第520話 男子、三日会わざれば刮目して見よ……いや、三日どころじゃない!

 振り返り慌てる俺に、だいが悪戯っぽく笑ってみせる。


「どう?」

「え、いや、え!? マジかっ」


 画面の中のキャラクターが一瞬発光し、完全なる光に包まれその姿が見えなくなった直後、そこにいたのは——


「似てる?」

「え、あ——」


 「似てる」、そう言いかけた俺は、慌てて自分の口を閉じ、バッとPCの方に振り返って〈Zero〉の視線で目の前に立つ〈Daikon〉を確認した。

 これが間違い探しなら、最早それはレベル1かレベルMAXのどちらかだ。その違いは誰の目にも明らかだが、もし全ての間違いを答えよとか言われたら、途端に問題レベルはMAXになるだろう。だって、無限に答えられそうなほどに、俺の記憶の〈Daikon〉と今の〈Daikon〉が別人なのだから。


 よ、よし。落ち着いてまず変わらない点を確認しよう。

 頭の数、腕の数、手の数……ええい! 無駄な確認すんな俺!

 

 そんな〈Daikon〉の姿に頭の中がバグってきそうなので、改めに改めて、俺は目の前にいる〈Daikon〉を観察する。

 種族は変わりなくヒュームだが、今まで俺の〈Zero〉よりも少し大きかったその身長が、明らかに小さくなっている。

 そして某キャラクターよろしくツンツンだった金髪が、大人しく清楚なセミロングの黒髪ストレートになっていて、今までのクール系イケメンフェイスは、やや口角の上がった可愛らしいキュートなお顔に変化していて……何よりの変化は、最早お分かりだろうが、そう、性別だ。

 初めて会った時からずっと、中身だいが女でも〈Daikon〉は男だったけど、今は〈Daikon〉も性別女に変化しているわけである。

 今の〈Daikon〉は前髪が額を隠すサラサラの黒髪ストレートヘアーのため、中の人リアルだいよりも幼く見えるけど、だいのJK時代と言われたら信じられるくらいに本人とそっくりの整ったお顔になっている。

 ややつり目ガチの眼差しも、小さな唇も、すらっとした鼻筋も、形のいい眉も、バランスのいい輪郭も、全てがそっくり。デフォルトの表情で口角を上げているのは割とクールなだいとは少し違うけど、俺といたりみんなと楽しんでいる時の柔和な雰囲気を伝えてくるし、一言で言えば……マジでほんと可愛かった。

 リアルだいを知る俺だからこそ、その完成度に最早感動の域である。

 でも——


 ふと一つだけ明らかに本人と異なるところに気づき、俺はちらっとその部位を確認し、改めて一旦後方を振り返った。


「どう? 似てる?」


 そんな俺に、なかなか質問に答えないからか、だいが急かすように改めて同じことを尋ねてきたけど——


「ねぇ? 今何を確認したのかしら?」


 俺の視線の動きの変化に、だいが何かを察したのか、ニコッと微笑みながら恐ろしいほどの殺気が放たれて、俺は慌てて椅子の向きを回転させた。

 だがそこで引いては男ではない。

 そして俺はもう一度確認した〈Daikon〉と、本人との大きな違いを確信する。


 うん、やはり違う。


 そう、それは似ているお顔よりも下の部分。

 中の人には大きな二山があるけれど、画面の中の〈Daikon〉には目立ったそれが見られなかった。


「ちょっと——」


 どこを確認したか気付いただいの声に、少しだけ怒るような雰囲気が込められたが、俺は——


「めっちゃ可愛いなっ!!!」

「わっ!? きゅ、急におっきな声出さないでよ?」

「超可愛いっ! リアルだいっ!」


 そんな違いはどうでもいい。

 再びクルッとだいの方に向きを変えた俺は、だいに向かってこれでもかとその可愛さを褒め称えた。

 そのテンションが予想外だったのか、だいはビクッとした後、可愛らしく恨めしげに俺に上目遣いの睨みを送ってきたけど、そんなことは気にせず、俺はだいに笑いかけた。


「いや、マジでだいじゃんっ。可愛すぎるっ」

「え、で、でも……ちょっと可愛すぎないかな?」

「いやいや! 本物はもっと可愛いから。舐めんな。でも、このだいもマジ可愛いっ」

「わ、分かったって……」


 似てない部分もないわけじゃないが、ほとんどのプレイヤーが見るのはキャラクターの顔であって、その点についてはマジでそっくりとしか言いようがなかった。

 しかしこの精巧さ……自分の写真見ながら作ったのだろうか? しかし俺が合流するまでそこまで時間が多かったわけでもないだろうし、きっとこの街に来てすぐにこのNPCを探し出し、設定を行ったのだろう。

