第492話 交わる言葉

 ゲーム内で、何で来たのとか、そんなこと聞く奴いる!?


 表示されたログに俺は震える。

 

 冗談で聞くならまだしも、それをガチで聞くとか正直嘘だろって思うのに、それがゆきむらによる発言だと言われれば、彼女の人となりを知る俺はその発言を受け入れざるを得ない。

 とはいえ、彼女を知らない者からすればどうか? それを言われた奴がどう思うのか、第三者がどう受け取るか、当然そこに大きな不安はある。

 それこそ今度はゆきむらが集中砲火で叩かれてもおかしくない、そんな発言をしてしまった、のだが——


〈Cecil〉『あ、ゆっきーいるんだね!久しぶり!でも何で来たとか、辛辣だなーw』

〈Yukimura〉『いえ、どうしてここにきたんですか、ですよ』

〈Yakob〉『細か!w』

〈Cecil〉『相変わらず面白いなーw』


 俺の想像に反して『誰?』とか『【Teachers】の人だよな』とか、そんなオープンチャットが少し行われたあと、セシルの会話相手がゆきむらになったことに気付いた皆が、その会話の流れを見守りだす。

 ほんと、完全に今この場はセシルの独壇場らしい。

 むしろこの状況下でセシルと堂々と話せるゆきむらに脱帽だ。


 だが——


〈Cecil〉『私がソロで来てること気づいちゃった感じ?』

〈Yukimura〉『はい』

〈Cecil〉『よく見てるねーw』

〈Yukimura〉『はい』

〈Gen〉『ゆっきー淡白だなw』(※緑色)

〈Cecil〉『みんなとのお話が終わったら聞くつもりだったんだけど』

〈Yukimura〉『むむ?』(※緑色)

〈Cecil〉『実はね、みんなの言葉借りたら、師匠にちょっと質問に来たんだ☆』

〈Yukimura〉『師匠?』

〈Cecil〉『ゆっきーのギルドにいる、話題の凄腕ガンナーさんだよ☆』


 この発言でセシルの独壇場、そうとも言えた空気が、変わる。


〈Doravi〉『え、ガチ!?』

〈Hansam〉『でもわざわざ会いに来て質問とか・・・ガチ?』

〈Exelile〉『やっぱ師匠なのか!!』

〈Foxfox〉『公式認定!w』

〈Integral〉『セシル様に御足労かけるとは・・・』

〈Reppy〉『よっ、ガンナー師匠!』

〈Taro〉『すごいなーw』

〈Yakob〉『さすが我が友www』


 うるせえ! そう言いたいほどにさっきからずっと会話に参加してる人たちや、俺とセシルの関係を知らないフレンドたちが騒ぎ出す。

 だが、こうも名指しで呼ばれたら——


〈Senkan〉『倫くんご指名はいりまーす』

〈Zero〉『変な言い方すんなっ』

〈Daikon〉『む、どうかしたの?』

〈Yukimura〉『セシルさんがゼロさんに質問だそうです』

〈Jack〉『たぶん魂取りの動きについてだろねーーーー』

〈Jack〉『くもんから、リチャードがゼロやんの方がマラソン上手かったって言ってたって聞いたよーーーー』

〈Yume〉『お〜ゼロやんすごいんじゃ〜ん』

〈Gen〉『さすが師匠w』

〈Zero〉『いや、そりゃ作戦の発案者だし、リチャードさんとやる前レッピーともやってたわけだし』

〈Senkan〉『ま、とりあえず流れに乗って会話入れよ。さすがに待たせすぎると変な流れなるだろこれ』

〈Zero〉『あー・・・うん、わかった』

「大丈夫?」

「うん、大丈夫、大丈夫。普通に話すさ」


 大和の指摘にあったよう、俺が会話に参加するのは避けられない雰囲気が流れ出し、リアルでだいの少しだけ心配そうな声が聞こえてくる。

 それに、ここまでのあいつの様子を見れば、本当にただの質問って可能性は高いだろう。

 正直それなら個別チャットでもいいと思うんだけど……まぁ色々あったからな。

 とりあえずそこは置いとこう。


 ってことで——


〈Zero〉『俺に答えられることなら、どうぞ』


 ただでさえ昔変な炎上をさせられたのだから、今回は変な関係だと思われないように言葉を選び、俺はセシルに応答する。

 直接話すのはいつぶりだろう。

 だからこそ、丁寧な言葉を意識したのに——


〈Exelile〉『これはクール系スパルタ師匠の気配!』

〈Gaz〉『誰にでも丁寧だけど実はってやつか!』

〈Reppy〉『ゼロさんこわーい^^』

〈Taro〉『こわーい^^』

〈Zero〉『やかましいっ』


 オープンチャットでやたら賑やかな人たちのリアクションから、フレンド悪友たちが調子に乗る。

 本来ならタロさんには敬語使うとこなのに、今ばかりはタメ口でも仕方あるまい。

 そんなやりとりを挟みつつ。


〈Cecil〉『さすが人気者だなーw』

〈Zero〉『そんなことはない』

〈Cecil〉『あははwそいで、質問なんだけど、みんなにも聞かせてもらっても大丈夫?』

〈Zero〉『ガンナーに関することで隠すことなんか、何もないから大丈夫だよ』

〈Foxfox〉『カッケぇ・・・』

〈Yakob〉『これはみんなの師匠w』

〈Zero〉『いちいち茶化さんでくれ・・・』

〈Yukimura〉『ゼロさん大人気ですね』(※緑色)

〈Zero〉『ゆきむらも茶化すでない』(※白文字)

〈Zero〉『ミス!』(※白文字)

〈Doravi〉『え、弟子多くね?』

〈Gen〉『ゆっきー弟子だったのかw』(※緑色)

〈Yukimura〉『むむ?』(※緑色)

〈Yukimura〉『むむ?』(※白色)

〈Yume〉『2回言ってる〜w』(※緑色)

〈Zero〉『ゆきむら、今は静かにしててくれ』(※白色)

〈Yukimura〉『はい』(※白色)

〈Cecil〉『仲良いなーw』


 ゆきむらのおかげで、話が全く本題に進まなくなるっていうね!

 ちょっと前まで炎上不可避みたいな空気を感じてたのに、天然ってすげぇな……。


 と、俺が色々と諦めてきていたら——


〈Cecil〉『それでさ、マラソンの時の動きなんだけど』


 さらっと空気を戻したログが現れて——


〈Cecil〉『何秒後を意識して引っ張ってる?』


 ああ、やっぱり亜衣菜は亜衣菜だった。


 尋ねられたその文字に、俺は安心を覚えるとともに、モニターの前で小さく笑うのだった。


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