第521話 説明書をちゃんと読む派の二人

「エリアチェンジはあそこっぽいけど、人だかりね」

「あー、人だかりってことは、あそこがストーリーか何かしらのクエストの起点って可能性もあるかもな」

「そうかも」

「でもとりあえず外出たいんだけど、どうすっかなー」


 可愛い女の子New〈Daikon〉と一緒に歩くだけで、何となく楽しい気持ちになるなぁとか考えながら、俺とだいは地図上では街の北端にある、平原エリアへと至るはずの門へとやってきた。

 そして何故かそこにはぱっと見数十人のプレイヤーがたむろしており、果たして何事かと思ったのだが……その辺にちょうど見知った顔を見つけたので——


「あ、レッピーいるわ。ちょっと聞いてみる」

「了解」


 だいに一声かけてから、俺は新たなだいの紹介ついでにメッセージかけた作成した


〈Zero〉>〈Reppy〉『ここで何やってんの?』


 きっとこいつならすぐに返事があるだろう、そう思ったんだけど……。


〈Zero〉>〈Reppy〉『あれ?いない?』


 なかなか返事がやってこない。

 そして最初のメッセージから20秒ちょっと待たされて、寝落ちしたのかと思い始めた頃。


〈Reppy〉>〈Zero〉『チュート』

〈Reppy〉>〈Zero〉『外出る』

〈Reppy〉>〈Zero〉『必要』

〈Zero〉>〈Reppy〉『マジか、さんきゅ!』


 レッピーからバラバラと返ってきたのは、全部短文というか、単語レベルのメッセージたちだった。

 だがそこには普段のレッピーの言葉によく生えている棘が存在しない。

 つまり忙しいながらに返事をしてくれた、そういうことだろう。

 そして長い付き合いのこいつが何を伝えてくれたのか、その言葉を繋ぎ合わせ、考える。


 ぽく

  ぽく

   ぽく

    ちーん。


 そういうことか!


 俺の分析結果として、外に出るためにはここでチュートリアルを受けなければならないということだろう。

 そしてレッピー自身も現在チュートリアル中、ということか。

 しかし何の? そう考えて、すぐに結論に至った。

 外に出てやることといったら、戦闘だ。

 つまり新システムによる戦闘のチュートリアルということだろう。そしてそれはレッピーの反応からして、平行してのチャットがしづらい、ということも示している。

 でも、チュートリアル中ってことはキャラはここにいるように見えても実際は違うエリアに飛ばされているのだろうから、こいつにだいの変身姿は見てもらえてないようで、少し残念。

 まぁでもレッピーはいつでも会える奴だからな。

 となれば、俺とだいも早速だ。


「ここでチュートリアルやらないと、外出れないっぽい」

「ふむふむ。じゃあやってみよ」

「おう」


 ということで俺とだいも前に出て、人だかりの中心にいた〈System Expositor〉という、何ともまぁそのまんまな名前のNPCに話しかけた。


〈System Expositor〉『ようこそ武の都へ! こちらではこの先のパターノヴァ平原で生き抜くための戦い方をレクチャーしています』

〈System Expositor〉『街の外は危険がいっぱいです。このレクチャー完了後、外出許可証が発行されますので、外に出るには必ずこのレクチャーを受けてくださいね』


 そして何ともまぁ無味乾燥というか、もうちょっと世界観意識して喋らせてもいいんじゃないの? と思うようなことを言われた末、最後にレクチャーを開始するかのYES/NOが出てきたので、俺はマウスを動かしてカチッとYESを左クリック。

 その直後だいの方からもカチっと聞こえてきたので、うん、進み具合は同じみたいだな。


〈System Expositor〉『次に使用する武器を選択してください。なお、ここで選択した武器は、プレイヤーハウスで変更が可能です』


「武器を選ぶのね」

「ふむ……選択した武器は、プレイヤーハウスで変更可能ですってことは……」

「裏読みすれば、プレイヤーハウス以外では変更出来ないってことよね」

「だよなぁ……。いや、マジかよ……今までとマジで話変わってくるじゃん」

「だね」


 ご存知の通り、武器の変更はこれまでプレイヤーのタイミングでいつでもどこでも可能だった。もちろんモンスターがいるエリアでの変更は、3分間スキルや魔法が使えなくなるという制約はあったが、各種コンテンツにおいてボス戦前までの道中とボス戦で武器を変えるというのは、割とメジャーな攻略法だったのだ。

 それが今回の仕様では認められなくなるということ。

 ううむ、盾とかも最近鍛えてたし、緊急マクロも作ったのに、全部無駄か……。

 そんなことも考えてしまったが、ここでうだうだしてもしょうがない。俺はズラッと並んだ所有武器の中から、愛銃フラガラッハを選択した。

 すると——


〈System Expositor〉『次に使用するスキル・魔法を選択してください。スキル・魔法は6種類まで選択できます。なお、ここで選択したスキルは、プレイヤーハウスで変更が可能です』


