第533話 フリーダムなギルドとしては定評がある

「順調か?」

「集中してるから話しかけないで」

「ええっ!?」


 だいに席を譲ってからおおよそ10分ほど、暇を持て余して話しかけた俺に返ってきたのは、何とも冷たい言葉だった。

 いや、俺だって本当は終わるのを待つつもりはあったのだ。だからまず、だいのキャラメイクを待つ間、俺はだいのモニターでゆっくりじっくりくまなくと、〈Daikon〉を眺めてみた。

 その容姿はほんともう、国宝級っていうの?

 だい本人が世界遺産級として。それを模して作られた子だからね、そのくらいの尊さと言っても過言ではないだろう。

 でもさ、いくら可愛いとは言っても流石に10分も見てれば十分だ。本人と違って、リアクションもないわけだし。なので当然ながら見飽きた俺は、ふらっとだいの方に近寄ってキャラクターメイク作業中のだいに話しかけたってわけである。

 まぁ、返ってきた言葉は辛辣なものだったわけですけど。


「出来るまで見ちゃダメよ」

「あ……はい」


 そして連撃を決めるかの如く、近くにいることすら拒否られて、俺はすごすごだいのモニター前に帰還する。

 しかしこうなると、本格的にやることがない。

 新天地に着いたばかりのぴょんはいつの間にかロキロキがあーすとまとめてパーティに誘っているみたいだから、きっと道案内は完璧だろう。

 真実と大和は時折戦闘やスキルについての質問をギルドチャットに投げかけるけど、それもジャックやロキロキが見事な対応で応えている。

 そう、重ね重ねで俺にはやることがないのである。

 キャラメイク中のメンバーも集中しているのか静かだし……こうも手持ち無沙汰だと結局スマホを見るしかやることがなく、俺はちょこちょこ溜まってたメッセージに返事をしたり、なんか新しい情報でもないかなとLA関連の検索をかけたりしながら、みんなの作業が進むのを待つのだった。







「うん、よし」

「お、できた?」


 なんだかんだと待つこと30分以上、もうスマホを見るのも飽きてきた頃、俺待望の言葉が聞こえた。

 ちなみにギルドチャットではすでにキャラメイクを終えたメンバーの声は上がっている。

 でも全員終わってから、一斉にドンでいこうというのが、今回の企画主催者であるゆめの意見だったので、先に終わったメンバーも含め、まだ待ち時間は継続中。


「うん。いい感じに出来たかも」

「そりゃ楽しみだ」


 でもまだ待つ時間があるにしても、だいが終われば話し相手になってくれるからな。

 作業を終えただいの表情も明るいし、きっといい感じに出来たのだろう。

 でもどうしよ。これでだいがめっちゃネタに走ったりしてたら。

 いやまさかだいに限ってな。あれだけ自信満々に私が作るって言ったんだし、それはあるまい。


 とか、ちょっとだけドキドキすることも思いつつ。


「でもまさかリダが1番遅いとはな」

「魔王のイメージだし、頑張ってるのかも」

「あ、そういやそのイメージだったっけか」

「闇の帝王? っていうのだったら分かんないけど」

「いやそれは俺だって分かんねーよ」


 俺は俺の椅子に座ったままのだいとのんびり会話をする。

 だが待つのは俺たちだけではなく——


〈Senkan〉『意外と時間かかってんのなw』

〈Yume〉『リダのやる気感じるね〜』

〈Soulking〉『しかもまだかかりそうw』

〈Hitotsu〉『凝ってるんですね!』


 ってな感じで、大和と真実も合流し、現在みんなでリダの完成待ち中なわけである。


「とりあえず、俺らも会話戻っほうがいいだろうし、席戻るか」

「んー、もうちょっとこっちがいい」

「いやいや、戻らないと俺ら会話に参加出来ないじゃん」

「でもまだここ座ってたいもん」


〈Senkan〉『でもこれさ、キャラのサイズ変えたら戦闘の感覚だいぶ変わるんじゃねーの?』

〈Jack〉『そうだと思うよーーーー』

〈Loki〉『それがあるから俺は変身に踏み切れないっすw』

〈Gen〉『・・・マジ?』

〈Soulking〉『作業の手止めんな^^』

〈Yume〉『これはやってんな^^』

〈Jack〉『大ヒントだねーーーーw』

〈Yume〉『リダの変身は最後に回そ〜^^』

〈Gen〉『ひぃw』


 そして作業が終わったのだからと元の席に戻ろうと言う俺に対し、なかなか席を代わってくれないだいと「返せ」「やだ」というバカップルチックなやりとりをしている間に、ちらっと覗いたモニター上では他のメンバーの会話が進む。

 しかしだいの駄々っ子モードは置いといて、この流れ、リダの変身後の種族はきっとアレってことなんだろうな。分かりやすい。


「座りたかったら私を向こうまで運びなさい」

「お気に召すままに」

「ん、よろしい」


〈Yukimura〉『皆さん作成のイメージは自分ではないのですか?』

〈Yume〉『それは人それぞれだよ〜』

〈Soulking〉『私は私の思う本当の自分にしたよっ』

〈Gen〉『30代がそれを言うのは・・・げふんげふん』

〈Soulking〉『あ?』

〈Yume〉『相変わらず仲良しだ〜w』

〈Jack〉『でもそろそろどうなったか知りたいけどねーーーーw』

〈Yukimura〉『先にやってみてもいいですか?』

〈Senkan〉『やっちゃえやっちゃえw』

〈Zero〉『フリーダムだなっ』


 で、まるでイヤイヤ期の子どものようにわざとらしくわがまま言ってきただいをバカップルチックな方法で移動させ、ようやく俺も自分の椅子に座ってみんなの会話を確認すれば、そこはもう何ともフリーダムな空気が流れ始めてていて、俺は早速仕事をするツッコミを入れる


 だがこのギルドのみんなの自由さを止めることなど、俺に出来るはずがなく——


 〈Yukimura〉はトランスポーションを使用した。

〈Yume〉『使うなら一気に・・・あ〜w』

〈Yukimura〉『あ』


 ゆめの言葉も雲散霧消。

 アイテムを使用した奴の言葉も、当然後の祭りに他ならず。


 武士よろしくな甲冑に身を包んでいた赤髪のワイルド系イケメン〈Yukimura〉が全身くまなく光に包まれ、その光が消え去ると——


〈Jack〉『おーーーーw』

〈Yume〉『あっ、かわい〜』

〈Hitotsu〉『可愛い!』

〈Daikon〉『可愛いね』

〈Soulking〉『可愛いっ』

〈Senkan〉『おー』

〈Gen〉『くそっ、見えんっw』


 変身第一号の姿は、この反応から想像つくに違いない。

 そこには、元の面影なんか欠片もない。

 可愛いらしい女の子性別チェンジ第二号が立っているのだった。

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