高いわけでもない、ゲームとか漫画だとどことなく主人公チックな顔つきだなーって感じのする比較的童顔な、男キャラがいた。雰囲気的に好青年。
……と、ちょっと褒めすぎかもしれないが、客観的に見ればそんな感じの……
「……んん?」
改めて目を凝らす。
キャラの上に出ている名前は、やはり〈Zero〉。
いや、そりゃ当然キャラネームは変わらないんだけど、そういう話ではないのだ。
パッと見ただけで、正直違いが分からない。
何だこれ、バグ? それともキャラメイクしたデータをリセットした後、初期設定でアイテムを作成したりした?
いら、でもアイテム欄からトランスポーションは1個減ってる。
ということは、変身した?
むむ?
そんな混乱が俺に浮かんだのだが——
「どう?」
背後から聞こえた何だか満足気な声と、俺の視界に入った〈Zero〉の前に立つ〈Daikon〉の姿。
え? でもそんな声を出すってことは、これ何か変わってんだよな……?
え、何? 前髪5ミリ切ったとか、そういう話……!?
そんな気付かないと申し訳ない気持ちと、どこが変わってるか気付けなくて焦る気持ちが錯綜する。
そんな中——
〈Senkan〉『これ、何が変わったん?w』
〈Jack〉『んーーーー?』
〈Soulking〉『サイ○リアの間違い探しレベル?w』
あ、よかった!
俺だけが分からないということではなさそうで、俺は少しだけホッとして、胸を撫で下ろした。
でもあれだぞ、サイ○リアじゃなくて、サイ○リヤだぞ嫁キング。
ホッとした気持ちから、そんなツッコミに意識を回したのだが——
〈Hitotsu〉『すごい!めっちゃお兄ちゃんだっ!』
〈Yukimura〉『これはゼロさんですね』
〈Yume〉『ほんと、ゼロやんみたいだ〜』
どこの何に気付いたのか、俺とタメか年上チームが気付かなかったことに、若年チームが何か気付いたような反応を示してくる。
でもお兄ちゃんだのゼロさんゼロやんだの、そりゃそうだろってコメントにしか見えなかったのだが——
〈Daikon〉『頑張りました』
俺が何も言わないことに対してだろう、背後からは「むぅ」と聞こえてくる中で、ログ上では明らかにドヤっているであろうだいの声が上がる。
でも俺には違いが分からない。
誰か、誰か聞いてくれ……!
そう心の中で願うと——
〈Senkan〉『あ!ちょっとデカくなった!?』
〈Hitotsu〉『そうですね!』
〈Yukimura〉『それと、髪も少し短くなってますよね』
〈Yume〉『うんうん〜。あとは顔がちょっとだけ縦に伸びたよね〜大人っぽくなった〜』
〈Daikon〉『うん、前のゼロやんはちょっと可愛すぎたからさ、雰囲気を本物に近づけたよ』
〈Yukimura〉『たしかにゼロさんに似てカッコよくなりましたね』
〈Yume〉『少し大人びた感じだね〜』
〈Hitotsu〉『二十歳のお兄ちゃんから、二十代半ばのお兄ちゃんって感じですね!』
〈Earth〉『見たい;;』
〈Loki〉『それは俺も思うっす!』
〈Soulking〉『え、えっと……そうなの?w』
〈Jack〉『みんなよく見てたねーーーーw言われても分かんないよーーーーw』
〈Soulking〉『みんなゼロやん大好きかっw』
まさかの大和の正解を皮切りに、チーム人妻を除くメンバーによる答え合わせが行われた。
そして俺も答えを聞いてみてようやく……。
「あー……言われてみれば……そう、か?」
いや、ごめん。
やっぱりちょっと分かんない。
たしかに何かしらの違和感はある気がするけど、それを言語化出来る自信がない。
「亜衣菜さんが作った時のゼロやんは二十歳とかだもんね。大学の頃の写真で見たゼロやんはたしかに今より可愛いから、元の〈Zero〉も当時のゼロやんをモチーフとしたら、すごく上手く出来てると思うよ。でも今はほら、そこから8年くらい経ってるでしょ? 今のゼロやんは可愛いよりもカッコいい方が似合ってると思うの」
「え、あ……ありがとう……」
「どういたしまして」
そんな俺の分かったような分からないような、あやふやな反応を受けたにも関わらず、ぽかーんとする俺をよそに珍しくだいが少しテンション上がり気味に早口で捲し立ててくる。
で、でもたしかに、うん、なんかこんだけ言われてみれば前よりも老けたというか、大人っぽくなった、気がするような気がするぞ。
……あ、いくらなんでもそんな分からないものかよって思うかもしれないけどさ、プレイヤーは冒険中は基本自分のキャラの背中を見るわけじゃん?
だから顔って、そこまで意識しないじゃん?
男キャラだしさ、おしゃれ装備着せて着せ替え人形的に遊ぶこともないじゃん?
これが〈Nkroze〉だったら、たぶんすぐ気づける自信はあるけどな!
〈Daikon〉『素敵でしょ?』
〈Yukimura〉『すごいです』
〈Yume〉『さすがよく見てるだけあるね〜』
〈Hitotsu〉『最近のお兄ちゃんそっくりですっ』
〈Senkan〉『愛だなw』
〈Soulking〉『ラブラブで素敵だねっ』
〈Jack〉『まいりましたーーーーw』
でも、俺へのアピールに飽き足らずどうやらもっとドヤりたいだいは、自分の成果を恥じることなくアピールし、それをみんなが否定せず。おかげでむしろ俺の方が恥ずかしくなる始末。
しかし改めて〈Zero〉を見れば……そうか、俺ってこんな顔してんだなー……。
俺が動かさないから立ってる場所は微動だにしないが、呼吸や瞬きを繰り返す
自画自賛するみたいで気持ち悪いが、整った顔立ちだと思う。
しかしこんなにじっくり〈Zero〉の顔を見たことって今まであったかね。
……あれ? 元々ってどんな顔だったんだっけ?
正直言われた変化は、そこまでピンと来ないし、むしろ元々の顔が思い出せなくなる始末。
確認しよっかな……あ、でも効果消したら30万が無駄になっちゃう……効果時間168時間、か……。いや、なげぇな! 一週間後に今の気持ち覚えてる自信ないし……。
みんなが〈Zero〉と
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