 たしかに以前ボイチャ推奨環境になるから、声とキャラクターのイメージを一致させるため、キャラクター変身アイテムが実装されるとは聞いてたけど……まさかここまでだいがそれに本気だったとは、正直嬉しい誤算、脱帽だ。

 このだいと組めばそれこそマジでオンでもLAデート状態じゃん? え、何それ最高か。

 さらに大会用に亜衣菜セシルとも組めば……文字通り両手に花。ハーレムパーティ完成だ。


「効果時間は168時間で、1個30万リブラだって」

「たっかっ!!」


 え、そんな見た目だけのアイテムにそんなお金かけるの!?

 可愛さにかかる費用いかついな!?


 今度はその金額に、正直俺は驚きを隠せなかったのが——


「とりあえず10個分買ったよ。それに30万なら、色々防具作って売ればすぐ稼げる金額だし——」

「——いや、たけぇよっ。俺の所持金の1%だぞ?」

「私、億持ってるもん」

「え、そんないってたの!?」


 まさか、何という富豪。

 いつの間にかそんな大金を所有していただいに、俺はまたまた驚きを隠せなかった。


 ちなみにあれな?

 現状のバザールで買える装備の相場で、100万すれば十分高額装備なんだぞ?

 低スキルの頃の装備なんか1万あればお釣りが出るレベルで揃うんだぞ?

 たしか去年だかの調査で、全プレイヤーの平均所持金が890万リブラっていつだかの『月間MMO』に載ってたから、30万は高すぎるってわけではないが、安いアイテムではないのもお分かり頂けたのではないだろうか?

 ほんともう、流石だよ菜月ちゃん……!


「じゃあお披露目もできたし、ちょっと外出て敵と戦ってみよ?」

「え、あ、ああ。うん、そうだな。そこが今回の最大の変化だもんな」


 だが、驚く俺をよそにだいは俺を驚かせられて満足なのだろう、晴れやかな表情でそう提案してきて、〈Daikon〉を〈Zero〉の隣に立たせてきた。

 〈Zero〉の隣に立つ新〈Daikon〉だいの姿は、マジでLAの中でもデートしているようで、俺は思わずニヤけてしまう。

 相棒から恋人へ、見事な大変身。

 なんか、隣に立つのが金髪の男キャラから黒髪清楚な美少女キャラになるだけで、何ともこっちのやる気が変わるもんですな!

 

「後でゆっきーにも教えてあげなきゃ」

「え」

「ぴょんも話したら、面白がってやるかもよ?」

「それはちょっと、想像出来るな」


 もし【Teachers】のみんながリアルに合わせたら、なんと女性だらけのギルドになることだろう。

 ……いや、実際オフ会はそうなってんだけど。


「ま、好きにやるのが1番か」

「うん。後で亜衣菜さんにも見せてあげなきゃ」

「あいつも俺と同じ反応すんじゃねーかなー」

「〈Cecil〉の可愛さには敵わないけどね」

「いや、俺にはだいの方が可愛く見える」

あーちゃん〈Earth〉だって見た目可愛いじゃない?」

「あれは中身がダウト」


 と、〈Zero〉はLAの中では〈Daikon〉と共に、リアルではだいとこんな何気ない会話をしながら、マップを見ながら街の外へと至るエリアを目指して進み出す。

 元々だいと一緒なら何でも出来る気がしたけど、今日はその気持ちが百万倍。


 そんなこんなの夜更かし上等な午前1時13分。

 俺たちはメンズパーティから男女カップルパーティへと装いを新たにし、いざ新天地の冒険をスタートさせるのだった。

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