第526話 文字と声はやっぱり違う
〈Loki〉『あざした!勉強なったっす!』
〈Daikon〉『お疲れ様』
〈Yukimura〉『ありがとうございました』
〈Zero〉『おつ!他の武器も面白そうだなー』
〈Yume〉『お〜いぇ〜』
ゆめから学ぶ戦闘講座兼ガラの悪いスキンヘッドとのストーリーバトルを終えて、俺たちは再び街中へと転送された。
そもそもの戦い方がまるで違うため、今回の講座はガンナーとして参考にならなかったが、ゆめの動きは違う武器で遊ぶ時には役立ちそうだった上、斧と刀がどういう仕様なのかも分かって、ほんとにかなり大収穫。
やっぱり盾役がいると戦闘が安定するなぁと、当たり前のことも再認識させられた。
それ即ち、亜衣菜をいれたトリオの時、この不足分をどう補うか、考えるべきことは多そうだ。
〈Yume〉『このコロシアムチャレンジ、みんなでやるの楽しそうだね〜』
〈Loki〉『対人戦も楽しそうっすよ!』
〈Yukimura〉『ソロは、後衛職だとどうするんですかね?』
そして俺が来月始まる大会での戦略を考え始めていると、ログ上では今ストーリーを進行させたことで新たに出来るようになったコンテンツの話が始まった。
そう、スキンヘッドが去り際にそれっぽいことを話したりもしていたが、コロシアムの受付辺りに人だかりがあり、そこにいるNPCに話しかけてみたら、新たな情報があったのだ。
まとめてみると、こんな感じ。
①コロシアムチャレンジの開放
コロシアム内で難易度レベル1〜16の敵と戦えるコンテンツ。ソロ・トリオ・
②PvPコロシアム
おそらく大会仕様の、申し込んだパーティ同士で戦えるコンテンツ。
まだ戦闘フィールドはコロシアム内だけらしいけど、順次フィールドエリアも選択可能になるらしい。負けても経験値ロスト等はなく、格ゲーとかの通信対戦みたいなコンテンツっぽい。
③ウィークリーチャレンジ
コロシアムチャレンジと似ているが、その週毎に設定された敵の撃破タイムを競うバトル。週間チャンピオンになると、プレイヤーハウスに賞状を飾れるらしい。
④PvPフリーバトル(今後実装予定)
専用サーバーに転移して、フリーバトルを申請している他のプレイヤー同士で戦うコンテンツ。②のやつの野良バトルってことだろう。とはいえ他サーバーの人とは普通にしてたら交わらないから楽しそう。
つまり③をお遊びとして、①をメインコンテンツに、②と実装されたら④で、大会に向けて練習する、ってのが今回のデータ拡張の特徴なのだろう。
特に①についてはレベル1をクリアするとソロでアクセサリー、トリオで上半身、スタンダードで下半身、マッシブで頭の譲渡不可な各部位装備がもらえるようで、上位のレベルをクリアするごとにその装備を自分仕様に鍛えていくことが出来るらしい。
このゲームの基本はキャラ強化だからな。
多くのプレイヤーがこのコンテンツに挑むのは想像ついた。
〈Loki〉『早速チャレンジのスタンダードやってみます!?』
〈Zero〉『俺はいけるぜ』
〈Daikon〉『同じく』
そして早速ロキロキから声が上がる。
スタンダードは5人必要なのだから、正直こういう機会に進めたい。
そう思ったのだが——
〈Yukimura〉『ごめんなさい。お昼ご飯作らないとなのです』
残念無念、ゆきむらから×がでる。
ってか、もうすぐ正午なのか。時間ってあっという間だな。
ゆきむらがお昼を作るとなると、きっと妹さんのためだろう。そうなると当然これは止められない。
〈Daikon〉『いってらっしゃい。後で変身アイテムのこと教えてあげるね』
〈Yukimura〉『ありがとうございます』
そして予定調和の如く
しょうがない。これは俺たちも各々昼休憩かな、そう思ったが——
