第493話 一流同士の通じ合い

〈Zero〉『って感じだな』

〈Cecil〉『ふむふむ』

〈Cecil〉『装備は移動速度ベース?』

〈Zero〉『ああ。ただ空砲使用時はヘイト上昇重視』

〈Cecil〉『なるほど、マラソン役じゃなくてマラソン盾ってことか』

〈Zero〉『だな』

〈Cecil〉『見てもいいかな?』

〈Zero〉『いいよ。着替える』

〈Zero〉『どうぞ』

〈Cecil〉『なるほど、ありがとっ』

〈Zero〉『うん。あと1番大事なのは』

〈Cecil〉『体感で射程把握?』

〈Zero〉『空砲の射程を・・・正解』

〈Cecil〉『攻撃スキルの距離感が染み付いてるからなー。言うのはいいけど、やるのは骨が折れるなー』

〈Zero〉『慣れればいけるさ』


 久々の会話のきっかけとなった質問は、ガンナーを真剣にやっている者だからこそ出てくる言葉だった。

 だから亜衣菜の質問の意図は、分からない者には分からなかったと思う。

 だが当然俺は違う。

 自分で言うのもなんだが、大袈裟に言えばガンナーに命をかけてるからこそ、亜衣菜の聞きたいことがよく分かった。

 だからこそ俺は真摯に質問に答えた。

 時折亜衣菜以外の相槌も聞こえたのだが、割と相槌を打ってくれていたのは名の知れたプレイヤーが多かったと思う。

 その事実が自分のことを少し誇らしく思わせてくれたけど、いかにガンナーの空砲がほとんどのプレイヤーに無視されてきたのかも伝わって、改めてLAの中にガンナーガチ勢が少ないのかが判明してしまった。

 いや、亜衣菜もあまり理解してなかったんだから、それを他の人にも求めるのは酷ってもんか。

 って、なんか俺の自惚れがインフレしてるみたいだな。


 とかとか、そんなことを一人思っていると——


「うまく話せたみたいだね」

「え? あー。うん、そうだな。普通にガンナーの質問だったしな。……ゆめとかぴょんからどんな話してるのか聞いたのか?」

「ううん、二人とも2周目の挑戦に行ってるし、ずっとカタカタキーボード叩いてるから、そうだろうって思っただけ」

「あー……なるほど」

「うん」


 背中から声が聞こえたので、俺がキィと椅子を回転させて振り返ると、だいが嬉しそう、とは違う気がするが、真顔というわけではなく、どちらかといえば肯定的な表情を浮かべてくれていた。

 その表情は俺が異性と会話しているのに何かを思っている、なんて気配は一切なく、亜衣菜との関係修復が進んだことにホッとするような、そんな様子、なんだと思う。


「でも亜衣菜の師匠とか思われるのは正直勘弁して欲しいなー」


 とりあえず、さっきみたいにだいに何か思われたこともなさそうだったから、俺は苦笑いしながら周囲のノリについてだいにぼやいてみたが——


「亜衣菜……の師匠」


 俺の発言を一つ切り出して、その言葉を口の中で転がすようにだいは何か少し考え込む様子を見せてきた。

 そりゃそうだよな、だいだって当然ピンとくることなんかないだろう。

 なんたって——


「なんか周りの人がそんな風に言ってくるんだよ。それも知らない人がだぜ? 勘弁してくれって思うよなぁ……」

「え……あ、うんと、でもさ、今だけじゃなくて、一番最初、亜衣菜さんがガンナー始めた時は色々教えたりしたんじゃないの?」

「いやいや。あいつグラップラーだと思ってたのに、気付いたらガンナーなってたんだぞ? そりゃガンナー鍛え出したって分かってからは装備の相談とか、マクロについて一緒に考えたりはあったけどさ、ガンナーの動きについて教えを求められたことなんか一回もなかったよ。なんつーか、あいつは根っからのゲーマーで、基本勝手に成長する奴なんだよな」


 そう。亜衣菜が今回みたいに、俺に何かを聞いてきたりしたことなんか、今までなかったのだから。

 だからだいも信じてない感じがあったが、俺が師匠なんてことはない。

 全くもって濡れ衣な言葉なのである。


「そうなんだ」

「うん。まぁ俺もあいつに質問とかしたことないけどさ」

「プライドは似てるんだね」

「あー……まぁ、そうだな。ガンナーに関してだけは、そうかも」

「ふーん……」


 と、ここまで話してだいの目線がPCに戻ったから、俺も椅子を回してモニターのログの進展を確認する。

 そこには——


〈Cecil〉『師匠ありがとだぜ☆必ずタイム更新してみせるから、待っててね^^』


 なんてログがあって、周囲の奴らが「負けず嫌い可愛い」だの「煽ってるwww」だの「セシル頑張れ」だの、そんなログが続いていた。少数ながら「師匠かっけぇ」だの「勉強なる」ってログもあったけど。


〈Zero〉『頑張って』


 そんなログたちを見ながら、俺は簡単に亜衣菜に答える。

 最後に伝えたのはそれだけで、それ以上深入りした話はしたりしない。

 それはおそらく、俺だけじゃなく、亜衣菜も望んでいないところだろうから。


 そしてこの後亜衣菜がちょっと練習してから挑戦すると言い残してエリアから去っていき、〈Cecil〉がいなくなったことを惜しむ奴らのログに俺は少し苦笑いしつつ、ロキロキと改めてあーすをいれての戦術を話し合ってみて、いざ実戦へと挑んでみた。


 だがまぁ、やはりと言うかなんと言うか、あーすの与ダメの低さや命中精度の低さや火力不足が顕著に現れ、途中でロキロキのMPがどうしても枯渇していく状況への対処は困難を極めた。

 そして他のギルドメンバーたちの挑戦によってゆめやぴょんが欲しい装備を手に入れることに成功する中、俺たちは3回目の挑戦を終えた23時20分頃、未勝利という結果にあーす以上に悔しがるロキロキを俺が慰めつつ、その日の挑戦を終えるのだった。

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