第534話 美女×美人×美少女

 そこに現れた女の子を一言で表現するなら、みんなが既に述べた言葉で事足りる。

 そう、可愛い、だ。

 

 今までが男キャラだった分身長は低くなったが、それでも〈Daikon〉よりは背が高く、リアルでのだいとゆきむらの身長差を感じさせる身長で、頭の上から足先まで、リアルゆきむらを彷彿とさせる全身細身のスラッとしたスタイル。

 もちろん似ているのはスタイルだけではなく、胸部あたりまでストレートに伸ばした純日本風という印象の黒髪も、たぬき顔よりはきつね顔寄りの整った美人な顔立ちも、やや切れ長でぽーっとした、いつも眠そうに見える眼差しも、本当にゆきむらの中の人である神宮寺優姫がこの世界にやってきたレベルでNew〈Yukimura〉はゆきむらにそっくりだった。

 というかこいつもキャラメイク上手いな。

 俺自分で自分作っても、こんな上手く作れる自信ないんだけど。


 なんてことを思ってると、LA内で装い新たな〈Yukimura〉が〈Zero〉の目の前にやってきて——


〈Yukimura〉>〈Zero〉『可愛いですか?』


 俺の方を見つめながら、言ってきた。

 まさかのここで個別チャット。

 その文字を見た瞬間ゆきむら本人が軽く首を傾げながらも、ぽーっとした目でこちらを真っ直ぐに見つめてくる様子が浮かんで、不覚にも俺は何故か自分の頬が赤くなるのを感じてしまう。

 いや、でもだって——ちょっと可愛いじゃないすか?

 みんなから『可愛い』って言われてる中、まるで俺にだけ耳打ちするように言ってくる感じ。

 これはちょっと、ずるいよね。


〈Zero〉>〈Yukimura〉『ゆきむらに似てるし、可愛いと思うよ。上手く出来たな』


 なのでここは素直に褒めてやるのが年長者の義務だろう。

 そんな俺の返事にゆきむらは。


〈Yukimura〉>〈Zero〉『嬉しいです』


 だってさ。……うん。

 いや、分かってる、分かってるよ?

 俺の背中側にいる奴が1番可愛いってのは。

 でもこの素直さは……これはこれで可愛いだろ。

 そんな内心を抱えたのは、俺だけの秘密である。


〈Senkan〉『見た目だけ見たら攻撃力とか下がってそうだなw』

〈Jack〉『そんなん言ったら小人族は元から弱くなっちゃうよーーーーw』

〈Yume〉『見た目なら男獣人が最強だね〜』

〈Zero〉『下手なモンスターより強そうだもんなw』

〈Soulking〉『じゃあその最強種の呪いがどう解けたか、2番手は私がいくよっ』

 

 そして俺が地味にゆきむらの可愛さに余韻を感じている間に、次の変身者が決定する。

 次の変身は嫁キングか。

 普段は犬型獣人で、リダと並ぶギルド内ワイルドポジションの双璧だったわけだけど、その変化や如何に。


 そう思いながら、嫁キングがトランスポーションを使用したというログが現れ、大柄なその姿を全て包み込む光が出現し——


〈Soulking〉『〈Soulking〉の呪いが、今——』


 光が消えるまでの間に何とも凝った台詞を絶妙に挟み込み、その光が消えると——


〈Hitotsu〉『えっ!』

〈Yume〉『あ〜』

〈Jack〉『そうきたかーーーーw』

〈Daikon〉『カッコいいね』

〈Senkan〉『たしかにこれは俺に並ぶイケメン度w』

〈Zero〉『一部は呪い残りってことなのか?w』

〈Yukimura〉『なるほど、そういうことですか』


 現れた姿は、元の大きさよりも明らかに小さくなっていた。

 その姿にみんなが口々にコメントを出し、俺の言葉が最大のヒントになったかもしれないが、そう。

 嫁キングは犬型男獣人顔が犬から、犬耳女獣人耳だけ犬へとその姿が変わったのだった!


 だが、この変化には流石の誰も「似てる」は言えない。

 耳があるからとかじゃなく、そもそもリアルの嫁キングと言えばザ・お母さんよろしく活発さも備えつつ、見た目は穏やかで優しそうな印象が非常に強かったのだが、今俺たちの目の前に現れた〈Soulking〉は、そんな印象とは結びつかなかったからである。

 輪郭を覆うような銀髪のウルフカットに、銀色の毛に包まれた大きな耳が頭に2つ。顔つきは鋭い眼差しが印象的な凛々しい感じになっていて、何と言うかだいの言う通りカッコいい、というのが適切な表現だと思う。このおそらくモデルはシベリアンハスキーだろう。