〈Yume〉『でもあれだね〜、今の仕様だとボイチャのがよさそうだね〜』
〈Loki〉『推奨って言われてたっすからね!元々アタッカーは喋りづらかったっすけど、連携した攻撃のタイミングとか考えると、タイピングきついっすね』
〈Daikon〉『うん、視野も少なくなってるし、スピード感を考えると敵に狙われた時教えてあげようとしても打ってたら間に合わなそう』
〈Yume〉『だいとゼロやんは元々リアルボイチャだと思うけど、やっぱ楽〜?』
ゆめの切り出した話題はまだまだゲーム絡みだったから、俺たちのお昼はまだ先みたいだな。
そんなことを思いつつ、ゆめから質問がやってくるが……俺たちがしてるのは会話なんだけど、とツッコミたい気持ちを抑えて——
〈Zero〉『打ち合わせはログ残す方が安全だから打つけど、細かい指示とか仕掛けのタイミングは、やっぱ声のが圧倒的に早いわな』
俺は通常のチャットとボイチャ、どっちの利点も示してみた。
〈Daikon〉『そうね。でも前に亜衣菜さんとやった時は、慣れなくて聞き漏らしたりもしちゃったけど』
そんな俺の発言にだいも続く。
たしかにいつぞや帰ってきた時、だいが亜衣菜となんかやってたっけ。
〈Yume〉『ふむむ〜。やっぱ慣れもあるか〜。となると、その練習はちょっとしてみたいかも〜』
〈Loki〉『あ、いいっすね!俺はマイクセットあるっすけど、ゆめさん持ってます?』
〈Yume〉『あるよ〜。
〈Loki〉『お早いw俺もそれっす!公式がオススメしてたっすからね!』
〈Yume〉『だいも、前に使ったの同じ〜?』
〈Daikon〉『うん。私もすぐ出来るよ。けど』
すぐ出来る、けど。
あえてだいが「けど」で切ったのは、俺への配慮だろう。
俺もマイクセットは持ってるけど、お生憎様そのアプリはノータッチ。
〈Daikon〉『ちょっと教える時間が必要かも』
〈Yume〉『ゼロやんダメじゃ〜ん』
〈Loki〉『じゃあだいさんにゼロさんの指南してもらって、お昼ご飯後に再集合しましょうか!』
〈Daikon〉『私は大丈夫だよ。ゆめは?』
〈Yume〉『私も夕方くらいまでなら大丈夫〜』
〈Loki〉『むしろこの方が、ゆっきーさんも戻ってこれていいかもっすね!』
〈Daikon〉『だね』
〈Yume〉『お〜。じゃあゼロやん、ちゃんと教えてもらってね〜』
〈Zero〉『あいあい』
〈Loki〉『また後でっす!』
ということで、まるで最年長の俺が機械音痴な年寄りのような扱いを受け、一旦パーティが休憩に入る。
いや、でも流石に教えてもらえばすぐ出来ると思うんだけど……まぁ休憩も必要か。
「じゃあ、ご飯作ってくるから、自分で調べて準備してみてて」
「え、放置?」
「大人だしゆっきーと違って機械音痴でもないんだから、それくらい大丈夫でしょ?」
「いや、まぁそうなんだけど……」
何だろう、だいは俺に指南する、そういうはずじゃなかったのだろうか。
いや、まぁ別にいいんだけどさ、それくらい。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寂しく拗ねたい気持ちになりながら、俺はキッチンへ向かっただいの背中を見送って、ボイチャアプリについて調べ出すのだった。
☆
「もしもし?」
『聞こえてるよ〜』
『俺もOKっす!』
『なんだか変な感じですね』
『みんなの声知らなかったら緊張してたかも〜〜』
「声多いな」
『声だけだとゼロやんハーレムだね〜』
『たしかに〜〜』
『大丈夫っすよ! 俺男っすから!』
『皆さん楽しそうですね』
「ギルドみんなでボイチャしたら大変なことになりそうね」
「そんなんやったら、常に複数人が喋ってて、全員何もわかんなくなるぞ」
『それでもぴょんは喋ってそうだけどね〜』
『たしかにね〜〜』
