第525話 ポイントはきっとガード力

〈Zero〉『いきなりこの視点か』

〈Loki〉『少し進むと敵がいるっす!』

〈Yume〉『とりあえずわたしだけ突っ込むね〜』

〈Yukimura〉『見てますね』

〈Daikon〉『気をつけてね』


 明るかった街の中、コロシアムの前にいた俺たちの画面が切り替わり、〈Zero〉の背中が近くなる。

 それと同時に流れる青い文字パーティチャット

 俺たちはコロシアムの中に入ったということなのだろう、どこか薄暗い通路のようなところに移動させられ、進行方向正面には明るく開けたエリアが見えた。

 

 ちなみなんでコロシアムの中にやってきているのかというと、この街最強の剣闘士が魔王の情報を持っていて、そいつから話を聞くためらしい。で、そいつと会う為にはコロシアムで武を示さなければならない。だから俺たちは、コロシアムで戦うのだという。

 まぁ簡単に言うとこんな流れのストーリーだ。

 久々に魔王なんてワードが出てきたけど、コロシアムの中にいる剣闘士がなぜ魔王を知ってるのか、そこはたぶんまだツッコんじゃいけないのだろう。


〈Yume〉『あ、ちょっと前出るとイベントね』


 そして先にゆめが少し前に出たところで、こんな指示があったので、俺たちはみんな揃って前に出る。

 そのイベントではこれから戦うのだろう、やたらと体格のいいスキンヘッドの男が汚い言葉で煽り散らしてくるという光景が見られた。

 なるほど、ものすごいかませ犬感あるのに、ロキロキ負けちゃったのか。

 ……これに負けたら割と気分下がるだろうなぁ。


〈Zero〉『◯』

〈Loki〉『終わったす!』

〈Daikon〉『イベントOK』


 そんなイベントを見終わった俺が合図を出すと、続々と続く合図たち。だがゆきむらは少し遅れたようで——


〈Daikon〉『ゆっきー大丈夫?』


 と、優しいだいお姉ちゃんが心配したところ——


〈Yukimura〉『はい。そういえば聞くタイミングを逃してたのですが』


 時間制限のあるバトルエリアで今更やめてくれよ、的な発言が現れた。


〈Yume〉『なに〜?』


 でもゆきむらだしな。その共通認識があるからだろう、誰も責めることなく、今回の戦闘の主役であるゆめが問い返すと——


〈Yukimura〉『だいさん、いつの間に女の子になったんですか?』


っっっ!!\(^o^)/


 そのログに俺は耐えられず噴き出して——


〈Yume〉『今それか〜いwww』

〈Loki〉『言ってなかったっすね!!www』

〈Daikon〉『後で話すね』


 姿は見えなくても俺同様ゆめとロキロキが笑い、背後のだいが苦笑いしているのが想像ついた。

 でもほんと、「今じゃない」がこんなに適切な場面もなかなかないだろうな!

 天然恐るべし。


「さすがゆきむらど天然だなっ」

「ね」

「でも、ゆめには話してたんだ?」

「うん。ゆめとぴょんと亜衣菜さんには拡張きたらやってみたいって、元々話してた」

「ほー」


 そんなゆきむらの天然に緊張感が薄れて、これからゆめの戦いっぷりを見学しなければならないと分かりつつ、俺は少し気を抜いてだいに話しかけた。どうやらやはり仲良しメンバー内では既に情報共有があったらしい。

 ちなみにジャックとロキロキにはゆめが来る前の会話の中で伝えている。

 ただ、二人の反応は「背の高いキャラにしたら視点高くなって戦いやすそうだよね」とか「ジャックさんはエルフだから必要なさそうっすね!」とか「小人族不利だったら考えようかな……」とか、なんかもう……な反応だらけだった。

 ほんともう、流石廃ゲーマー。俺がそう思ったのは言うまでもない。


「ほら、ちゃんと真っ直ぐ走って」

「あ、ああ。わりわり」


 とまぁそんなことはさておいて、進行方向に走ること15秒ほど、俺たちは足元が土っぽいコロシアムのフィールド内に足を踏み入れたところで止まり、ゆめだけが足を止めずに走っていく。

