第530話 感想の違いは新たな気づきのチャンスです

「結局さ、一周回ってシンプルイズベストなのよね」

「なんだかんだそれが一番原価率も高そうだしな」

「いいえ。原価率なんて気にしたらダメよ。お店の人はそれが美味しい形だと思って提供してるんだから。大事なのは美味しいかどうかだけ」

「な、なんかごめん……」

「うん、分かった?」

「うん、分かった」

「よろしい」


 同日11月14日、17時14分。

 俺たちは目的の場所にやってきて、向かい合った席で季節のフルーツを頬張っていた。

 メニューにはフルーツサンドやらフルーツパンケーキやら、青果店併設のカフェらしく美味しそうなメニューが揃っていて、俺がフルーツサンドを頂く中、素材へのこだわりを見せただいのチョイスは、他のメニューよりお高めだった季節のフルーツ盛り合わせ(大)。

 それをそれぞれいただきながら、まるで専門家のように講釈を垂れるだいだけど、そこに威厳なんかまるでない。

 なんたって、一口食べるごとに口角を上げ、目を細めて笑顔になるのを堪えられていないのだから。

 喋る時だけちょっとドヤ顔になってるけど、食べるとまた笑顔に戻る。

 見ていて飽きない、というかずっと見ていたい姿がそこにはあった。

 つまりあれだな、だいのチョイスは大正解だったってことだよな。

 

「しかしPvPはこれから調整も入るんだろうけど、武器によってだいぶ差がある感じだな」


 また一口梨を頬張ってご満悦な表情を浮かべているだいを眺めながら、俺は今日のPvPを振り返る。

 あくまで俺の感想に過ぎないが、強く見えたのはだいとロキロキがメイン武器とする短剣だ。一撃のダメージ量は高くはないが、手数が多く、ガンナーが狙われたら正直最早為す術がない。特に最終戦の時、俺はだいに集中的に狙われたんだけど、攻撃受けて照準がずらされるわ、逃げようとしても移動速度上昇されて追いつかれるわ、正直あれはリンチだった。うん、やはり移動速度を上げられるスキルや魔法がある武器は強いと思う。

 次いで可能性が高そうなのがジャックのメイス。あれはジャックだからって理由もあるのだろうが、アタッカーになってたのもすごかったし、バフをしたり回復したり、戦場を支配している感じがすごかった。もちろんプレイヤースキルに相当左右される武器だろうが、改めてその有能さを思い知らされた気持ちである。

 それ以外にも、途中ジャックがやってくれた盾も、かなりプレイヤースキルに左右される武器だろう。

 硬いのは当然として、ヘイト上昇スキルで強制的に一定時間ヘイト上昇スキルを使用したパラディンの方しか向けなくなるのは強かった。だって強制的に視点を固定するというのは、相手に死角を作ると同義である。ソロでは意味がないとしても、パーティ戦ならかなり有効なスキルだろう。

 ちなみに盾だけじゃなく、刀や格闘もそうなのだが、攻撃を防いだり捌いたりするのに成功すると、盾なら3秒ほど、刀や格闘なら2秒弱相手の視線を固定することが出来るのも判明した。この辺がきっと、PvPでのヘイトキープという仕様なんだろう。なんたってPvPだからな。モンスターと違って感情ヘイトこそあれ、システム的累積ヘイトなんて存在しないわけだから、相手は盾役を避けようと思えば避けられるのだから。

 この辺についてはリダがくればもっと盾のことが分かるだろうから、楽しみだ。

 で、今述べた短剣・メイス・盾の3つが俺の中での評価が高かった武器たちで、反面色々対処が出来そうなのが、ゆめの使ってた斧とゆきむらの刀や、途中でジャックがやった格闘と、ロキロキがやってた樫の杖。

