第532話 なりたい自分をクリエイト
〈Daikon〉『あそこの鏡置いてる露店だよ』
21時17分、チュートリアル中だったり、今船で俺たちのいる街を目指していたり、その手伝いに行くやつがいたりする中で、だいが示した露店近くには既にそこそこの人だかりが出来ていた。
そこに加わる7人のプレイヤー。
表面上は黒髪の男と女、赤髪の男、二人の男獣人、銀髪エルフの男と女の、男女比5:2。でも中の人の男女比は2:5。
つーかちょっと前までなら、このメンバーだったらゲーム内性別の男女比6:1でゆめの紅一点だったのか。まぁそもそも女キャラ使ってたのゆめとあーすしかいなかったわけだけど。
ほんと何というか、ゲームだからこそみんな性別反転させてたんだなぁ。
そんなことを思ったりしていると——
〈Soulking〉『えー!だい可愛いっ!マジ可愛い!そっくりじゃんっ』
〈Gen〉『たしかに宇都宮で見た顔と似てるな!しかし別人すぎるw』
〈Yume〉『可愛いよね〜』
〈Yukimura〉『ですね。だいさんそっくりで可愛いです』
〈Jack〉『うんうんーーーーw中の人よりちょっと幼くなってる感じがゼロやんと一緒だねーーーーw』
〈Daikon〉『に、似てるはいいけど可愛いは恥ずかしいからやめて・・・』
〈Earth〉『いいなー、あーちゃんも早く会いたい!』
〈Hitotsu〉『早くお会いしたいです><』
集合先で目にしたNew〈Daikon〉のその姿に、リダと嫁キングが感動する。
そして溢れる褒め言葉ラッシュに、振り返るとリアルでも照れている様子が見られたが、俺が追撃のように「マジで可愛い」って伝えると、照れながらも俺にはニコッと笑って「ありがと」と言ってきた。
ほんともう、天使かこいつは。
〈Yume〉『このNPCに話しかければいいの〜?』
〈Daikon〉『うん。そうするとキャラクターメイクするか聞かれて作成画面にいくから、そこでキャラメイクして変身アイテム買うだけだよ』
〈Daikon〉『作ったキャラクターの登録も出来るから、何個も変身アイテム買うんだったら登録するといいかも』
そんな天使ちゃんが優しく仲間達に変身までの流れを伝える。
まぁ俺は正直キャラの見た目を変えようとは思ってないんだけど、とりあえず流れだけでも確認してみようかと、露店の店主らしきNPCに話しかけようとしてみたら。
〈Jack〉『でも1個30万でしょーーーーwポンポン買えないよーーーーw』
〈Hitotsu〉『えっ、そんなするんですか!?』
〈Soulking〉『たっかいね!』
〈Daikon〉『でも自分で効果を切らない限り、168時間有効だし・・・1週間あればそのくらい稼げないかな』
〈Yume〉『金策のために何かしなきゃ稼げないよ〜w』
〈Gen〉『活動日にみんなで金稼ぎするのもなぁw』
〈Zero〉『うむ。自分基準で考えない方がいいってことだ』
よもやのジャックからアイテムの値段に関する声が上がって、所持金に不安を覚えるメンバーたちのいい反応がやってきた。
そんなメンバーたちにだいは反論してみるが、そこは多勢に無勢かつ、持つ者に持たざる者の気持ちは分からないとでも言うのだろうか、流石に俺もフォローできず。むしろ世の理を説いてやったわけである。
〈Yume〉『じゃ、とりあえずみんな作ってみよ〜』
〈Gen〉『おう!』
〈Soulking〉『さぁ呪いの解ける時!』
〈Yukimura〉『頑張ります』
〈Jack〉『遊びでやってみるねーーーーw』
そして改めてみんなでやってみようという流れになったので、俺もとりあえずNPCに話しかけると、なりたい自分になれる夢のアイテムがあったら欲しくないか、と何とも怪しいセールストークをされたあと、なりたい姿をイメージしろと言われ……キャラクターメイク画面に移行した。
なるほど、そういう流れなわけなのね。
これ完全に会話だけ見たらやばい薬買うところじゃんな。……あ、だから高額なのか?
とかそんなことを思いながら、いつぞや〈Nkroze〉をつくる時に長々と眺めたキャラクターメイク画面に移行する。
「あれ、ゼロやんもアイテム買うの?」
そんな俺の画面の変化に気づいたのか、背後から俺に問いかける声がやってきた。
「いや、どんなもんかなって見てみただけだよ」
「ふーん……。あ、でもせっかくだしやってみたら?」
「いや、俺は元々キャラと中身の性別合ってるし——」
「あ、そうだ。私がつくるっ」
「え」
そして問いかけてきた声の主が、今度は弾むように俺のそばにやってきて、楽しそうに俺の両肩に手を置き——
「だから、私がゼロやんを作ってあげるの」
だそうです。
だからも何も、同じこと繰り返してるだけやないかーい。なんてツッコミは抑えつつ、そもそも俺に元々見た目を変える予定はないのだよと、俺はだいに向かって首を振ろうとしたのだが——
「いや、俺は元々俺をイメージされて作られて——」
「だってそれ、昔のゼロやんじゃない」
「あ」
それは、そうだけど。
そんな言葉を飲み込んで、俺は新しい遊びを見つけた子どものような目をするだいに椅子を譲り、俺がだいの後ろに立つ。
〈Zero〉は俺に似ている。
そりゃそうだ、モデルが大学生の時の俺なのだから。
そしてそれは、俺が大学生の時に、亜衣菜が作った。
きっとここがポイントなのだろう。
亜衣菜への嫉妬……というよりも、亜衣菜が作ったなら、私も作りたい、的な。
そんな想像がついたから、俺は自分のコントローラーをだいに渡したわけである。
ま、だいが俺をどんな風に見てるのか分かりそうだし、楽しみに待ってみるか。
制作途中を見るのは楽しみを減らす行為と心得て、俺は代わりにだいの席に座り、のんびりとスマホをいじりながら、時折誰かが何か発言したりするギルドチャットを眺めるのだった。
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