 円形のフィールドの外側には観客席が階段状に作られていて、世界史の資料集なんかで見られるリアルコロシアムが忠実に再現されていた。

 正直ここで5対1とか、ゲームながら卑怯な気がしちゃうよね。

 だからこそゆめだけが突っ込んでいくのが正しく見えたりもするんだけど。


〈Yume〉『ピンチなったらガンナーくんサポートよろ〜』

〈Zero〉『了解。でも俺がタゲ取ったら、ゆきむらよろ!』

〈Yukimura〉『はい。この命に代えても』

〈Loki〉『頼もしい!w』

〈Zero〉『いや、重いわ!w』


 そしてそして、戦闘開始直前までこんなやりとりが行われ、うちもレッピーのギルド【Bonjinkai】と変わんねーなと思ったり。

 まぁこれが身内で遊ぶ醍醐味なんだけど。


 そんなことを思いつつ、ゆめの攻撃が始まるとみんな自然と沈黙し——


「あの防御姿勢って、ロバーもあんの?」

「うん。ガンナーはないの?」

「うむ。ない」


 右に左に流れるように動いたと思ったら、時折姿勢低く斧を正面に構えて防御する。そしてさっき聞いた通り、たまにスキルも混ぜながら2発ずつコンスタントに攻撃を成功させていく。

 その戦いっぷりは、派手さはないが……見事だった。

 ゆめは攻撃を成功させるけど、敵は移動するゆめに攻撃を当てられなかったり防御されたり、中の人が生身の人間ならそれはもうストレスだったろう。

 そんな攻防が8分ほど続き、相手のHPを5割ほど削った時、ゆめのHPは残り7割だった。

 HPバーの割合的にみたら大したことないように思えるが、そもそものHP量の桁が違うのだ。現在のゆめのHP最大値は7624。だがMAX99999ダメージを与えられるプレイヤーとモンスターで、その最大HP量が同じなわけがない。プレイヤーとモンスターでは、HPの桁が1つ2つ違うのは当たり前。ボス級なんか3つ違うことすらザラなのだ。

 つまりそんなHP量の相手の半分ほどを削りながら、自分はまだ5000もHPを残している。

 相手の攻撃の直撃は1度も受けていないのだから、ホントもう見事としか言いようがないだろう。

 残り時間もあと20分あるし、このまま一人で倒しそうだなとか、そんなことを思っていると。


〈Yume〉『たすけて〜』


 超順調そうな戦いの中、不意に現れたゆめのログ。

 その声に俺は返事をする間もなく空砲を1回使用した直後、当然これだけじゃヘイトが動かないのを確認すると、続いてスナイパーショットを発動させ、ちょうどゆめに攻撃を防御されたばかりの相手の隙を突いてヘッドショットを炸裂させた。そしてスキル硬直が解けるや即座に2回目の空砲をかまし、その後もゆめを狙い続ける相手にヘッドショットを連発したり空砲をいれたり、自身のヘイトを高めていくと——

 

「さすが」

「ゆめがいい姿勢で止めてくれたおかげだよ」


 攻撃開始から20秒ほどで、敵が俺の方に走りだすと、背後から淡々とした声音でお褒めの言葉がやってきた。

 一人で半分削ってたわけだからな、ゆめのヘイト量が相当だったのは、想像するに難くない。


〈Yume〉『ありがと〜。人数多いとHP多いね〜。ソロならもう倒してたはずなのに』

〈Yume〉『疲れたからパス^^』

〈Zero〉『そういうことかい!w』

〈Yukimura〉『ゼロさん私の後ろに』

〈Zero〉『さんきゅ!』


 そしてやはりピンチになんかなってなかったゆめが助けを求めた理由を聞き、それに軽くツッコミつつ、俺はゆきむらの背後に移動する。

 それに合わせ、素早く二人のロバーが敵の背後を取りに行き——


〈Zero〉『援護する!』

〈Yukimura〉『いきます』


 俺は新たに組み込んだスキル、弾幕を発動。これは使用者の近くにいる味方の防御力を上昇させるスキルで、ゆきむらの防御力が上昇する。

 そして俺のスキル使用の直後、ゆきむらは俺の方に走ってくる敵が射程圏内に入った直後、その美しい白刃を高く掲げてみせた。

 そして燃えるように赤い髪の青年が、青白く光輝く刃を向かってくる敵に真っ直ぐ振り下ろす——すると、振り下ろされた刀に続くように、無数の刀が空中に出現し、一振り目の刀に続いて続々と敵に振り下ろされていき——


