第489話 噂は声を呼ぶ

〈Gen〉『じゃ、検討を祈る!w』

〈Jack〉『強くなろうねーーーーw』


 21時17分、だいと真実を除く9人の【Teachers】メンバーが、人混みができている薄暗い洞穴に集まった。

 そしてそこで俺たちは予定通りの小編成へと分散する。


〈Loki〉『よろしくお願いしますっ』

〈Earth〉『よろしくね☆』

〈Zero〉『おーう。しかしこのメンツのパーティったら初だな』

〈Earth〉『だね☆初体験☆』

〈Zero〉『キモい言い方すんなっ』

〈Earth〉『えー、つれないなー?』

〈Loki〉『仲良いっすよねホントw』

〈Earth〉『YESだよ☆』

〈Zero〉『普通です』


 ロキロキの誘いに応えて組まれたパーティは、ガチ勢のロキロキとまったり勢のあーすという両極端な二人とのパーティで、これまでにない組み合わせだったのは言うまでもない。

 とはいえ、なんだかんだあーすだってキングサウルス討伐の時、盾の時はまだしも弓使ってる時は言われたことはできてたし、意外となんとかなるかもという淡い期待はちょっとだけあった。

 ロキロキは言うまでもなく一流だしな。

 さて。


〈Zero〉『ロキロキは【Vinchitore】の動画は見たか?』


 と、俺が分かりきってる質問を投げかけると。


〈Loki〉『もちっすよ!10回以上見てますし、くもんさんの動きは完璧に覚えたっす!』

〈Earth〉『そんな見たのー?』

〈Zero〉『ほんとくもんさんのこと大好きだなー』

〈Loki〉『へへw』


 予想以上のやる気のある答えが返ってきて、俺の安心感が増加する。

 そうなれば、信頼度はだいと同等、つまり俺もある程度無理が効く。

 そう思って、あーすの動きについて改めて考えようとしたところ——


〈Loki〉『でもくもんさん、リチャさん、セシルさんって豪華メンバーで4分っすよね。ゼロさんたち早過ぎないすか?』


 攻略タイムについての質問がロキロキからやってくる。

 くもんさんたちの動画は俺も見たが、そういえばクリアタイムはたしかに俺とだいとリチャードさんでやった時の方が早かった。

 30秒の差なんて誤差レベルだが、50%切るまでも、50%切ってからも、わずかに俺たちの攻略の方が早かったのは事実だ。


〈Zero〉『あー、まぁ俺とだいは3回目のトライだったから、流れが分かってたからじゃねーかな』

〈Zero〉『慣れれば、そのメンツのが絶対早いさ』


 だが、決して俺は俺たちの方が強いからなんて自惚れたりはしない。

 動画の動きを見るに、タイム差の要因があったのは、おそらくガンナーの差だったのだから。

 そしておそらく動画の上のガンナーは、投稿された動画が1回目の挑戦だったと思われた。なぜならあいつにしては、だいぶ手間取ってる様子が見えたから。

 とはいえ、後半戦のサドンリーデスは一発で正確に的中させ3万ダメージを叩き出してたから、その腕が衰えたなんてことは決してない。

 つまり、マラソン含めて何回も挑戦してた俺に、単純な一日の長があっただけなのだ。

 そんな理由に気付けば、俺たちの攻略の方が早かったなど、何の自慢になるだろう。

 それに。


〈Zero〉『とはいえ今回はリチャードさんの枠があーすだからなー』


 同じ動きをしたところで、そう簡単に勝てるとも思えないメンバーの差が、今回はあるのだから。


〈Zero〉『比べるのも可哀想というか失礼というかおこがましいというか』

〈Zero〉『真逆過ぎんだよなー』


 そんなあーすとリチャードさんを比べるという、無慈悲なことを俺が口にすると——


〈Loki〉『でも逆に、火力が低いけど離れて攻撃出来る利点を活かして攻撃頻度を上げるとか』

〈Zero〉『あー、そうか。それはありだな』

〈Loki〉『立ち位置をどうするっすかね』

〈Zero〉『だな。ちょっと考えるから、とりあえずあーすはLACのサイトいって魂取りのページ見て勉強してこい』

〈Earth〉『えー、教えてくんないのー?』

〈Zero〉『質問は答える。ちゃんと見たらな!』


 ロキロキとあーすをどう機能させるかの話になったので、俺は全くもって分かってないあーすには予習するよう指示を出し、作戦会議をスタートしようと思った、のだが——


〈Yakob〉『おw話題の軍師殿じゃんw』

〈Taro〉『やこぶー、言葉が足りないよw話題の軍師にして正確無比なスナイパー様だよw』