「マジかよっ」

「6種類って少ないね……」

「いや、これは悩むな。……そうか、人だかりなってんのはそういうことか?」

「かも。とりあえず、大技は1つくらいにして、汎用的に使えるのがいいよね」

「だろうな。しかしサポーターとか、これ相当きつくねーか?」

「どういうパーティを支援するかでセット変わりそうね」

「うむ」


 次の選択はスキルと魔法、もちろん銃装備には魔法はないのでスキルを選ぶしかないのだが、そこにはずらっと銃のスキルが並んでいて、俺は悩みに悩みとりあえず汎用的なスキルをチョイスしてみた。

 その内容は

1.空砲

 言わずと知れたヘイト上昇スキルだが、モンスター相手ではなくPvPで役に立つ気がする。消費MPも5とほぼないに等しいのが素敵。

2.乱れ撃ち

 ご存知銃スキル唯一の範囲攻撃スキル。対人戦だと使わないかもだが、モンスター相手なら使えるだろう。

3.サドンリーデス

 言わずもがなフラガラッハ専用の最強スキル。消費MPはデカいし命中率は低いし、使い勝手は悪いかもだが当たればデカいと思う。

4.ヘヴィショット

 移動阻害系デバフ攻撃スキル。対人戦に移動阻害が役に立ちそう。

5.スナイパーショット

 確定クリティカルでコスパ良くダメージを与えられるスキル。ただ仕様次第では強スキルに置き換える可能性もある。

6.リベレーションショット

 闇属性ダメージスキルで、銃スキル唯一の魔法ダメージを与える必中スキル。魔法攻撃力を上げる装備をすることで飛躍的にダメージが上がるが、装備がなければ消費MPに対して与ダメが雀の涙という、ガンナーガチ勢しかあまり使うことはないスキル。仕様次第では変更の可能性あり。

 ってチョイスにしてみた。

 この辺はガンナーかぶりするだろう亜衣菜との棲み分けも出てくるだろうが、まずは色々試してみないと分かんないからな。

 とりあえず今日はこれでいこう。


「だいは決まったか?」

「トリックって使うかな?」

「あー……対人戦の効果分かんないけど、攻撃スキルよりそういうの使いこなすのが技ありって気はするよな」

「そっか。じゃあトリック入れて……決まり」

「ちなみに何にしたの?」

「んっとね——」


 そしてだいに確認したところ、だいがチョイスしたのは

1.隠密

 姿を隠すスキル。対人戦で面白そう。

2.フェアリーダンス

 自身の回避率と移動速度上昇スキル。そういえばこんなスキルもあったんだなってレベルだが、移動速度上昇は面白そう。

3.カラドリウスエッジ

 最強スキル。分かる。

4.ハリケーンエッジ

 範囲攻撃。入れるよね。

5.ガードレススティング

 防御ダウン攻撃。状態異常は大事だね。

6.トリック

 ご存知ヘイト奪取スキル。PvPでの効能が楽しみ。

 ってことだった。

 俺よりダメージ与えるのが目的のスキルが少ないけど、カラドリウスエッジはサドンリーデスより当てやすいし、俺が削ってだいがトドメを刺す戦法もありだろう。

 まぁ隠密入れたなら背後からの攻撃にボーナスがつくシャドウスタッブとかあってもいいかもだけど、そこら辺はこれから相談していこう。

 ということで、これでスキル選択が終わり。

 さぁ次はなんだ?

 そう思って俺は〈System Expositor〉にスキル決定を伝えると——


〈System Expositor〉『選択したスキルを使用する際には以下のマクロを設定してください』


 って感じに戦闘中のスキルの使い方が指示されて、マクロを作るよう促された。

 そこに今までのイメージで防具やらアクセサリーの変更マクロも合わせて組み込んだりしたので、その作成に結局10分超かかったが、それはどうやらだいも同じだったようだ。

 そんな戦闘のための事前準備の末、チュートリアル開始から既に30分が経っている。

 いやぁ、そりゃ人だかりになるはずだよな。

 この時間に来た人なんか、しっかり装備やらマクロやらを考える人たちだろうし。

 でもまぁ流石に準備はこんなもんかな?


 そんな気がしてきた頃、ついに——


〈System Expositor〉『それでは練習用のバトルフィールドへご案内致します。こちらのエリアではHPが0になっても自動蘇生され、経験値ロストもありませんのでご安心ください。なお、途中でチュートリアルを終了したい場合は、メニューにリタイアの選択がありますので、そちらをお選びください。ただし、リタイアした場合外出許可証はお渡し出来ませんのでご注意ください』

〈System Expositor〉『また、パーティを組まれている場合はパーティが解除されます。ご注意ください』

〈System Expositor〉『それではエリア転送を行います。よろしいですか?』


 長い説明の末、エリア転送の確認が現れる。


「パーティ解除はしょうがないな。じゃあ、終わったらどんな感じだったか報告し合おうぜ」

「んー、同時にやらなくても、私がゼロやんの見て、ゼロやんが私の画面見てもいいんじゃない?」

「いやいや、初挑戦ってのは、一生に一回しか出来ないんだぞ? まっさらな気持ちでやりたくないか?」

「そっか、そうだね。じゃあ後で感想言うね」

「おう! 色々試してこようなっ」

「了解」


 そしてだいとお互いの健闘を祈り合い——


 画面右下のパーティ表示がソロに変更された直後、俺の画面が新たなエリアへ移動するべく、一度光った後、暗転し……〈Zero〉は青々とした草が生い茂る草原の上に立っているのだった。

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