 斧は攻撃力は高かったけど、モーションが大きめだし移動速度上昇もないから、たぶんけっこう与し易いと思う。まぁ負けたんだけどね! それでも、短剣よりは脅威はなし。

 他にも刀や格闘は、やはり盾と違って強制的にタゲを取るようなスキルに乏しく、あったとしても使用MPが多いのだ。

 攻撃力もいまいちだし、正直強くはなさそうだった。

 でも、俺がきっとやらないと思ったのは樫の杖。元々PvPのウィザードっていかほどかと思ってはいたが、攻撃魔法で遠距離から攻撃できるけど、その射程はガンナーよりも短かった。さらに装備次第では短くなるとしても、攻撃に詠唱時間も発生する。

 なんというか、隙だらけな感じが強かった。

 たぶんこれは、運営の修正が入るような気がするぞ。


 と、俺が一人脳内でこんな振り返りを浮かべていると——


「連撃ってどんな感じになるんだろうね」


 だいはだいで、違う視点を持っていたのが明らかになる発言がやってきた。


「連撃か。たしかに誰もやらなかったというか、そもそも基本が1on1だったからな。そんな隙もなかったか」

「うん。トリオ戦だと難しいけど、マッシブとか、編成によってはスタンダードなら出来る気もするよね」

「決められた方は死あるのみだろなー」

「でも同じ人が狙われてる時は他の人がフリーでしょ? 確実に一人削れるかもだけど、隙も与えちゃう。そして連撃に耐えたりすることが出来たら……って考えたら、連撃がどんな感じなんだろって思うよね」


 そしてだいの感想から話題が広がるが、言われてみればたしかに、という部分が強かった。

 これも検証が必要だろう。


「実験的に試す価値はあるか」

「うん。あとは、ジャックがすごいのかサポーターが強いのかだけど、ジャックすごかったね」

「それはマジ。元々すげーってのは分かってけど、やっぱ改めてジャックすげーよ」

「ね。それにモーニングスター持ってるのは、流石よね」

「だなー。あんなネタ装備、誰も使わんと思ってたよ」

「あれ? 知らない?」

「へ?」

「あの武器、性能の割に高いんだよ」

「え、そうなの?」

「うん。ステータスMP半減と詠唱時間2倍で、魔法性能は1つもなし。それにジャックからしたら大した金額じゃないかもしれないけど、実装された時は素材多いし高いしで、製作職人界隈だと運営の遊び心が作り出したネタ装備って言われてたんだよ。しかも高額の素材は売れ行きのいいアクセサリーによく使われるからさ、作り手が皆無だから、そもそも供給がないんだよ」

「ほー。ちなみにいくらくらいすんの?」

「バザールの購入履歴見ると、ゼロやんの所持金の半分くらいが相場だよ」

「マジ!?」

「うん。たまに出品あっても、売れないことがほとんどだし。誰が買ってるんだろうって思ってたくらいだから、私も見たのは初めてだった」

「はー……なるほど」

「でもネタ装備から一転の強さなわけでしょ? 需要上がるかもね」

「何が化けるか分からない、かー」


 同じ時間を過ごしても、思うところは人次第。

 LAで過ごしてきた時間が長いだいでもこうなのだから、きっと他のみんなも違うだろう。

 だが逆に人それぞれ思ったところが違うのは、つまり今回の拡張への期待値が高いということに他ならない。

 だって色んな可能性が散見するってことなんだから。


 つまりこれから、新たな気づきをした奴がどんどんとその頭角を現すだろう。

 サポーター一番手はジャックだったかもしれないが、俺も負けていられない。


 そう思った、けれど——


 どんなに真面目に話をしていても、フルーツを頬張るたびに笑顔を見せるだいを見れば、焦る必要はないと言われているような、そんな気にもなってくる。

 時間は過ぎるが、LA自体は、俺たちの冒険は逃げたりしない。

 とりあえず早いとこ亜衣菜も声かけて、3人での練習もしてみたい。

 

 俺は可愛い笑顔のだいとのんびりした時間を過ごしながら、そんなことを考える。


 そしてその後帰宅した後、21時の活動日タイムを迎えるまで、お風呂に入ったり軽めの夕飯を食べたり何したり、お互い中の人のヒーリングタイムを過ごし、俺たちは【Teachers】のみんなへ会いに行くのだった。

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