 白い文字オープンチャットが不意に現れて、俺は〈Zero〉の向きを切り替えながら、その声たちの主である見覚えのある名前を探した。

 そして真後ろに振り返った時に。


〈Moco〉『やっほー。今日はギルド活動?ってだいはいないの?』


 更なる白文字が現れて、俺は無意識に背筋を伸ばさねばと、椅子に座る体勢を整えた。

 いや、もちろんそんなことをしても見えないし意味ないし、相手が求めてるわけじゃないことは分かってる。

 でもほら、やっぱり昔いた会社の上司みたいな? 色々教わって、お世話になった人なのは間違いない名前だったから、俺は思わずそんな動きをしてしまったわけである。


「どしたの?」

「いや、もこさんが声かけてきた」

「あら。今日は体調大丈夫そう?」

「あ、そっか。どうだろ、聞いてみる」


〈Zero〉『もこさんお久しぶりです。お元気ですか?』

〈Zero〉『だいは今日は別チームですけど、インはしてますよ』

〈Zero〉『で、やこぶとタロさんは変な呼び方やめてくださいって』

〈Moco〉『おかげさまで順調に元気だよー』

〈Yakob〉『俺だけ呼び捨てw』

〈Taro〉『変な呼び方って、ネット界隈で言われてる呼び方なだけだよーw』

〈Zero〉『へ?』

 

 で、俺の質問を察したもこさんは、俺とだいの知りたいことを答えてくれたのだが、その後に返ってきたタロさんの言葉に、俺は思わず問い返す。

 すると。


〈Loki〉『もこさんとタロさんって、【Mocomococlub】のリーダーとサブリーダーっすよね!ゼロさんすごいっすね!』


 ややこしいが、今度は青色のパーティチャットが入ってきて、俺が今話した人たちに驚くロキロキの姿が現れる。


〈Zero〉『なんすかネット界隈って?』(※白色)

〈Zero〉『昔の知り合いなだけだよ』(※青色)


 おかげで俺のチャットはかなり面倒なことになったが、止むを得まい。


〈Taro〉『LACの掲示板で前に新ギミック発見したのもゼロやんだって書き込みあって、そっから一部界隈で話題なってんだよーw』

〈Yakob〉『フレンドとして鼻が高いな!』

〈Zero〉『いやいや・・・』(※白色)

〈Loki〉『そんな話題の人が、オープンチャットして目立たないっすかね・・・?』(※青色)

〈Zero〉『あ』(※青色)


 そんなロキロキの発言があった、直後——


〈Doravi〉『最強ガンナーはセシルに決まってんだろうが調子乗んなよ!!』

〈Exelile〉『おいおい、ゼロさんは実力だけじゃなく作戦立案能力もある人だぜ?セシルより格上に決まってんだろ?』

〈Foxfox〉『いつぞやセシルも一目置いてる感じだったもんなぁ。たしかに上位存在の可能性あるか?』

〈Gaz〉『いやでもセシルには可愛さがあるw』

〈Hansam〉『でももう割とオワコンじゃね?w』

〈Integral〉『は?てめぇセシル様に対して何ふざけたこと言ってんだ不細工が!!』

〈Jeft〉『はいはいオープンチャットで喧嘩はうぜーからやめよーなー』

〈Loki〉『なんか治安悪くなってきたっすね・・・』(※青色)


 オープンチャット上でかなりイライラさせられる会話が展開され、ロキロキが不安そうな様子を見せた。

 幸いというかなんというか、ギルドチャットには何も反応がないから、既に他のメンバーはコンテンツに突入しているのだろう。

 しかし、ふむ。


 俺が一喝したところで、果たしてこの流れが収まるだろうか?

 顎に手を当てながらそう考えて、俺は脳内で首を振る。

 今俺がこの流れに参加するのは、これが適切な表現か分からないが、ログを見る限りゼロ派の人はよくてもセシル派の人の神経を逆撫でしかねない。


〈Yakob〉>〈Zero〉『わりい!なんか変な流れなっちまったな・・・』

〈Zero〉>〈Yakob〉『あー・・・うむ』

 

 さてどうしたものか、まだまだオープンチャットでの言い合いが続く中、ヤコブから謝罪のメッセージが送られてくる中、俺は対応を考え込む。

 そんな時、一人のログが現れる。

 そう、それは——


〈Cecil〉『あれあれー?なんかみんな、喧嘩してるー?喧嘩はダメだぞっ☆』


 完全無欠にばっちりなタイミングであらわれた、俺ではない方の、もう一人の渦中の人物なわけだった。

 しかしどう考えたって上手く転ぶ予感のないその言葉に、俺はなんだか嫌な予感を覚えるのだった。

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