昼飯を食い終わった、午後1時21分。
割と長めの休憩を取って、俺たちは再集合を果たした。さらに言えば5人だったメンバーにジャックが入ったことで、今ボイチャの練習をしている人数は6人になった。
声だけ聞くと、綺麗な声で静かに話すだいに、だいと似ているが、だい以上に抑揚少なく淡々と話すゆきむらに、参加しているメンバーの中で1番高く可愛い声のゆめに、落ち着いて優しい感じに話すジャックに、まるで声変わり前の少年……というか、男主人公を演じる女性声優みたいな声のロキロキと、女声メンバーが圧倒的に多い。
ゆめの言う通り俺たちの会話を録音して、知らない人に聞かせたら十中八九男1に女5と答えられる、そんな状況なわけである。
だが今俺は気心が知れた仲間たちとゲームをしているのだから、そんなことは気にならない。
6人集まった。そこに俺は高揚する。
それは即ち5人でのコロシアムチャレンジが出来なくなったということになるわけだが、むしろそれよりも楽しそうなことが出来る人数でもあるのだから。
「さて、じゃあチーム分けは……どうする?」
『ゼロやんたち一緒にいるってことは同じチームにしないと作戦筒抜けなっちゃうよね〜〜』
『たしかにっ! ゼロさんたちは同じチームで、残りの4人を1:3に分けるしかないっすねっ』
『じゃんけんですか?』
「でもゆっきー、みんなの手が見えないのよ?」
『むむ、たしかに……』
『ん〜、口頭自己申告か、先に打っといて、時間決めて一斉に言うとかは〜?』
「あー、口頭でちゃんと聞き取るより、タイピングしてもらった方が後出しとか目視で確認できるもんな。ゆめ案の時間決めてがいいなっ」
『ゆめ案て、ファミレスかよ〜。でも、目視確認とかゼロやん真面目だな〜』
『ゼロさんらしいっす!』
『公平さは大事ですもんね』
『あはは〜〜。ゼロやん相変わらず人気だね〜〜』
「はいはい。じゃあ、25分なったら、各自じゃんけんの手出して」
「出すというか、打って、よね」
『だいもこまか〜い』
『グーパーっすか?勝ち負けっすか?』
「じゃあ、勝ったやつ!」
『なるほど、ゼロさんたちと組むにはみなさんに勝つ必要が』
『ゆっきーにとったら勝利のご褒美か〜』
「ええいっ。じゃあ負けたやつがこっち!」
「私たちと組むのは罰ゲームなの?」
「ええいっ、お前が言ってくるんかい! つーかどっちでもいいんだよそこはっ」
『じゃあゼロやんと同じ手を出した人でいいんじゃない〜〜?』
「それだっ」
『なるほど。ゼロさんの心を読めばいいんですね』
『ゆっきーさんなら出来そうっすね!』
『頑張れゆっき〜』
「頑張ってね」
わくわくする。
何ともふざけた会話もあるが、俺はそんな気持ちを止められず、急かすように話の流れを進めていた。
コロシアムチャレンジは出来なくなった代わりに、6人いるから何が出来るのか。
そう、3対3のPvPに決まってる。
ゲームとして自分を強くするのなら、ここは3人パーティを2つ作って、コロシアムチャレンジのトリオを進めるべきかもしれないが、PvPの大会は来月、すぐに始まってしまうのだ。
それならばそこで勝ちきるために、今は情報を集めたい。それも、サイトからの情報じゃなく、自分の身で体験した情報を。
だからこそ俺は急かすように、みんなにチーム分けの提案をしたわけである。
現在時刻は13時24分50秒。
チームの決め方は、俺と同じ手を
さてじゃあ俺は何を出そうかな……そう考えてタタタッとキーボードを打ち、準備は完了。
さぁ、俺と組むのは誰なのか。
進む秒針を眺めながら、俺は長く細い針が真上を向いたその瞬間、力強くエンターを押すのだった。
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