第527話 作戦会議にもご注意を

『よろしくお願いします』

「うん、よろしくね」

「よろしくー。ロバーが分かれて、こっちは武士、あっちはサポーター。アタッカーはそれぞれガンナーかファイター。割といい感じに分かれられたんじゃないか?」

「そうね。でもサポーターがどんな感じなのか分からないから、ジャックが一番怖いね」

「そこは警戒していこう」

『お二人はけっこう戦闘経験がお有りなんですか?』

「それほどでもないけど、街の外で1時間くらいは戦ってみたよ」

『ふむふむ』


 運命のチーム分けの結果は、もうお分かりだろう。やはりというか何というか、想いの力は強いのか、俺の出したチョキと同じ手を出したのはゆきむらのみで、戦いは一瞬で決まった。

 つまり【Teachers】初のPvPは俺・だい・ゆきむらチームVSジャック・ゆめ・ロキロキチームで開催だ。


 相手チームを分析してみれば、向こうのプレイヤースキルはうちのチームを超えるだろう。それにゆめもロキロキも近接アタッカーのため、ジャックからのバフは共通している。相性のいいメンバーが揃ってしまった、そうとも言えるのだから恐ろしい。

 そして今回の戦いでまず警戒すべきは、PvP仕様でのバフ魔法がどれだけ強いのか、ってとこだろう。

 だから怖いのはジャック。それは俺とだいの共通理解だった。

 でも雰囲気的にゆきむらはそこまで考えついていないというか、おそらく戦闘は——


「ゆきむらはさっきのが初か?」

『はい。ですので足を引っ張るかもしれません』


 だろうな。

 とは言ってもだ、さっきの戦闘は十分な活躍を見せてたし、気にすることは何もない。


「AIじゃない思考の相手と戦うのは俺らだって初めてだし、むしろ普段一緒にやってるからこそ手の内はお互い割れてるだろうからな。俺もだいも足引っ張る可能性あるから気にすんな」

「そうね。楽しんでいきましょ」

『分かりました。ありがとうございます』

「おうよ。むしろ相手はジャックにロキロキにゆめだろ? 戦い方学ぶにはもってこいだから、勉強のつもりで戦おうぜ」

『なるほど。では学ばせていただきますね』

「うん。頑張ろね」

「じゃあ作戦タイムだな」


 初めから何でも出来る奴なんていないんだから、練習して経験を積むのだ。

 そんな気持ちで俺とだいはなるべくゆきむらが気楽になるように話してみた。

 その甲斐あって、最後の「学ばせてもらう」って言ってきた時は、たぶんちょっと気を楽にしてそうな声だった。

 いや、相変わらず淡々としてるし、表情もないから本当かの自信はないけど。

 でもたぶん、それなりにゆきむらとも付き合ってきてるからな、何となくだが、合ってるとは思うよね。

 

 と、年下のゆきむら相手に年上感あることを一通り言い終えたので。

 

「まず相手の視点に立った時、誰を最初に狙ってくると思う?」


 俺は改めて、作戦についての話を始めた。


『盾を落とせば後は力押し出来るから、私ですか?』

「んー、ゆめとロキロキが前に来るけど、ジャックは後ろにいて二人の支援をするわけよね。となると前に来る二人を無視してジャックを狙える人、じゃないかしら?」


 そしてまず尋ねた俺の質問に、ゆきむらとだい、それぞれの答えがやってくる。

 ゆきむらは倒せばほぼ勝ち確になる盾役、つまりゆきむら自身だと考え、だいは前に出てこないはずのジャックを落とせる遠隔アタッカーの俺だと言う。

 もちろんそのどちらも、可能性はあるだろう。

 だが——


「たしかに先にゆきむらを倒せば、その後俺とだいを倒すのは楽そうだし、俺を倒せば奇襲的にジャックを倒す可能性が消えるから、向こうはヒーラーありのままこちらと戦えて、間違いなく押し切れるだろうな」

