第519話 彼女が最初にやりたかったこと
〈Yakob〉『お、被ったかw』
〈Zero〉『おっす。いやぁ、だいに20分先をいかれたよ』
〈Yakob〉『奇遇だな、俺も
〈Zero〉『そりゃ君は天下の【Mocomococlub】幹部じゃん?、遅れたらダメだろ^^』
〈Yakob〉『回線はどうにもなんねーだろwww』
だいから遅れること15分、ようやく新たな進化を遂げたLAの世界に降り立つことが出来た俺は、速攻で中央都市コンフォルセに移動して、だいに教えてもらった船に乗り込み、その中で旧友に遭遇した。
他にも船の中には知った顔がちらほらいたが、確認すれば現在サーバー内のログインユーザーは1000人弱で、そのうちの100人ほどが今俺と同じ船に乗っているようだ。
きっと他の900人の大部分は俺より先にダウンロードを終えて既に新たなエリアに入ったのだろう。
少なくとも、亜衣菜やルチアーノさんといったフレンドリストにいる【Vinchitore】の幹部の方々は予想通り全員いるみたいだし、ここから始まる検証ラッシュにどんな気持ちでいるんだろうな。
ちなみに【Teachers】もだいと俺以外にも、ジャック、ゆめ、ロキロキがログインしてるようである。ただみんな色んなネタバレを避けるためか、ギルドチャットに挨拶こそあったものの、楽しみだねー、程度の会話しかせず、ほとんどみんな無言状態。まぁなんだかんだ今ログインしている5人は【Teachers】の誇るガチゲーマー5人だからな。
もちろん誰かが話を切り出したらみんな話し出すのかもしれないけど、この無言からなんとなく、みんなのワクワクも伝わった。
〈Reppy〉『おっすおっすー』
〈Zero〉『うい』
そしてヤコブと話している間に、また船内に新たな既知が現れる。
こいつの性格を考えるに、間違いなく今日という日を楽しみにしていたのは明白だ。
〈Reppy〉『しっかし今回も魔王は実装されなかったかー』
〈Zero〉『そういやそんな設定だったなこれw』
〈Reppy〉『ほんと、魔王が実装されたら可愛すぎる俺が捕まえられんじゃねーかといつもヒヤヒヤしてんのに』
〈Zero〉『そいつぁ魔王もなかなかいい趣味してんなw』
〈Reppy〉『そりゃ魔王だからな。いっそPvP実装なら、最終的に魔王軍対人間軍の超対戦イベントでもやんねーかなー』
〈Zero〉『何それちょっと面白そう』
〈Reppy〉『だろ?で、そんときゃ一緒に第三勢力やろうぜw』
〈Zero〉『まさかの?w』
〈Reppy〉『型にハマったって面白くねーだろw』
で、そんな浮かれ具合からレッピーと妄想力豊かな会話をしたりもしたけれど、このゲームは実際サービス開始期からずっと、最終的には魔王を倒すのが目的だとは言われている。
ただ魔王はおろか、その配下が登場するとかそんな展開さえまだ実装されておらず、前回は恐竜、その前は空のワシ、その前は海のサメと、魔王の魔力を感じる云々という説明だけされただけで、LAのメインストーリーにおいても全く魔王と繋がる話は進んでいない。
実際一部のLAプレイヤーたちの中で魔王は実装されないとか、俺たちのイメージの中に存在するとか、そんなネタキャラ扱いされてたりもするのである。
レッピーも拡張データが配信される度、魔王いじりネタをこうして俺に披露してくる奴ではあるのだが……たしかに将来的に、超大規模なPvPとかあったらそれはそれで楽しそう。
まぁほんと、ただの妄想に過ぎないけど——
「あ、やっと船乗れたんだね」
「お、気づいたか」
「うん。新しいBGMだし。海の景色も綺麗だったよ。けっこう釣りしてる人も多かった」
「ほー。じゃあ甲板出てみるわ」
「うん。船が着いたら、私のことパーティ誘って、マップ見て私のいるとこ来てね」
「ん? おお。ストーリーの起点NPCでもいたか?」
「んー、内緒」
そんなレッピーとのふざけた会話からあれこれ妄想していると、いつの間にか船が出航の時間を迎えたようで、俺のPCから流れるBGMが切り替わった。
その変化にずっと無言だっただいが反応し、何やら私のとこに来いとの指示を受けたが、何だろう?
まぁたぶん何らかのストーリーかクエストか、チュートリアルしてくれるNPCか、そこらへんだと思うけど。
とりあえず内緒と言われたからには、着いてからのお楽しみということにしよう。
そんなこんなで、俺は〈Zero〉を動かし甲板に上がると——
「おおっ、海綺麗だなー」
「でしょ」
そこには日の光を反射させる透き通るようなコバルトブルーの海と、船の航行に伴い生じる白い波の景色が待っていた。
広い外洋を進んでいるのか、航行中の船からは他の島などは何も見えず、ただただだだっ広い海が広がっているのだが、それは正直、圧巻の光景だった。
そんな光景の中、様々な格好をした冒険者を運ぶ船。
現実だったら、相当不思議な光景に違いない。
そんな光景の中、船に揺られること、リアルタイムでおおよそ10分——
「おおっ」
辿り着いた街は、全体的に石造りの、古代ローマを彷彿とさせる街並みだった。
船を降りた港からでも、街の中心部に巨大な円形の建物が見え、おそらくそれがこの街のシンボルのコロセッウムだろう。
何というか、RPG系のゲームの中なら必ず出てくるような、そんな街。
ここが俺たちの新たな冒険の地。
よし、じゃあ早速探索だ——じゃなかった。
「着いた?」
「おう」
ちょうどだいから言われたことを思い出したところ、本人からも声をかけられて、俺はだいにパーティの誘いを送る。
そしてだいとの二人パーティを組んだところで、マップを確認しだいの位置を確認する。
どうやら街の東南部か。
到着した港が街の西側だったから、割と移動が必要だな。
俺は色々と気になるまだ見ぬ街を駆け抜けることに若干の抵抗を覚えながら、まだまだ走り回る人の少ない街を駆け抜け、リアルタイム1分半ほどで小さな露店の前に辿り着き——
「見ててね」
「へ?」
割と人だかりが出来ていた露店の中にだいもいて、俺がその前に着いた瞬間——
「いくよ」
「はい?」
と、わけの分からないことを言われた直後——
〈Daikon〉はトランスポーションを使用した。
とのログが現れて——
「えっ!?」
まさかの光景に、俺は驚きの声をあげたのだった。
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