第524話 戦い方は人それぞれ
「ちょっと強そうになってきたね」
「だな。1回やってみるか」
「うん。基本私がマラソンがいいかな?」
「おう。初手だけ俺が釣るから、向かってくる途中で攻撃よろしく」
「了解」
だいとエリア北側に向かって進むこと5分ほど、ゲーム内で少しずつ日が落ちていく光景を見ながら、俺たちはぼちぼち周囲の敵がソロじゃ勝てなさそうなエリアまで進出した。
少し離れたところでは5人のパーティやら3人のパーティで戦っている人たちが散見されたが、その様子を見るにやはり構成は従来のセオリー通り、盾・
そりゃまぁ、それが最も安全策よな。
むしろ二人編成なんて、俺ら以外いないのでは?
周囲のパーティにそんなことも思わなくはないが、とりあえず新天地最初の冒険だ。だいと二人というのに意味がある。
この可愛い〈Daikon〉と最初の冒険なわけだしな。
あ、そう考えると今すげー楽しいかも。
「じゃ、あの
「OK」
勝っても負けても泣いても笑っても、だいならなんでも受け入れてくれる。
だってそれが、愛ってもんだろ?
あー、だいに背中を向けていてよかった。
たぶん俺今、ニヤけてるから。
勝手に考えて事して勝手にニヤけて、完全に変な奴じゃんな。
まぁそれも笑ってくれるだろうけど、流石にちょっと、恥ずかしいじゃん?
とか何とか思いながら、手を動かして照準をモンスターの頭部らへんに合わせて……
その音ともにモンスターがこちらに向かい出す。大技でも使わないと一人では勝てない相手も、だいとなら——
☆
〈Zero〉『奥地の方は盾かヒーラーなしじゃ無理ゲーだった!』
〈Jack〉『そりゃそうだよーーーーw』
〈Loki〉『LACの推奨はマップ中央部で盾役必須、北端は5人以上推奨っすもんw』
〈Daikon〉『もう情報上がってるんだ』
〈Jack〉『情報の集約とHP更新担当だから、ほとんど自分で外出てないのに知識ばっか集まってくるってくもんが愚痴ってるよーーーーw』
〈Loki〉『情報はくもんさんのおかげなんすね・・・!あざす!手伝えることあれば><』
〈Zero〉『いい奴かよw』
〈Zero〉『でも情報集まってきたってことは、ストーリーとかの進行もある程度わかってるのか?』
〈Daikon〉『街の中央のコロシアムから始まるよ』
〈Zero〉『ほうほう』
〈Yukimura〉『それなら近く通るだけで始まりますよ』
〈Loki〉『そっすねw街歩き回ってたら起きましたもん』
〈Zero〉『えwあー、そっか。俺全然歩いてねーからか。うし、とりあえず始めてくるか』
〈Yukimura〉『あ、では最初のストーリーバトル一緒にやりませんか?』
〈Yukimura〉『まもなくチュートリアルが終わりますので』
〈Loki〉『俺も便乗していいっすか!?最初のストーリーバトルのくせに、ソロじゃ勝てなかったっすw』
〈Zero〉『マジかよ』
〈Yume〉『ゆめちゃん参上!』
〈Yume〉『わたしはそれ、ソロで突破したぜぃ』
〈Loki〉『こんちわっす!ってマジすか!?』
〈Jack〉『ゆめやっほーーーーw敵のアルゴリズム変わってるのに、すごいねーーーーw』
〈Daikon〉『こんにちは』
〈Yukimura〉『こんにちは』
〈Zero〉『うぃー。しかしロキロキが勝ててないのソロ突破とは、すげーな』
〈Yume〉『今回の仕様、割と得意かも☆』
〈Zero〉『格ゲーとは違うと思うんだけどw』
〈Jack〉『でも今までより瞬発力と反射神経求められるからねーーーー前までよりは似てるかもーーーー』
〈Zero〉『ふむ』
……あ、長々とみんなと話し込んでて戦闘大丈夫なのかって?