『どちらも可能性がある、ですか?』

「いや、でも俺はこのPvPの鍵は、機動力だと思うんだよね」

「機動力?」


 俺には違う予想があったから、二人の予想の可能性も完全には否定しなかったけれど。俺は自分の見識を話し出す。


「ああ。いかに速く動いて、こちらの有利な状況を作り出すかが鍵だと思う」

『有利な状況ですか』

「そう。人間追い込まれると思考が狭まるからな。追い込まれれば追い込まれるほど、相手の想定内の動きをしちまう確率が高まるだろう。ゆめが言ってたように、焦らず決められたプログラムで行動するAIより、焦ってくれる人間の方が行動予測しやすいってもんさ」


 話し出した俺の声を、二人はよく聞いてくれた。画面越しに二人が俺を見ているような、そんな気までしてくるほどだった。


『ふむふむ……』

「で、俺たちのパーティで有利な状況を作れる最大の切り札は」

『切り札は?』


 俺の質問に対する俺の答えは何なのか、言葉を溜めたことで、より一層二人の注目が高まった、そんな気がしたのを感じながら、俺は椅子を回して振り返る。

 そこにはリアルにじっと俺を俺を見ていただいがいて——


「私?」


 俺の視線を受けただいは、少しだけきょとんとしてから、首を傾げてそう言った。

 うわ、可愛い。

 って、違う違う。今は違う!

 と一人勝手に脳内ツッコミを入れながら、俺はそのままだいの方を向いて話を続ける。


「ああ。だいの機動力を失ったら、俺たちはもう蹂躙されるしかないだろうさ」

「でもガンナーだって射程距離を機動力に読み替えることも出来るんじゃ……」


 そんな俺の意見への反論もくるが、俺はそれに首を振る。


「エリアはコロシアムフィールドだろ? さっきの戦闘エリアって考えたら、遮蔽物もないけど、こちらが隠れるところもない。奇襲どころじゃないんだよ、あのフィールドじゃ」

「あ、なるほど……。視野に入れておけば見えてる角度で狙いも想定されちゃうのか」

「うむ。だから攻撃の要はだいになるんだよ」


 と、不思議がるだいに少し身振りも加えながら説明したのだが——


『すみません、ゼロさんの「切り札は」の後聞き逃したみたいなんですが、つまりジャックさんチームが狙ってくるのはだいさんの可能性が高いってことでいいのでしょうか?』


 その声にハッとする。

 目を合わせて話していたからついつい二人で話しているつもりになっていた。

 マイクの先にゆきむらがいるというのに。


「あっ、ごめん! そう、そういうこと!」


 なので俺は慌てて謝って、取り繕ったのだが——


『私もいます』


 その声はいつも通りの声……に一見聞こえたのだが、どこか少し違和感がある。

 いや、この流れで「私もいます」は、俺がだいに向かって話してるのが筒抜けだったってことだよな……。

 違和感の正体は、間違いなくゆきむらの不機嫌だ。その気づきに、改めて罪悪感を覚える。


『お役に立つかは分かりませんが、私もいますからね』

「うん、ごめんねゆっきー」

「ごめんな、気をつけるっ」


 そしてだい共々謝ってから、改めて俺たちは作戦会議を進めたのだが……その後もしばらく、何となくだが、ゆきむらの声がずっと拗ねているように感じたのは、気のせいだったと思いたい。

 もちろん作戦自体はしっかり聞いてくれたから、公私混同的なことはなさそうだったんだけど。


 と、そんなこともありつつ、作戦会議を終えた13時52分。


〈Zero〉『お待たせ』

〈Yume〉『またくたびれたぜ〜』

〈Loki〉『いい勝負にしましょ!』

〈Yukimura〉『いざ尋常に勝負です』

〈Daikon〉『いい試合にしようね』

〈Jack〉『おっけーーーーwじゃあ準備いいかなーーーー?』


 ギルドチャットで打ち合わせ完了を告げて、いざ準備は完了だ。


〈Zero〉『おう!やろう!w』


 そしてチームを代表して、俺がジャックにGOを出す。

 こうして俺たちは、【Teachers】初の身内対決PvPを開始するのだった。

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