 大和に並ぶイケメン……ってのは、種族が違うから何とも言えないが、身長は俺よりも大きいから、180センチくらいのイメージだと思う。

 ただその凛々しさは、宝塚にでもいそうな超美形って感じで否定のしようがなく、女子校とかにいたらモテモテなんだろうなぁってイメージを与えてくれた。

 カッコいい系女といえば、これまではゆめ銀髪女エルフの一強だったけど、そこに割って入るのは間違いない。

 って、ゆめも変身するんだから、どうなるのかは分かんないけど。


 そんな感じで俺がNew〈Soulking〉を眺めていると。


〈Hitotsu〉『ヤバい!カッコいい!素敵ですー!』

〈Soulking〉『ありがとねっ』

〈Soulking〉『やっぱり元【Wildbear獣人縛りギルド】として耳は捨てられなかったっw』

〈Jack〉『そういうことなのねーーーーw』

〈Senkan〉『超アタッカーっぽい見た目なのにヒーラーかw』

〈Zero〉『いや、元の姿の方がアタッカーだったろってw』

〈Senkan〉『たしかにw』

〈Daikon〉『でもホントカッコいいね』

〈Yukimura〉『呪いが解けたようでよかったです』


 天然ゆきむらは放っておいて、ハマった奴にはハマったらしく、我が妹はあの見た目がお気に入りらしい。……そういう趣味だったのか。

 でも嫁キング、元ギルド意識とはやりよるな。


〈Yume〉『若干被ったので、3番手いくでありま〜す』

〈Yukimura〉『被った、ですか?』

〈Senkan〉『変身したと見せかけて変身してない的な美形被りか!?w』

〈Jack〉『それはくどいよーーーーw』


 そしてさっき「あ〜」って反応を見せていたゆめが、「被った」と言って3番手に名乗り出す。

 でも被ったってことは、これはゆめも獣人か? まさか大和の予想通りなんてことはないだろうし……。

 と、そんな予想をしつつ、光に包まれた〈Yume〉の変化を確認すると——


〈Daikon〉『可愛い・・・!』

〈Jack〉『これは可愛いーーーーw』

〈Yukimura〉『耳、ふわふわそうですね・・・可愛い』

〈Hitotsu〉『ゆめさんに似て可愛いです・・・!』

〈Senkan〉『たしかにこれはリアルゆめとファンタジー世界LAの見事なコラボ・・・!』

〈Soulking〉『可愛いなおい!w』

〈Soulking〉『ってか、ここまでだともう何も被ってないと同義だよっw』

〈Zero〉『たしかにここまで系統が違うと被ってる気しねーなw』

〈Earth〉『気になる;;』

〈Loki〉『ダメっす!今はこっちに集中!』

〈Jack〉『ロキロキスパルタだなーーーーw』


 最後の方にはちょっと余計なログも入ってきたが、そう。元銀髪エルフのカッコイイ系女子だった〈Yume〉は、その面影を全て取っ払って——


〈Yume〉『子犬系女子で〜す☆』

〈Soulking〉『守ってあげたくなるやつだ!w』

〈Hitotsu〉『あざといと分かってても可愛いと思っちゃうやつだ!w』

〈Daikon〉『垂れ耳可愛い・・・』

〈Yume〉『わんわ〜ん』

〈Yukimura〉『わんわんさん可愛いです』


 みんなの盛り上がりからも分かる通り、垂れ耳タイプの犬耳女獣人へと変身したわけである。たぶんモデル的にはダックスフンド、かな?

 茶色いふわふわの毛に包まれた耳は頭の上から両サイドの方にへたっと垂れていて、その耳を受ける金に近い茶髪はリアルゆめ同様肩に付かないくらいのボブで、毛先にゆるふわのパーマを当てた感じになっている。

 その顔立ちもゆめ本人と同じくたぬき顔寄りのロリっぽい可愛い系で、中の人同様守ってあげたくなるような雰囲気をまとっていて、特に大きな翡翠色の瞳を宿す垂れ目がすごく魅惑的だった。

 ほんと、全体的にあざと可愛いを地でいくゆめのイメージ通りな上……密かにたぶん、胸の膨らみが全メンバーの中で1番大きい。

 その点については実際はだいの勝ちのはずだからダウトなんだけど、そこはほら、別にリアルに合わせる必要はないからな。大きくても何も問題はないだろう。

 でもこの可愛さででっかい斧振り回すのかー……ギャップえぐいなこれは。

 でも可愛いからいっか!

 そんなみんなも絶賛のNew〈Yume〉の可愛さを俺もこっそり堪能していると——


〈Yume〉>〈Zero〉『可愛い?』


 お前もかい! と思わずツッコミたくなるメッセージが、俺にだけ聞こえるようにやってきた。

 でも聞かれたことに、嘘は付けないから。


〈Zero〉>〈Yume〉『うん、可愛い』


 と、俺が返すと——


〈Yume〉>〈Zero〉『知ってる〜』


 お返事は、圧倒的予定調和ですね。

 でもその言葉は、まるでゆめ本人が可愛く笑っている姿が目に浮かぶような、そんな言葉だったから、俺は思わずモニターの前で苦笑い。

 しかしほんと、絶妙にリアルとフィクション混ぜるのが上手いなゆめ。

 

「ゆっきーも犬耳のゆめも、すっごい可愛いね」

「えっ!? あ、ああ」


 だが俺の苦笑い直後、俺の表情は見えていないはずのだいから話しかけられて、完全に油断していた俺は思いっきりびっくりしてしまい。


「どうしたのよ?」

「え、あ、いや、なんでもないよ?」


 テンパって振り返った俺の様子に、だいが訝しむような目を向けてきていたが、そこに何度も首を振って否定する。

 うん、俺は何もしてないし!?

 でも、そんな内心で無駄に言い訳をかます俺をよそに、訝しんでいただいはあっという間にいなくなっていて——


「じゃあ次はゼロやんの番だねっ」


 あ、なるほど。

 それが楽しみってわけなのね。


 やたらと楽しそうな様子で、だいが目を輝かせてくる。

 今回キャラメイクをしたのは俺(だい)、ゆきむら、嫁キング、ゆめ、リダの5人。

 で、リダをトリとするならば……次は俺の出番だろう。


 さぁどんな俺と出会えるのか。


 アイテムを使うのは自分なのに、自分が変身後を知らない状況にちょっとドキドキしながら、俺はアイテム使用前、少しだけカタカタキーボードを叩くのだった。

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