ふっふっふ、そんなのもちろん大丈夫。
なぜならあの後、猪型のモンスターを気合で撃破し、しばらく同じモンスター相手に練習を重ねてみてちょっと自信が強まったから、俺たちはさらに奥地に進んでみたのだ。そして先にいた狼型のモンスターに手を出してみたら……遠吠えとかいうスキルで仲間を呼ばれて複数戦を余儀なくされ、それはもうあっさりと敗北を喫したってわけである。
ほんとマジ、おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、とかそんなレベルであっさりやられたからね。
可愛い女の子を守るために身を挺するとか、そんなの全く持って無理だった。そもそも近接アタッカーの中でも一撃の間隔が早い短剣を使われるとさ、ガンナーと攻撃スパンが全然違うのよ。
俺が2発撃つ間に短剣は5回は攻撃してるからね。しかもその与ダメは、俺が
そりゃもうガンガンヘイトはだいに取られたわけですよ。
で、だいが一生懸命敵を倒そうとする中で、俺がだいの背後からだいに襲い掛かろうとしてる奴に空砲をかましたら、タゲ取れたけど足の速い狼の攻撃をしのぎ切れず——あぼん。
で、当然残されただいも、死。
つまりまぁ、格上の複数相手はノー盾・ノーヒーラーじゃ無理ゲーだ。
分かってたけど、これも収穫ということで。
ってことで、つまり俺たちは街に死に戻りしたわけなのだよ。
で、せっかく戻ってしまったのならと、俺とだいはみんなと話しながら、プレイヤーハウスで設定するスキルの再検討を行っていたってわけである。
いやほんと、あの狼強かったなー。
〈Zero〉『ちょっとストーリーイベント起こしてくるから、だいからパーティ誘ってもらっといて』
〈Daikon〉『了解』
〈Loki〉『待ってるっす!w』
〈Yukimura〉『お待ちしてます』
〈Jack〉『ヒーラーなしじゃーーーーんwww』
〈Yume〉『わたしもいこか?^^』
〈Zero〉『ノーヒーラーに変わりなし!w』
〈Daikon〉『でも、ソロで倒せたっていうゆめが手伝ってくれるのは頼もしいかも』
〈Loki〉『むしろソロで倒すとこ見たいくらいっすよ!w』
〈Yume〉『割と簡単だよ〜。自分がこう動いたら、普通なら相手はこう動くよな〜、ってのを予測して動けば攻撃防げるじゃん?』
〈Zero〉『いや、でも相手はAIだろ?普通って・・・』
〈Yume〉『むしろAIだから普通が読みやすいんじゃん?』
〈Yume〉『大多数がこうするだろうって思考に設定されてるだろうからさ〜』
〈Yume〉『でもモンスター固有のギミックもあるだろうから、対人のが読みやすいと思うけどね〜』
〈Daikon〉『すごいね』
〈Jack〉『何手先くらい考えてるのーーーー?w』
〈Yume〉『そだね〜』
〈Yume〉『これからする攻撃の次の攻撃もしやすいように動くだけだよ〜』
〈Yukimura〉『つまり・・・?』
〈Yume〉『んとね〜、わたしがAパターンで攻撃したら、相手が対Aパターンで動くとするじゃん?』
〈Yukimura〉『はい』
〈Yume〉『それを見越して、Aパターンは対Aパターンを想定して攻撃するの〜』
〈Yume〉『そしたらすぐ次のBパターンで攻撃出来るじゃん?』
〈Yume〉『これで2回攻撃成功だよ〜』
〈Yukimura〉『ふむむ』
〈Yume〉『ちなみにその次の攻撃まで考えるとAパターンまで遅れちゃうから、考えるのは対Bパターンの相手の動きまでって感じかな〜』
〈Yume〉『こんな感じ〜』
〈Yukimura〉『ふむふむ』
〈Loki〉『相手の動きを二段階想定してるってことっすか!すごいっすね!』
〈Yume〉『なんとなくだよ〜?』
〈Yukimura〉『予測、ですね。意識してみます』
〈Daikon〉『何となく分かるかも。私は一段階目が成功したらより、失敗した時を考えがちだけど』
〈Zero〉『性格でんなw』
とまぁこんな感じで、俺がストーリーイベントを起こしている間に、俺のモニターは
でもたしかに9月にゆめと格ゲーで勝負した時、どう仕掛けようとしてもまるでゆめの手のひらの上って感じを覚えさせられたから、それがゆめの思考回路なのだというのは実感出来た。
とは言え、なんだけどね。
ログで読んで理解することは出来ても、それを実行するのは違う次元の話だろう。
俺のように遠くから仕掛けるガンナーならばまだ容易くても、近接アタッカーの戦闘は目の前の一瞬一瞬で行われるのだから。
……これは今回のデータ拡張、ゆめにとってはかなりの追い風なのかもな。
「ストーリー進んだ?」
「あ、おう。話終わったから、とりあえずコロシアムの中で戦えばいんだよな?」
「そうみたい」
俺がゆめのログから今回の戦い方について考えていると、不意に背後から聞こえただいの声。
その声が俺を現実に引き戻し、俺もいよいよストーリー進行出来る状態にあることを思い出させてくれた。
〈Zero〉『お待たせ。いつでもOKだぞ』
〈Yukimura〉『おかえりなさい』
〈Loki〉『じゃあゆめさんにお手本見させてもらいましょ!』
〈Yume〉『この人数だし、HP増えてるから途中からはみんなも入ってね〜?』
〈Daikon〉『もちろん。任せて』
〈Zero〉『じゃ、いきますか!』
そして、いつの間にかパーティリーダーがだいから返却されていたようだが、俺は新たに5人になったパーティで、ストーリーバトルの開始を申請する。
何とも脳筋パーティなのは変わらないが、先駆者のゆめがいて、盾役のゆきむらもいる。これはたしかな強みだろう。
5人で奏でる戦いはどんなものになるのか、画面切り替えのため一度暗転したモニターを眺めながら、俺は小さなワクワクを覚えるのだった。
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