〈Loki〉『大技っすね!カッコいい!』

〈Yukimura〉『この命に代えてもと言いましたから』

〈Yume〉『ゼロ姫だね〜w』

〈Zero〉『やめい!』


 神々しくすらあったゆきむらのスキルの発動にみんなが歓声を上げる。

 ちなみに今ゆきむらが発動したのはキングサウルスがドロップする刀である天羽々斬あめのはばきりの固有スキル夢幻の太刀。ダメージは見た目ほどではないが、攻撃を当てた相手からのヘイトを急上昇させるスキルで、アタッカー武士では使わないが、盾役の武士としてはかなり使い勝手のいいスキルである。

 とはいえ他の武器と同様消費MPは200と、サドンリーデスの350には至らないがかなり膨大なのもまた事実で、連発には向いてない。

 でもその神々しいエフェクトはキングサウルスのドロップする武器の固有スキルの中でもかなり人気があり、このスキルを使いたいがために刀を取りに行く奴もいるほどなのだ。


 とまぁ少し説明が長引いたが、つまり今ゆきむらが使ったスキルにより、俺がゆめから奪ったヘイトが今度はゆきむらに移り——


〈Daikon〉『いく』

〈Loki〉『っす!』


 ヘイトの不安がなくなったからか、だいとロキロキが示し合わせたように分身し、その刃を敵に向かって突き立てた。


「すげぇな」

〈Yume〉『豪華〜』


 同時に発動したのは、現状最強の短剣であるアゾットの超ダメージ固有スキルカラドリウスエッジ×2で、〈Daikon〉と〈Loki〉が分身して敵を囲む光景は、あまりにも多対一過ぎて、最早弱いものいじめにしか見えなかった。

 しかも俺の攻撃とゆきむらのスキルで45%ほどまで減っていたHPが、気づけば30%まで減っている。

 ロバーの二人が相当なダメージを与えたのは明白なのに、それでもヘイトはゆきむらから動かない。さすが夢幻の太刀。

 そんな派手な攻撃を目にしても、淡々と目の前で敵の攻撃に合わせて刀を繰り出し捌き続けるゆきむらの背中に、俺は胸の内で賞賛を送る。

 

〈Yume〉『隙だらけだから、わたしもいこ〜っと』


 そして一気呵成の攻撃を見てか、休憩していたはずのゆめも敵の背後にやってきて——


 右から、左から、そして高く跳躍し、頭上から。

 その細身の身体で、燃えるような色合いの装飾が施された明らかに重そうな巨大な斧を軽々振り回し、トドメとばかりに敵の身体の中心に、鋭い一線が描かれる。

 何気にゆめが使うのは初めて見た気がするが、キングサウルスがドロップする斧、グラムロックの固有スキル天地開闢だ。

 そのダメージ量は凄まじく、敵のHPが一気に10%強ほど削られて、残り2割を切るまで減った。

 流石斧、ダメージ量No.1の武器である。

 この展開になるならば、俺も流れに乗るしかあるまいて。

 そう思って俺はサドンリーデスを発動させ、愛銃に闇のエフェクトを纏わせる。

 そしてゆきむらが正面でターゲットを固定してくれているのに感謝して、豆粒みたいな照準を合わせ……Bang!!

 発射の直後、慣れ親しんだ闇の奔流が敵に向かって一直線。

 その一撃は、ゆめの攻撃と同等量のHPを削り取った。

 しかしそれでもタゲは動かない。

 ゆきむらの技量と夢幻の太刀、恐るべし。


 だが、こうなってしまえばあとはもう、スキンヘッドをタコ殴り。これ完全に、イジメだな。

 俺たちは敵の残り10%弱のHPを、思い思いの攻撃スキルで削り切り、見事ストーリーバトルに勝利したのだった。

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